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☆無作為という行為が作為的であるように、不規則とは常に規則の中に内包されているものなのだ。
  それ、即ち"テクノ"である。



2017-05-11

くらもちふさこ『花に染む』が完結!

最近じゃあコミックなんかの情報を積極的に追いかけなくなってしまったので、ふらりと寄った書店でいきなり新刊に出くわしたりするが多い。この『花に染む』もそうで、いつのまにやら第8巻で、いつのまにやら完結していた。実は、実際に買ったのは今年の1月頃だったのだが、ちょいと多忙で、つい最近ようやく読み終わったという次第。

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この作品は、そもそもが『駅から5分』というパラレルなストーリを持つ、ちょっと変わった作品のスピンオフで、突然『駅から〜』の連載が中断となり、それに取って代わったのがこの作品ということになる。まあ、母屋が乗っ取られたようなもんだが、『駅から〜』のとある場面が『花に染む』にひょっこりと顔を出すことがあったりして、そんな場面に出くわすと、おもわずにやりとしてしまうのだ。ところでこの作品、なんでも、今年の手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞したそうだが、審査員の誰かが「読み手を選ぶ」みたいなことを書いていた。この、読み手を選ぶとはどういうことなんだろう? それは、作品が読み手に対して、ある程度の読解力を要求することだと勝手に解釈している。実は、この、漫画を読解する力を養ってくれたのが、くらもち作品自体だったりする。高校生の頃出会った彼女の作品は、それまでのどの漫画よりも読解力を必要とした。例えば、彼女の多くの作品では、女性主人公が思いを寄せる男性は、ことごとくものを語らない。そればかりか、主人公ですら多くを語らない場合もある。結果、読者は、それ以外の情報を元に、主人公たちの感情を分析していくのだが、物語が難解であればあるほど、情報は膨大な量に達する。それらを元に、登場人物の、ちょっとした表情やしぐさをとって、それが何を意味するのかを非常に注意深く類推したりするのだ。それは、小説で言うところの、"行間を読む"という作業に似ているのかもしれないが、とにかく、そういった作業は必須で、普通の漫画のように、すらすらを読み進めることは絶対に出来ないのである。そんな中でも、この『花に染む』の主人公達は極めて無口である。その分、他の登場人物が饒舌かというと、全然そんなことはなく、要するに、読み解くのが非常に困難な作品であるといってもよい。特に、主人公"花乃"の"陽大"に対する思いが、恋愛なのか友情なのか、それともそれすらをも超越する存在なのかが非常に判り辛いので、その分感情の分析が難しい。更には、前述の通り、『駅から5分』との絡みもあったりするので、その度に"母屋"を引っ張り出して確認しなくてはならないのだ(別にしなくてもよいがw)。まあ、考えようによっては、そういった作品を読み解く作業こそが、くらもちファンにとっての至高の喜びなのだろう。最後になったが、この作品に収録されている「駅から5分 -last episode」をもって『駅から5分』も完結となる。壮大な物語、である。

2017-04-30

YesのSACD『海洋地形学の物語』を聴く

何故かわからないけど、世の中にはタイミングってのがあって、それがいつまで経ってもどうしても噛み合わないって事がよくある。そのなかのひとつが、いつかは買おう買おうと思っているのに、何故か買えずに、未だに持ってないアルバムってのがある。まあ、理由はいくつかあって、例えば、それが名盤とされるものよりも僅かに評価が低いアルバムで、なかなか踏ん切りがつかなかったり、2枚組で金額的にちょっと手が出しにくい、なんて実にケチ臭い理由だったりもする。また、若いころ、友達から借りたLPをカセットにダビングして死ぬほど聴いたんだけど、逆にそれで満足してしまったアルバムってのもある。実はビートルズ関連のアルバムも例外ではない。やっぱりポールの『レッド・ローズ・スピードウェイ』や『ラム』は超名盤で買いたいと思っている、が、持ってはいない、のである。

