法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『フレッシュプリキュア!』第7話 せつなとラブ 友情のクローバー!(と、おまけでフィリピンの話を少々)

フィリピン人アニメーターのポール・アンニョヌエボ作画監督を担当。大事なことなので太字強調した。
次回予告映像から予想された通り、全体に作画修正が行き届き、そつのない出来に仕上げていた。単にキャラクターデザインに合わせているだけでなく、物語に合わせて細かく繊細な表情をつけている。まだシリーズ序盤であり、日本人原画マンの名前も並び、どこまで技量が反映されたかは不明瞭だが、これだけ出来るなら充分に優秀なアニメーターだ。
ちなみに原画マンとしてのポール・アンニョヌエボは、崩したフォルムで良く動く作画を手がけてきた。東映所属演出家の大塚隆史サイトでフィリピンのアニメーターが担当したと明言された『Yes! プリキュア5』第12話「うららのステージを守れ!」のアクションシーンが代表的。画面いっぱいに伸びる樹木をプリキュアが全身を使って避ける長回しが印象的で、映像ソフトCMにも使用された。その印象があったため、アクションパートには素晴らしいものを期待していたが、こちらも良くも悪くもそつのない出来。演出で作画枚数が制限されていたためか静止画が目立ち、残念ながら期待以上ではなかった。
何にしても、作画監督として第一歩*1。さらなるフィリピンアニメーターの活躍に期待できる映像だった。


ちょっと寄り道して、フィリピンのアニメ会社TAPについて、アニメ好きから見たあやふやな思い出話を少々。制作者視点では、かつて大塚隆史サイトで技術指導や交流の様子が詳述されていたのだが、現在はインターネットアーカイブで一部が見られるにすぎない。
さて、もともとTAPはEEI-TOEIという名前で東映アニメーションが作った子会社だったらしい*2東映アニメーションが業界でいち早く、彩色にデジタルを導入したと同時期、EDクレジットに動画で名前が出ていた記憶がある。そのころは個々のアニメーター名は省略されて会社の名前だけクレジットされ、名前からして子会社だろうと漠然と考えていたが、どのような会社か調べることはなかった。
しばらく日曜朝8時半の東映アニメ作品でEDクレジットに名前が出ており、その最中にTAPへ会社名が変更された。そのころ東映アニメファンサイトかアニメ雑誌かでフィリピンのアニメ子会社と知り、なるほど「東映」「アニメーション」「フィリピン」だから「T」「A」「P」かと得心した。
TAPアニメーターの個人名が表記されたのは、『明日のナージャ』第26話「フランシスの向こう側」の原画が初だったと思う。後に映画『時をかける少女』でアニメファン以外にも名を知らしめた細田守が、演出から原画まで担当した傑作回であり、今も記憶に焼きついている。しかしTAP所属であることがわからない表記方法だった上、脚本の大和屋暁が欧州を舞台とした作品内容に合わせて「ルージュ・ドゥ・ドゥーン」名義を使い、さらにフィリピンアニメーターに「フランシス・カネダ」の名前があったため、当初は日本人アニメーターの変名ではないかと受け止められていた。相当に作画が良かったため、海外下請けが原画を描いたとは連想できなかったこともある。逆にTAPスタッフがどこまで実力を発揮していたかというと、この話は細田守がレイアウト全般に手を入れており、それゆえ先述したように原画クレジットされたくらいで、どの原画担当者がどれだけ画面に貢献できたかは判然としない。
以降、幾度もTAPアニメーターの名前が表記されるようになり、フィリピン人であることも知られていった。とはいえ、その時期はまだ日本人アニメーターの手が足りない状況で駆り出されているのだろうという印象だった。
初めて印象に残った仕事といえば、大塚健*3大塚隆史が連名で演出した傑作回『ふたりはプリキュアSplash☆Star』第43話 「夢じゃない!みんなのいる一日」のアクションシーンだろう。後半の面倒な格闘戦をいくつか担当していたことが大塚隆史サイトでパートごとに説明されていた。大塚健はコンテを切るだけでなく動きのタイミングもいじっていたらしいが、原画作業まではしておらず、複雑な動きはアニメーター個々の努力によるものといえるだろう。ちなみに『夜明け前より瑠璃色な作画監督回で不当な評価を受けていた田中宏紀も重いアクション原画を多数担当しており、注目されるきっかけの一つとなった。
さらにTAPアニメーターが生身の個人として感じられたのは、以前に感想を書いたテレビ朝日の仕事紹介番組だ*4シンエイ動画とともに東映アニメーションが登場し*5、その際にテレビ電話を介したTAPとの会議システムが紹介され、TAPアニメーターフランシス・カネダがテレビ電話の向こうでプリキュアのイラストを描いて見せる姿が放映された。徐々に仕事の距離が縮まっていることを感じさせた。


さて、物語本編の話に戻そう。正体を隠して変身アイテムを奪取しようと目論む敵ヒロインのイースと、それを知らない主人公が日常を舞台に交流する、それ自体はよくある展開。
前作シリーズ構成の成田良美が脚本担当したためか、ちょっと通常より主人公の頭がゆるい。ただし敵味方全ての頭がゆるかった前作と異なり、いちいちイースが主人公達に常識的なツッコミを入れていく。主人公があっさりとイースを友人扱いする御都合主義的な展開に自己ツッコミを入れているかのような光景がおかしい。
後味が悪いわけでも、今回だけであっさり心変わりするわけでもない。少しずつ心情が変わるイースの姿をクローズアップの表情でとらえた、良い意味で素直な展開だった。

*1:以前は、言語の壁などが問題となり、原画として使えても作画監督にはなれないといわれていたが、どうやって問題をクリヤーしたのか興味がある。

*2:……と思っていたが、東映アニメーション公式サイトによると、もともとEEIという会社が存在して、合併吸収のような形で設立されたらしい。完全子会社化してからTAPになったようだ。http://www.toei-anim.co.jp/corporate/prof/associate.html

*3:スタジオへらくれす所属の、ロボットからキャラクターまでこなすベテラン職人アニメーター。映画『機動戦士Zガンダム 星の鼓動は愛』最終盤で戦闘終了後に変形を解いて人型に戻るZガンダム、『金色のガッシュベル!』キャラクターデザインが近年の代表作だろうか。大塚隆史とは「たかし」と「たけし」で名前の読みまで似通っているが、血縁関係などはないとのこと。

*4:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080324/1206485254

*5:どちらの会社もテレビ朝日が株式に入っているからみだろう。