法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ETV特集』私はやっていない

最近起きた有名な三つの冤罪事件を主に特集。この点は、冤罪事件の情報を集めている人にとっては、情報の整理や被害者の顔が見える以上の意味はないかもしれない。
サブタイトルで意識しているだけでなく、冒頭で映画『それでも僕はやっていない』が引用されたが、内容説明に少し疑問点があった*1


さて、痴漢冤罪事件では、一審から二審で弁護団が3人から9人に増え、弁護方針も転換している。今になると光市母子殺害事件についての弁護活動と重なってくる。痴漢冤罪について容疑者を擁護する人々が、光市事件の被告を罵倒するのを見てきただけに、もっと多くの人に見てもらいたかった。
もちろん番組では実際に痴漢の被害にあっている人々がいることも、何度も強く確認された。痴漢事件の捜査に困難さがつきまとうのは確かだが、手に付着する衣服の繊維といった証拠を収集しない手続き不備は、他の冤罪事件とも共通する。痴漢撲滅に力を入れて検挙数が約3倍に増えた結果、隠れていた問題が表に出てきたという視点も必要かもしれない。
被害者証言の取り扱いについても、女性には被害を訴えること自体が勇気があるとされる指摘は重い。性暴力の被害が今も表沙汰になりにくい社会というだけでなく、逆に証言を安易に信用してしまう危険性も言及されている。


そして、番組で指摘された捜査や司法の問題点は、昔の冤罪事件と何ら変わらない構造だ。番組に登場した解説者で、過去の冤罪事件から反省していないから問題が生まれていることを指摘する人がいなかったのは残念。
むしろ検察側の人間は、冤罪事件における捜査の不備を不思議がってすらいた。


番組最後では、自白を録画する方法について問題提起された。番組で江川昭子*2も指摘したように、自白を録画できれば捜査側にとっても有利になることは充分に考えられるだろう。しかし拒否する警察側の言い分がひどい。
自白が引き出せなくなることを恐れて導入を控えているなどと、問題ある手法を取っていると告白しているようなものではないか。容疑者がプライバシーを恐れたり、捜査官と対等に交流する気持ちが薄れるなどという説明だけでは説得力がない。取調室の映像について徹底的に隠し、公に漏らさないことを確約できるような信頼性や法整備については、導入前に考えるべきだろうにしても。

*1:正確に解説するとネタバレになりかねないが。

*2:光市事件についても流石。http://www.egawashoko.com/c006/000235.html