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さて、そんな中、Yesのアルバムで所有していないもののうちの一枚が、この『海洋地形学の物語』("Tales from Topographic Oceans" 1973)だった。買えなかった理由はいくつかあって、まあ、『危機』や『こわれもの』といった超名盤に比べれば評価が低いというのがある。これは、製作途中でリック・ウェイクマンが脱退してしまって、どうしても中途半端な印象を受けてしまうからだ。その原因の発端となったのは、リックの大作主義への反発と言われているが、他のメンバーは彼のアルコール依存症をその理由として挙げている。また、ドラムがビル・ブラッフォードからアラン・ホワイトに代わり、リズムサウンドががらりと変わってしまったというのもある。ただ、初めて観た動くYesが、NHKの"ヤング・ミュージック・ショー"で、そこで演奏されていたのが、このアルバムに収録されている「儀式」だったので、思い入れがないというわけではない。因みに、後に発売されたライブ・アルバム『イエス・ショウズ』にもこの時期の「儀式」が収録されていて、それが文句の付けようがないくらいカッコいいのだ。
さて、ではなぜ今、買うことになったのかといえば、それは、SACDが価格改定で再発されたからである。SACD、7インチ紙ジャケ仕様で2,800円(本作は2枚組3,600円、税抜き)なら、まずまずのお買い得価格だろう。今回はLP時代から一度もオリジナルを所有していないので(ダビングのみ)、これが初めての『海洋地形学…』となるので、従来のCD等との比較はできないことを予めお断りしておく。因みにこのSACDハイブリッド盤なので、SACDレイヤーを持っていない人でもCDレイヤー部分のみ再生できるのでご安心を。では早速行ってみよう!

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まず、紙ジャケの出来だが、これは7インチ(シングル盤と同じ大きさ)ジャケットで見た目は通常のプラケよりはいい。ただし、材質はペラ紙で、盤を収納・固定するのは7インチの円盤状の厚紙にプラのアダプターを付けただけの貧弱なもの…これは以前買ったジェフ・ベックの『ワイヤード』(ソニー)とほぼ同じだが、非常に扱いづらいので、改善が必要だろう…というか、やっぱり、7インチって中途半端で邪魔なだけかもしれない。本題の音質だが、やはりSACDは上品だなと思う。例えば、アラン・ホワイトのドラム。ティンバレスや片面タムをメインに使った非常にパーカッシヴなサウンドが特徴的だが、これがCDだと硬質的になりがちなんだが(手持ちの『リレイヤー』以降のアルバムでの感想)SACDではドラムの材質感がよく判るほど上品だ。これ、CDだと音の目の詰まった感が少ないんだよね。スカスカってわけじゃないけど、グシャっとした印象があって、まあ、そもそもパーカッション類を上品に録るってのは技術的に難しいんだけど、このパーカッシヴな…特に「儀式」におけるアランのドラムには、ちょっと感動してしまったな。しかし、SACDで最も評価されるべきポイントは、やはり圧倒的なまでの音の分離性能の良さだろう。特にYesのようにかなりの音数を誇る作品群では、それが遺憾なく発揮される。各楽器の音がはっきりと分離して聴こえることは、それがそのまま静の部分にまで影響を与える。音数が多くレベルが大きい、イコール、うるさいという事ではないのだ。そういう意味では、今まで聞いてきた、本作の前作にあたる『危機』も、次作にあたる『リレイヤー』も、恐らく"うるさい"のだ。そうして、それらのSACDを今聴いてみたいと思い始めている自分が、ここにいる。

2017-04-22

ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の50周年記念盤が発売に

ついにその全貌があきらかとなったビートルズサージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の50周年記念盤。例によって、様々な組み合わせで製品化されるのだが、ビートルマニアは迷うことなく、スーパー・デラックス・エディション(4CD+DVD+BD)の一択となるだろう。以下は公式にアナウンスされたその内容である。

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●【スーパー・デラックス(完全生産限定盤):UICY-78342 】(4SHM-CD+BD+DVD:6枚組のボックス・セット)

※DISC1(SHM-CD):1枚目のCDは、新たにステレオでミキシングされたアルバム。1CD(UICY-15602)と同内容。

※DISC2&3(SHM-CD):スタジオ・セッションでレコーディングされた33曲。ほとんどが未発表で、初めて4トラックのセッション・テープからミキシングしたもの。レコーディングの日付通りの曲順で収録。「ペニー・レイン」の新たなステレオ・ミックス、そして2015年ステレオ・ミックスした「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」も収録。

