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イタロ・カルヴィーノ『マルコヴァルドさんの四季』(岩波少年文庫、2009年6月)

 あ、マルコヴァルドさん・・・。
 思わずつぶやいてしまって、あわててあたりを見まわした。同じ新着本コーナーを見ていた下級生の男の子が、ん? って顔してこっちを見てる。やばいやばい。図書室では静かにしましょう。
 でもね、なんか、なつかしかったんだ。ずっと前、っていっても4年くらいまえのことかな、小学校の4年生のころだと思うんだけど、お父さんの「子どもの本本棚」(子どもの本棚、じゃなくて「子どもの本」の本棚なの)をブッショクしていて、『マルコヴァルドさんの四季』っていうのをみつけて読んでみた。表紙の絵がへんなんだよ、エプロンつけたおじさんが植木鉢の前に座ってるんだけど、雨がふってて、おじさんは困ったような顔をしてる。子どもの本なのに、なんで悩んでるおじさんの絵? 
 4年生のあたしにはまだちょっと難しかったんだけど、でもひとつ、すごくよく覚えてる話がある。ある日、マルコヴァルドさん(表紙の困り顔おじさんの名前です)は映画を見に行って、それでもってその映画がインドの熱帯のジャングルが舞台で、夢中になって見終わって外に出たらもう真っ暗で、しかも映画の森と同じように、霧におおわれてて、なんにも見えない。マルコヴァルドさん、なんか貧乏でさ、でも霧のなかでぼんやりと映画のこと考えてたら幸せな気持ちになって、それで電車乗り過ごしちゃって、ぜんぜん知らない街に行っちゃうの。真っ暗だし、霧だし、だれもいないし、わけわかんなくなって歩いてたら、明かりがあった。行ってみたら階段があって、のぼったら中はバスみたいで、やれやれよかったよかった、って思って、発車したあと車掌さんみたいな女の人に自分の降りるバス停の名前を言ったらね、その女の人、「さいしょの着陸地はボンベイです」って言うの! まわりを見たら、席に座ってるのはみんなターバン巻いたインド人なの! 飛行機じゃん!
 いまならほかの話も、おもしろく読めるかな? さっそく借りて、まだ昼休みはちょっと残ってたから、図書室のイスに座って、さいしょのところをちょっと読んでみた。前に読んだのとはちがう人が訳したらしい。そういえば表紙の絵もちがう。困った顔はおんなじだけど、こんどは木の下に生えてるキノコを見つめてる。
 マルコヴァルドさん、貧乏だし、なんかつまんなそうな仕事してるし、タンジュンだし、だいたい「岩波少年文庫」なのに主人公がさえないおじさんってどうなの? とか思いつつ、でもおもしろい! マルコヴァルドさん好き! どうかんがえてもウソのことが書いてあるし、でもホントもいっぱい書いてある気がする。ううん、きっとそうじゃなくて、ウソだからこそ、うんうん人生ってそうよね、とか、これが社会というものよ、とか14歳のあたしでもわかっちゃうっていうか。ウソのつきかたがうまいっていうか。タンジュンなマルコヴァルドさんがなにかすると、フクザツな世界が見えてくるんだ。
 「秋 雨と葉っぱ」っていうお話のさいごのシーン、すごくきれい・・・。イタリア行ってみたいな・・・。うわ、この本、書かれたのが1963年だって! うちのお父さんが生まれたころだ、すっごい昔だー。

マルコヴァルドさんの四季 (岩波少年文庫)

マルコヴァルドさんの四季 (岩波少年文庫)

(インドの「ボンベイ」はいまの「ムンバイ」のことだそうです。新しいほうはそうなってました。そういえば、「モーター付き自転車」っていうのが出てくるんだけど、それって電動自転車のことかな? 50年前にもそんなのあったの?)