法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『その時歴史が動いた』第322回 人間は尊敬すべきものだ〜全国水平社・差別との闘い〜

この番組はバラエティ要素が強いなりに「その時」の位置づけに工夫があって*1、必ずしも過去の全てを肯定しないのだが、今回は水平社運動をほぼ全面的に成功と位置づけている。……これは運動に遠慮した、という理解で良いだろうか。
「その時」から直線的に被差別部落解放に繋がったと感じかねない構成では、水平社設立以降の長い戦いを生きた*2人々にも失礼ではないかと思うのだが。一応は、現在も被差別部落問題は終わっていないという風にはなっていたが……


それはそれとして、被差別部落の民を清潔にするよう指導し、さすれば民衆の同情を得て差別がなくなると考えた日本政府の方針には、現在の中国政府を思い出す。チベットに対して経済的な支援を与え*3、進歩的な教育を与えていると中国政府は考えているのだ。だが、番組で強く指摘されたように、同情という態度は形を変えた差別にすぎない。良心的なつもりでいるだけに批判を受け入れないし、ごく普通の人も陥りやすい誤りでもある*4だけに注意しておきたい。
むろん、番組制作期間から考えるとチベット問題を意識したわけではないだろうが、現代にも様々な場面で残る普遍的な問題を感じた*5

*1:たとえば、日本初の地下鉄を取り上げた回は、あえて買収で失われる瞬間を「その時」に選んでいた。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080125/1201304087

*2:そして今も戦いは続いている、といってもいいだろう。

*3:ちなみに漢民族にあたる人でも、保護を求めて少数民族と申告する場合があると聞く。これは漢民族が実質的に文化による区分にすぎず、遺伝で見ると長い歴史を経て相当に周辺の民族と入り交じっている背景が可能にしたことでもある。

*4:この辺りは自戒を込めたい。

*5:チベット騒乱と同時期に起きたアイヌ認知運動に対する反発や、同情ももちろん同様だ。