法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『戦国BASARA』第1話 蒼紅 宿命の邂逅!

日本の戦国時代を題材としたゲームを原作としたTVアニメ。ゲームで遊んだことはないが、紹介記事を見たことはある。


さて、まだ初回しか見ていないが、これは早くも傑作の予感。
念のために注意しておくと、一般的な歴史好きや、戦国武将のファンや、地元で思い入れがある人などは、激怒してもしかたないだろう作品とは思う。そもそも普通の歴史物なら、主人公の名前が「真田幸村」という時点で首をかしげてしまうし、伊達政宗が「独眼流は伊達じゃない」と口走ってしまうところも頭が悪い。
だがしかし、そのようなことは些事である。


アバンタイトルから伊達政宗は暴走族レベルの英語を口走り、真田幸村は生身で城門を吹き飛ばし雑兵を蹴散らしていく。
戦国BASARA』において勝敗を決するのは武将同士の戦闘で、それもただの一騎打ちではない。天空を飛び、怪光線を発し、山を揺るがす、あたかもパワーインフレーションした超能力バトルのごときアクションだ。
それも、様々なアニメ映画を手がけたプロダクションIGが持てる技術の全てを注ぎ込んだかのようなクオリティで展開される。映画のように空間を広く取った構図、高低差や時刻まで表現した背景美術、美麗な絵柄の殺陣、手間のかかる背景動画、作画アニメらしくフォルムが流体のように描かれる人体……映像を見るだけなら溜め息が出るほどに美しい。映像を見るだけならば。
OP映像では相応に格闘アニメらしく様々なキャラクターが決めポーズを取るのだが、背後では3DCGの雑兵が珍妙なダンスを踊る。それなりに多くのアニメを見てきたが、これほど無駄な3DCGはなかなかお目にかかれない。いや、無意味に3DCGを使用するというギャグは少なくないが、モデルの動作を作り込みまではしないものだ。
本編に入っても、全国各地の戦国大名が考証など意に介さぬ描写で名乗りをあげ*1真田幸村は主従関係にある武田信玄どつき漫才をくりひろげ、上杉謙信*2は女性忍者を魅了する。


さすがに真田幸村武田信玄どつき漫才は作中でもツッコミが入るが、本人達がいたって真面目なのは当然として、映像は非常に整っていることが重ねて頭悪い。
武田が殴り飛ばせば、庭まで吹っ飛ばされた真田が塀にめりこむ。真田が武田を殴り返すと床板が削れる。それらのキャラクターは精緻なデッサンで作画され、庭の背景美術も細かく描かれており、土煙のフォルムまで美しい。
そう、シリアスな雰囲気のアニメでもコメディ描写を入れることはあるが、あくまで張り詰めた空気の息抜きであったり、デフォルメされた絵で笑うべき場面を区別することが多い。
しかし『戦国BASARA』は違う。ハイクオリティーな美形キャラクターアクションアニメ大作が作られるだけの映像リソースを投入し、あえて他の場面と同じ演出手法のまま、無茶苦茶な論理で「おやかたさまぁぁぁ!!」「ゆぅきむらぁぁぁぁ!!!」と青年とオヤジが慕い合うがゆえ殴り合う、これが、これこそが『戦国BASARA』というアニメなのだ。


見返してみると、この作品が、ただの熱血風味バカアニメではないと思うようになる。
たとえば前半と後半、真田と武田の二度にわたるどつき漫才は、ただ勢いで行われているわけではない。ちゃんと途中の真田と伊達の戦いを経て、互いの言い分が変化している。その上、真田自身が目指す目標、武田が真田に課したい目標、それぞれで主人公の状況が台詞で示される。
そう、ただ頭が悪いのではなく、その頭の悪さに筋が一本通っている。だから初回だけでも、主人公のキャラクター性がはっきり伝わってくるのだ。
主人公のライバル関係も同様。まずアバンタイトルで伊達と真田が別々に戦う場面を象徴的に見せ、サブタイトルと合わせて初回で何を見せたいのか提示する。
物語に入ると、まず歴史的なイメージでもある武田と上杉のライバル関係を見せる。その上で前述のように真田と武田の主従関係を強調する。続いて武田の指示通りに上杉と戦おうとした真田が、伊達と出会い、戦う。そして武田と上杉は、自身と同じようなライバル関係が生まれたことを知る。
映像こそ頭の悪さ極まりない。だが、武田と上杉、真田と伊達、それぞれのライバル関係を武田と真田の主従関係で結ぶという、計算しつくしたキャラクター相関図が描かれているわけだ。このコの字型をした相関図がしっかりしているため、そこからさらに人間関係が枝わかれしても混乱することがない。
キャラクターの内面や関係性が示されているため、もし個々の描写が空回りと感じても、ドラマの流れは理解することができるだろう。


制作陣容は、プロダクションIG制作、川崎逸郎監督、むとうやすゆきシリーズ構成。作画監督はキャラクターデザインでもある大久保徹で、原画に江面久など。
ここで注目したいスタッフがむとうやすゆき。以前にも『バジリスク甲賀忍法帖』シリーズ構成、『シュヴァリエ』メインライターと、歴史を題材とするトンチキアニメでメインを努め、それぞれ比較的に高い評価を確立している。リアリティを超越した設定のキャラクターに魂を込めてみせる脚本家という印象が強い。
どう考えても初回の勢いが最終回まで続くとは考えがたく、どこかで一般的な超人キャラクターアニメに軟着陸しなければならないだろうが、それを出来るスタッフは用意されている。きっと心底から最終回まで楽しめる娯楽作品に仕上げてくれると期待したい。

*1:ここで織田信長だけは一般的なイメージとほぼ同じというところが興味深い。

*2:当然のように女性らしきキャラクター性が付加されている。