※DISC4(SHM-CD):アルバム・オリジナルのモノラル・ミックス、及び「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」と「ペニー・レイン」のシングル音源からダイレクト・トランスファーしたもの。キャピトル・レコードアメリカでのプロモーション用に制作したモノラル・シングル・ミックスの「ペニー・レイン」、「シーズ・リーヴィング・ホーム」、「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」、そして「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」の未発表の初期のモノラル・ミックス。(このミックスは、1967年にテープから消去されたと思われていたが、アニヴァーサリー・エディション用にアーカイヴを探した際に発見された)

※DISC5&6(BD&DVD):ジャイルズ・マーティンとサム・オケルの手によるアルバム、及び「ペニー・レイン」の新たな5.1サラウンドのオーディオ・ミックスと、同じく彼らが2015年に手がけた「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」の5.1サラウンド・ミックス。アルバムと「ペニー・レイン」の新たなステレオ・ミックスのハイレゾ音源と、2015年ステレオ・ミックスされた「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のハイレゾ音源。映像:「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」、「ペニー・レイン」そして「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のオリジナル・プロモーション・フィルムの4K復元版。及び、未発売のドキュメンタリー映画(1992年放映)の復元版。ドキュメンタリーではマッカートニー、ハリスン、そしてスターへの突っ込んだインタヴューがフィーチャーされている。また、ジョージ・マーティンがスタジオ内での様子を紹介。

※日本盤のみ英文解説の翻訳、歌詞対訳付

★日本盤のみスーパー・デラックス特典:『サージェント・ペパーズ』立版古:50周年記念エディション封入(一般販売されているものとはデザインが異なります)※立版古(読み:たてばんこ) :江戸時代錦絵のなかの「おもちゃ絵」のひとつとして広く楽しまれたもの。「立てる版古(錦絵)」という名の通り、錦絵を切って組立てて楽しむものだが、組み上げた時の想像以上の立体感、パノラマ感の驚き、楽しさはまさに立版古ならでは。盛んに親しまれていた江戸時代からのものも、現存するものは非常に少なく、まさに幻の存在となってしまっています。




このうち、内容的に食指が動かされるのはDisc-2と3かな。全て未発表音源だが、「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のようにブート盤で散々出回ったものもある。Disc-4はミックス違いの集大成的内容で、かなりマニア向け。Disc5と6はハイレゾ音源と映像だが、映像4K版なんぞは『1』の再発時に出ても良かったんじゃないかなとも思うが。一番気になるのは"音"そのものなんだが、とりあえずジャイルズ・マーティンの作業内容に興味はない。単に嫌いだからw だいたいDisc-1もそうだが、今更新たなミックス出されても、だから何?としか言いようがない。それでも買ってしまうのがビートルマニアのサガという奴だw

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2017-03-17

ECMの超名盤『THE KOLN CONCERT』『return to forever』『BRIGHT SIZE LIFE』が初のSACD化!

高校生の頃に行われたジェフ・ベック来日コンサート。その時帯同していたのは、ヤン・ハマーではなくスタンリー・クラークだった。当時はベーシストにスポットライトが当てられていた時代で、ルイス・ジョンソンジャコ・パストリアスと並んで人気があった。そのスタンリー・クラークが先か、チック・コリアが先か忘れてしまったが、"リターン・トゥ・フォーエヴァー"に辿り着いた。どうしてもその音を聴いてみたいという衝動に抗えず、なけなしの金を持ってバンドのギターと一緒にレコード屋へ行ったのだが、どのアルバムを買えばいいのかがさっぱり判らない。ただ、今では考えられないが、当時のレコード屋には試聴という荒業が存在していた。当時はアルバムがシールドされていなかったので、売り物のレコード盤を取り出して、頭の部分を少しだけ試聴できたのだ。試聴したのは2枚。予め調べておいたECMの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』(チックコリア名義)と、たまたま置いてあった『ノー・ミステリー』だ。最初に聴いたのは前者だったのだが、もう人を不安に陥れる要素しか見当たらない「Return to Forever」のイントロを聴いた瞬間、これじゃない…かな。一方後者は、(恐らく)当時の最新盤で、エレクトリックサウンドがメインで、音的に派手だった。2人で協議した結果、断然後者に軍配が上がる。まあ、まだ高校生だし、当然そうなるわなw しかし、今にして思うのだ。もし、現在のようにYouTubeなんかで全曲を聴いていたらどうだったのだろうと。そして、前者を買っていたら、何となく今とは違った音楽生活を送っていた様な気がしてならないのだ。そのアルバムは、数年後に出た『ザ・コンプリート・コンサート』(1977)を聴いてから遡って買ったと記憶している。

