刀語 第十話 誠刀・銓

刀語〈第10話〉誠刀・銓 (講談社BOX)
刀語〈第10話〉誠刀・銓 (講談社BOX)西尾 維新

講談社 2007-10
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おすすめ平均 star
star内面の戦い
star完結に向けた重要(?)な1冊

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えー、なんとか生きて辿り着きましたな。
そして騒動があろうとなかろうと、その最中の検索ワードでの訪問数トップが「巨乳」だったという結果に、偉大なる神の姿を見たというかなんというか、生命の神秘と美しさというか、そんな事を考えてしまう管理人が運営しています。

ストーリー

虚刀流・鑢七花(最近人間っぽくなってきた)と奇策師・とがめ(何故か七花の恋人気取り)と、は出羽で王刀・鋸を心王一鞘流の汽口慚愧(凛々しい美人)から譲り受ける事に成功した。七花は汽口慚愧とのやり取りのうちに幾つか新しい発見をし、とがめは何故か七花と汽口慚愧の「浮気疑惑」を炸裂させ、七花に詰め寄っていたりした。一体なにをしているんだこの二人。
まあとにかくこれでさらに物語が進んだ事も事実で、彼ら二人は尾張へと取って返す。しかし、尾張には新たな四季崎記紀の変体刀の所在情報が既にもたらされていた。その情報元はとがめのライバルである否定姫。そしてその結果彼らが向かった先とは、とがめの故郷である陸奥へ。
やっとというか、遂にというべきか、「刀語」という物語の根っこに流れる大きな流れ——作者本人によって示唆はされていましたが——がその姿を見せ始めたと言えそうな展開をしてくれる10巻です。

「とがめ」と「否定姫」・・・と西尾維新

彼女らの過去が今回、完全にではないものの明かされて行く事になります。とがめの父・飛騨鷹比人がどうやって死んで行ったのか、そして否定姫とはどこから来た何物なのか、といった重要な秘密がです。

いや・・・

読んでいる私としては(1巻ラストのアレを読んでいるんだから)当然そういう方向へ話が進む事を知っているはずなんですけど、それでも・・・というか知っていたからこそ「一枚上をいかれた!」「俺を踏み台にした!?」という感じが否めないという、なんなんですかね西尾維新。本当に私には理解出来ない地平で創作活動をしているような気がします。
ぶっちゃけ、「アンタ本当に現代人? 未来から来たんじゃないの?」というか「地面掘ったら2015年に書かれた本が今年出てきたんで出版してます」という感じがなんかするというか。
そして恐るべきことに多分この「完全に作者の手のひらの上で踊らされてる〜でもキモチいい〜!」って感じは「全12巻一気読み」では味わえない感覚なんじゃないかと
「一ヶ月に一冊読む」という読書のペース。そしてその時間によって読者の中で「作品の記憶が薄れいく」その上で「上書きされる新しい記憶」。それらの流れを見切った上で物語を書いている様な気すらするという・・・
恐ろしい。本気で恐ろしい。西尾維新という人間が理解出来なくて恐ろしい。ただ間違いないのは、西尾維新が急死*1とかした日には、わたしゃ失われた才能の大きさに失望して腰砕けになってしまいそうだという事ですかね。

とにかく記録(ネタバレ有り)

「戦いから人は、すべからく教訓を得るべきなのさ——即ち、『戦いなど虚しい』、『勝ち負けに大した意味なんてない』」とね」
彼我木は言って、七花を指差す。
「とがめちゃんは『有益な経験』になるだろうなんて言ってたみたいだけれど、しかし戦いから得る経験なんて、無益なもんだぜ。有益であったとしても悲しいだけだ」

「どうにも、戦いにこだわっている。なんというのか——生きることそれ自体で戦いといった風じゃないか。彼女の目的って、一体なんだろうね?」

「過去の自分に褒められたいのか、未来の自分に褒められたいのか、それとも神様に褒められたいのか。それはわからないけれど——けれどそれは、結局、自分の苦手意識を克服していないということなんだよ。後ろめたい気持ちがあるから、あくまでも公平であろうとする」

「『銓』ってのは天秤って意味だよ、鑢くん——きみは自分のやっていることが、どれほどの何と釣り合うのか、それを考えてみることだ」

「勝負どころか、戦闘そのものが起こらない——つまり」
「攻撃を放棄することにより、勝ちではなくとも結果的に勝利と同じものを得られることもある——ということだ」

「まったく、あの男は——とんでもないものを苦手としていた。そしてとうとう、その苦手を苦手のまま、否定したままに去っていったよ」

「人はときに、目的のために目的も捨てねばならない——それが今回、君が得るべき教訓だ。野望も野心も復讐心も——真の目的のためには捨てるべき目的だよ」

それと一緒に

自分のために、全然別の人の、全く違う作品の言葉を並べておこう。

「自信をなくした人間を慰めてくれるものなどいない。あいつもこれまでだな、その言葉に耳をかすことがせめてもの社会との折り合いだった」
「新しいものが流行り、また同じような犠牲者が生み出される。社会はその戦いだ。そして勝利か敗北かのどちらかしかない。だから今こうして誓っていうのだが、同じように奪うような者にはなりたくないと願っていた」
「言葉を知る者は、誰も皆、罪人だ。だが誰一人として同じ言葉を持つ者はいない」

——『普通の愛』

悩むのが嫌なわけじゃなかった。その時は話しているうちに、お互いの意見のくい違いがわからなくなるくらい、深いところまですれ違って、そして、やっと気ついた。そんなことを思い浮かべいた彼に、彼女は言った。
"あなたは、この街で、生きる資格がないわ"
それが世界中でいちばん優しい意見かもしれないと思った。

——『誰かのクラクション』

オマケの記録

「折角だから、将棋村に寄ってから帰るか?」
「どうして」
真顔、というより無表情で訊き返された。
その剣幕にたじろぐ七花。
「どうして寄る必要がある。汽口慚愧に会うためか? あん?」
「あんって……」

総合

星4つ。
でも実は星5つだけど星4つ。理由はこの話のアレように有るようで無い。だけど西尾維新は星5つという感じ?
最終的にこの物語がどうした結末を出していくのか——私はもう想像することを止めました。最後の最後で大きなどんでん返しがあって、物語の全てがひっくり返ろうと、夢オチだったとしても、もはやこの物語に「NO」という姿勢だけは取ることが恐らく無いでしょう。
・・・といいつつも西尾維新だから、そのさらに斜め上を行くかもしれないなどと思ったり思わなかったり。なんだかなあ。

*1:縁起でもないのは確かだけど、理不尽なのが人生だからなあ。とにかく色々と気をつけてくれ!