法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『DRAGONAUT -THE RESONANCE-』雑多な感想

地球外生物ドラゴンと人間が「レゾナンス」することで、ドラゴンの本体である小天体タナトスへ対抗するためのドラゴノーツとなる。意図せずドラゴンとレゾナンスした主人公は、正式なドラゴノーツと衝突したりしながら、やがて周囲を巻き込んでいく。
去年末からGYAOで大量配信していたGONZO制作アニメの一作品。未見だったが、赤字を累積させていたGONZOが制作本数をしぼって起死回生をかけたオリジナル作品で、しかし売り上げも内容も大きくズッコケたと聞いていた。
下記エントリで言及したように、シリーズ構成が更迭された作品でもある。
『30歳の保健体育』の実写パート「いのこり!30歳の保健体育」が初回放送しただけで打ち切りに - 法華狼の日記


実際に見てみると、不評意見に深く納得。それなり以上に優秀なスタッフを集めながら、奇跡的に感じるほど食い合わせが悪い。
うのまことキャラクターデザインによる肉感的なキャラクターはアニメ的で、無闇と重たく混沌とした前半の展開に合っていない。年齢や性別、人種、そして個々人の個性といった差異をうまくアニメとして表現できているだけに、もっとアニメ的でわかりやすい展開を見せてほしかった。
アニメらしい原色のフェティッシュな印象を強調したキャラクターは、3DCGで描画されたドラゴンと質感も合わなかった。


物語の前半は前川淳シリーズ構成が1人でほとんどの脚本を手がけながら、主人公と友人の心情が前後で繋がっていない。この二人の心情が理解できない問題は終盤まで尾を引く。
いや、心情が繋がっていなくても周囲の一般人がそう指摘したりすればいいのだが、主人公の行動は自然で感情移入できることとして物語が進行していく。二人のドラゴンに対する執着は恋愛などの比喩表現と頭では理解できるが、その過程や自身のおさえきれない感情に戸惑うような場面が皆無なので、見ていて納得できない。むしろ主人公に出会って感化されたドラゴノーツ達こそ、ドラゴンと心情が結びついた過去をうかがわせるので、ずっと自然に思えて感情移入しやすい。
少人数で作劇したことで、スタッフの脳内だけに一貫性ある人物像が存在して、視聴者に伝わらない問題を感じてしまった。かといってシリーズ構成が交代しても、特に物語が改善された感じはしなかったが。
コンテ演出や声優も良いスタッフがそろっていたが、物語に筋が通っていないため、キャラクターの言動を場面ごとに楽しむことしかできなかった。


ただ、GYAOでは映像ソフトだけに収録された第26話も配信され、サービスに満ちた自己パロディが本編よりずっと楽しい。デザインのキャッチーさや作画の良さが、素直に娯楽としての面白さに繋がっていた。
このパロディ回がそこそこ楽しめたので、そのキャラクター関係や設定を知るための長い前振りとして本編も許せる気がしてしまった。

『茄子 アンダルシアの夏』

黒田硫黄*1の連作マンガを原作として、高坂希太郎*2が監督と脚本と作画監督までつとめた中編アニメ。アンダルシアを舞台に開催された自転車レースを描く。
スタジオジブリ作品で作画監督をつとめたアニメーターの初監督作品ということで、そういう雰囲気をただよわせた広報をしていたが*3、実際にはマッドハウス作品。


実際に見ても、あまりスタジオジブリ作品らしさはない。
キャラクター作画も、横顔や群集を見ていると高坂希太郎がキャラクターデザインしたマッドハウス制作TVアニメ『MASTERキートン』を思い出させる。終盤で荒々しい描線のデフォルメ作画が見られたりする良い意味で幅のある作画も、マッドハウス作品らしいと感じる。
あっさりした背景美術も近年のスタジオジブリらしくない。アニメ映像の印象は色設定や背景美術が作画より重要という押井守監督の主張を思い出す。


作品単体で見て、制作しながら物語を作っていく手法を制御できていない近年の宮崎駿作品より、ずっとまとまりも良い。尺のほとんどを自転車レース描写に使い、背景は周囲の人物評や必要最小限の回想で説明する手つきに無駄がない。
最初から最後まで主人公は自転車を走らせ、映像はもちろん技術や駆け引きで楽しませてくれる。珍しいスポーツを題材とした作品としても緊張感を楽しめた。予備知識がないとわかりにくい場面もあるが、作中TVの解説から競走内容の文脈を楽しむために必要なだけの情報はえられる。
自転車レースと並行してドラマも展開され、交差し相反しながら、主人公のありかたを重層的に描いていく。主人公はチームとして戦い家族から応援されながら孤独や敗北をかかえ、周囲のためでなく自分のために戦う姿が嫌味にならない。プロスポーツで競技する者の栄光と孤独をそつなく映した佳作といった感想。

*1:EDのイラストも担当していたが、良作画アニメとしては珍しく、マンガ家の絵が本編の印象に負けていない。おそらく基礎的な画力がとてつもなく高い。

*2:自身も自転車を趣味としていて、アニメ業界関係者で行われているレースで圧倒的な実力を示している。

*3:中年親父がゴーグルをかけた姿を予告で印象づけたり。