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今回のSACD化はタワーレコードの企画で実現したもの。当然ながら限定プレスとなっており販売タワレコのみ。今を逃すと、今後入手が困難となる可能性が大だ。しかし、このリイシューはその方面ではかなりの衝撃だったらしい。なにしろ、ECM創立者のマンフレート・アイヒャーは音源を厳しく管理しており、CD化の際のリマスターも本人が行い、以降リマスターは行われていないとのこと。まあ、SACDがマニアのものだからこそ、音質的な意味でECM方針と合致したのかもしれないが、音楽ファイルでのやりとりが一般化している今、いまだパッケージ販売が主流の日本でだからこそ実現したのだろう。
今回の3枚はそのどれもが名盤である。しかし、当時、一部のジャズファンからは、ジャズという範疇から逸脱した音楽と捉えられていたのも事実だ。したがって、今では考えられないような批判も多かったと聞く。しかし、これらの音楽は、後にクロスオーバーフュージョンと呼ばれるようになり、やがて大ブームを巻き起こした。この3枚はその歴史の始まりでもあるのだ。キース・ジャレットの『THE KOLN CONCERT』は全編即興によるピアノ演奏のライブ。当時のジャズ界を震撼させた。そのキースと、マイルス・デイビスのもとで席を同じくしたチック・コリアの『return to forever』は、後のバンド、"リターン・トゥ・フォーエヴァー"への礎となった作品だ。ジャズでは一般的でなかったローズを前面に押し出し、スタンリー・クラークの先進的なベースもアルバムの要となった。かなりポップな歌モノから、B面全部を使った大作までと、最後まで飽きることのないアルバムだ。パット・メセニー『BRIGHT SIZE LIFE』。初のソロアルバムで、発表当時はまだ21歳という若さだった。ジャコ・パストリアスの斬新なベースも作品の根幹を形作っている。メローサウンドにも通じる大量のリバーブが印象的だが、後年の作品よりはまだジャズ色が濃い。

前述の通り、この3枚は売り切れ必至の超貴重アイテムだ。後悔する前に買え!

2017-03-03

グレーン・ウイスキー初体験。サントリー『知多』を飲む。

普段よく飲むウイスキーの種類は?と問われれば、恐らく多くの人がブレンデッド・ウイスキーか、バーボンと答えるだろう。更にウイスキー好きなら、これにシングル・モルトなんかが加わるはずだ。もちろん、ウイスキーはこれだけじゃなく、数多くの種類が存在する。有名であるのにあまり飲んだことのないウイスキーの筆頭に挙げられるのが、何といっても"グレーン・ウイスキー"だろう。国産でも単体で販売されているものは非常に少ないし、取り扱っている店もそう多くはない。今回採り上げるサントリーの『知多』は、グレーンの中では一番新しいブランドで、発売当初から試してみたかったウイスキーである。とはいうものの、発売されたのは2015年の秋だから、かれこれ1年半が経ってしまった。

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ところで、この"グレーン・ウイスキー"とは一体なんなのか? まずはそこから説明せねばなるまい。このグレーンという文字は、ウイスキー好きなら必ず目にしていて、それはブレンデッド・ウイスキーの裏のラベルを見れば、必ず記載されているものだ。ブレンデッド・ウイスキーの本体となるのが"モルト"であるが、実はこれ単体で飲むには非常にくせが強い。それを飲みやすくするために使うのが"グレーン"で、平たく言えば、割り材の様なものなのである。割り材、と書くと、なんとなくウィスキーとしてはモルトより格が落ちるような印象を受けるし、事実、自分もそう感じていた。要するに、モルトのように、非常に洗練された技法を元に作られるものと違って、割り材に使われる単なる"安酒"というイメージがあったのだ。それは、原料が雑穀であることや、連続式蒸溜器を使う事や、熟成期間が短期間である事等に由来するものだ。しかし、考えてみれば、このグレーン単体で飲んだことは一度もなかったのだ! というわけで、この未知なるウイスキー『知多』をさっそく飲ってみよう! (※注)今回のこの『知多』は、裏のラベルを見ると、グレーンとモルトが併記されているが、これは原料に僅かながらモルトを使っているためで、厳密にはシングル・グレーンではないらしい。

まず特徴的なのはその色だ。非常に淡い飴色で、それがウイスキーと知らされなければ、まるで穀物酢のような色だ。とりあえず、テイスティンググラスに少量を注いで鼻を突っ込んでみる。瞬間、強烈なフルーティーテイストが鼻孔を刺激する。梨やりんごの類のそれだ。とにかく甘い香りで、アルコール臭を感じさせないほど。舌に滑らすと、非常に甘く滑らかな口当たりに驚く。とげとげしさが一切なく、ピリピリ感も全く感じない。のどごし辺りでようやくピリつく程度だ。舌にほのかな苦みが残るが、後、すっきりとした粉砂糖の様な甘みが残り、その香りが鼻孔の奥で持続する。正直、ストレートでもなんら違和感なく飲むことが可能であるが、シングルモルトと違って、何か掴みどころがない様に感じてしまうのも事実だ。
次にティースプーン一杯を加水してみる。モルトのように香りが開くような事はなく、多少、苦みと酸味が増す。舌のピリ付き感が強まり、ピール系の苦みを感じる。ここから徐々に加水していくと、極端に飲みやすくなる。香りは薄らぐが、甘みは変わらず、また、いわゆる腰砕けの様な感覚はない、というか、そもそも腰が存在しないのかもしれない。トワイスアップでは、甘さがメインとなる。これは、普通のウイスキーからはちょっと考えられないほどで、苦みや酸味も極端に薄れる。バーボンの様な焦がし樽を使っていないせいで、雑味や刺激臭も全くなく、極めてクリアな印象だ。これはまるで、非常に薄い水割りの様な感覚で、とてもトワイスアップという感じがしない。甘さは増す一方で、薄いはちみつやメイプルシロップの様で、後、薄いガムシロップの様な甘みが残る。今回、水割りは試さなかったが、恐らくその性質上、非常に軽い飲み口になるだろう。もちろん、ロックやハイボール、その他のカクテルでも楽しく飲めそうだが、せっかくだから、この稀有なるグレーンウイスキーと、とことん向かい合ってみたい。口当たりが良く甘いので、女性には断然お勧めだが、つい飲みすぎてしまう恐れがあるかも。それにしても、この『知多』、ずらりと並ぶウイスキー棚に常駐する可能性を秘めているかもしれない。今日はモルトじゃ重いかな〜?と思ったその日には『知多』を手に取ろう。

2017-02-03

松田聖子のSACD/CDハイブリッド盤を聴く〜『Touch Me, Seiko 』編

松本隆出世作といえば、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」だろう。歌詞の内容は今更説明するまでもないが、面白いのは、この歌詞を東京生まれの、しかも山の手育ちのお坊ちゃまが書いたというところだ。はっぴいえんどと良く比較されるサディスティック・ミカ・バンドの加藤和彦高橋幸宏山の手育ちだが、彼らが実にスマートな音楽展開を見せていたのに対し、はっぴいえんどバッファロー・スプリング・フィールドを標榜した、いかにも泥臭い音楽をやっていた。「木綿〜」的なアプローチが可能だった理由はこの辺りにあるのかもしれない。この物語の起点はもちろん"卒業"ということになり、内容的にはその後の物語である。そして、彼氏が都会へ旅立つという物語を、卒業という地点で凝縮したのが松田聖子の「制服」だろう。更に、同じ別れにしても、「制服」に於いてただ受け身でいただけの女性から、もう少し進化した状況が斉藤由貴「卒業」ということになる。ここで描かれるのは、泣くのは本当に悲しい瞬間だけと言い放つ、芯の強い女性像だ。ただ、彼が都会へ行って離れ離れになってしまうという状況は共通しているが、松田聖子の「制服」はちょいと片思い風な物語だ。当時、これほどの名曲がB面であることが信じ難く、この辺りが、そこいらのアイドルとは別格であることを強く印象付けた。

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『Touch Me, Seiko 』はご存知の通り、シングルのB面曲のみで構成されたベスト盤だ。B面なのにベスト盤ってのは、当時の松田聖子にしか出来ない企画だったに違いない。それは、人気という面だけでなく、楽曲のクオリティが相当高くなければならず、この両方を兼ね備えたアイドルは彼女しか存在しなかったのである。このアルバムはベスト盤であるが、以前このブログで紹介した『アーリー大瀧詠一』と同じく、シングルのマスターをかき集めてリマスターされたものである。少し説明させてもらうと、一般的なベスト盤(オムニバス盤)は、各曲のマスターを集めたのち、摺り合わせ(各曲間で異なった音質や音量を均す作業)が行われ、それをひとまとめにしたものが新たなマスターとなる。レコードをカッティングする際に、A面用、B面用と、ひとつのテープにする必要があるからだ。ただ、このマスターからリイシューを行えば、結果的にシングルマスターの第2世代を使う事となるわけで、音の新鮮味が失われてしまう(まあ、摺り合わせの作業が行われていれば、オリジナルとは異なった音と解釈する事もできるが…)。今回のSACDは、シングルのマスターをかき集めて(このプロジェクトで既にSACD化された曲を除く)それをそのままリマスターしてDSD化ている。このため世代的には第1世代からのリマスターとなる。ただし、音質的には有利だが、アルバム全体としての音的な統一感は失われる、が、逆に、そのシングルの方向性や、エンジニアの意図などを計り知ることができるというわけだ。

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さて、その第1世代のB面集を早速聴いてみよう。まずは、このアルバムが発売された当時の直近のシングルのB面、01.「SWEET MEMORIES」だ。当時、このシングルをA面で買った人も多いと思うが、実際は「ガラスの林檎」のB面である。サントリービールとのタイアップも相まって話題となり、両A面に昇格して爆発的にヒットした。まず思ったのは、圧倒的に鮮度が高い! 逆に言えば、もう少し暖色系の強いまん丸な音を想像していたのに、かなりソリッドで硬質な印象を受けた。ただ、尖った感じはしないのは各楽器のバランスがいいからだろう。英語詞のバックで流れるピアノは饒舌すぎず、極めて上品である。02.「TRUE LOVE 〜そっとくちづけて」は「青いサンゴ礁」のB面だ。Aメロ部分でのレガート気味な歌唱は松田聖子らしくなく、逆に新鮮でときめいてしまうほど。対してBメロでは聖子節全開でその対比が面白い。ここでのギターのミュート気味のカッティングがさりげないが小気味よい。05.「わがままな片想い」は「天国のキッス」のB面。曲は細野晴臣だが、細野、というより、当時のYMOサウンドそのものである。というのも、この曲は当時歌手としてYENレーベルからデビューした小池玉緒が歌う予定の「カナリヤ」という曲だったのだ。これは後に『YEN BOX Vol.2』に収録されたが、もちろん、オケもキーも違う(こちらのバージョンは小池本人が作詞らしい)。それにしても、YMOサウンドで歌う松田聖子はかなり無敵。そして、YMOのこの時期のサウンドが、実は非常にアナログ的だと再認識した。実は、YMOってデジタル臭があんまりしないんだな。

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07.「ボン・ボヤージュ」は呉田軽穂こと松任谷由実の作品だが、この曲も思っていたよりもソリッドな感じで、特にボーカルが硬質だ。しかし、いい意味で音場がこじんまりとしていて、曲調によく合っている。女の子が心細くて胸を痛めてるのに、野郎と来たらヘラヘラしやがってw 当時もなんとなく物悲しくて仕方のない曲だった記憶がある。09.「制服」は当時から非常に人気の高かった名曲だ。冒頭のピチカートが、意外と大げさに鳴ったのには驚いた。Cメロへと続く聖子のひとりハモリの分離性はSACDならではで鳥肌ものだ。それにしても、鮮度の高い第1世代のマスターをSACDで聴けるとは、長生きはするもんだ。若かったあの頃、この名曲に出会えたことに心から感謝したい。

2016-12-25

オムニバス盤『LET IT BE Black America Sings Lennon, McCartney and Harrison』を聴く

アメリカの黒人歌手によるビートルズのカバー集の第2弾が発売された。第1弾の出来がすごぶる良かったのだが、今回は"Harrison"が追加された事も相まって、いやが上にも期待感が高まる。ケース裏の曲目一覧を見ると、古くは1963年から最新は2009年とかなり長い期間からチョイスされている。ただ、最初に断っておくが、個人的に黒人歌手についてすごぶる詳しい知識があるわけではないので、主にビートルズマニアからの視点によるレビューとなる事を了解いただきたい。

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さて本題。まず、このアルバムに収録された曲は大きくふたつのタイプに別れる。まず、ビートルズの解釈そのもの、即ち、本質的な部分においてかなりオリジナル近いもの。そして、オリジナルとは大きくかけ離れた独自の解釈によるもの、という分類である。例えば、01.「Eleanor Rigby」はAretha Franklinによる歌唱だが、オリジナルがストリングスによるバッキングなのに対し、こちらはピアノを中心に据えたリズム重視で、歌われるのは貧困層の黒人達といったイメージだ。02.「Dear Prudence」は THE 5 STAIRSTEPS なるアーティストの曲だが、これはほぼオリジナル通りの演奏と歌唱となっている。03.「Got To Get You Into My Life」は Earth,Wind & Fireによるものだが、これは映画「Sgtペパーズ」のサントラに収録され大ヒットを記録した。この曲はリアルタイムで体験したが、当時ラジオなんかではガンガンにかかりまくっていた記憶がある。今回より追加された"Harrison"が、彼の手による作品というだけでなく、レノンマッカートニーによる曲だが彼の歌唱による、04.「Do You Want To Know A Secret」みたいな曲が含まれていたのはちょっとしたサプライズ。これはMary Wellsの歌唱だが、まったりとしてエロ可愛い。Fats Dominoの06.「Lovely Rita」はこのアルバムでの一番のお気に入りで、コミカルで飄々とした歌いっぷりは、思わず一緒に歌い出したくなるほど。

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09.「A World Without Love」はそもそもピーター&ゴ−ドンがオリジナルだが、それをThe Supremesがカバーしたもの。ピーター・アッシャーは、当時のポールの恋人ジェーンアッシャーの兄で、デビュー曲をポールが書いた。版権の関係上、作詞作曲はレノンマッカートニーで登録されているが、ビートルズの曲ではない。このスプリームス版はオリジナルに近いアレンジだ。Junior Parkerの10.「Tomorrow Never Knows」は、サイケデリック・ミュージックの最高峰であるオリジナルとは正反対の超ダウナー系。オリジナルが思いっきりハイなのに対し、こちらは鎮静剤打ちました…みたいなw こういう解釈があるからこそ、この手のアルバムは面白い! 12.「With A Little Help From My Friends」はThe Undisputed Truthという聞きなれないアーティスト。このカバーはオリジナルよりも、むしろジョー・コッカーのバージョンに近いし、歌い方も彼をかなり意識しているものと思える。Ike & Tina Turnerによる 14.「She Came In Through The Bathroom Window」は、この選曲自体がかなり珍しいが、もう完全に彼らだけの世界で、アレンジもホーンセクション全開でバリバリのファンク。性欲むき出しでかなりエロい歌いっぷりだ(SheをHeに変えている)。19.「In My Life」はBoyz II Menによるもので、収録曲中で一番最近の録音(2009年)だ。曲の解釈はオリジナル通り。こんな曲を彼らに歌わせたら、向かうところ敵無しなんだな…思わず涙。

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さて、"Harrison"作品で目を引くのがこのElla Fitzgeraldによる20.「Savoy Truffle」だろう。ただ、このアレンジはオリジナルにかなり近い。ジョージは本当はこんな感じで仕上げたかったのかなぁ。ただ、歌唱的な限界で、あんな風にボーカルやホーンをイコライジングして滅茶苦茶にしたのかもしれない…なんて妄想してしまう。オリジナルが秘めていた本来の力を彼女が解き放った、という感じだ。さて、本作中、一番の問題作?と言ってもいいかもしれないIsaac Hayesの21.「Something」。オリジナルは多くのカバー曲が存在することで有名だが、本作は11分45秒にも及ぶ超大作で、アレンジも緻密で奥が深い。曲の後半、もう終わるだろうと思いきや、なぜかヘイ・ジュード的な展開にw いったん宇宙まで持って行かれるが、やがて大気圏に再突入してフィドルが大爆発! ちょっとした「何か」でここまで世界観を広げてしまうとは、アイザック恐るべし。いや〜ホント、これだけ好き勝手にやりました的なカバーも珍しい。いいもん聴かせてもらいました。

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というわけで、今回の第2弾も大いに楽しめました。というか、ビートルズファンであれば、持っていて損はない名盤だと思います。曲も22曲と多いのでお買い得! もう、こうなると第3弾もやってもらって、その時はついでに、"Starkey"も追加でお願いします。