法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

KADOKAWAとはてなが組んだ小説投稿サイト「カクヨム」で、第1回コンテストの読者選考を通過した一作品が悩ましい

ほとんど未読なので各作品の評価はできない。ただ、新しいサイトの機械的な選考なためか、傾向の見えにくさが興味深くはある。
第1回カクヨムWeb小説コンテスト 最終選考結果 - カクヨム
しかし疑問をおぼえたのは、「現代アクション」ジャンルで通過した作品のひとつ、『世界最優秀民族が異世界にやってきました』だ。


どのような内容かは、作品情報のあらすじを読めば見当がつくだろう。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880242500

韓国済州島に突如出現した門。
北朝鮮の進攻を警戒する韓国政府はスラム街の住民、無職者、犯罪者などを特別徴兵し異世界への侵略を始める。
自称世界最優秀民族による虐殺のはじまりである。

小説の本文に情報源としてYOUTUBEやブログのURLがならんでいるさまはWEB小説らしい特性ではある。あくまで注記のようなあつかいであるが、商業出版するならどのような形式になるだろうか。
もちろん小説そのものはフィクションだが、さまざまなデマページを批判なく流布している問題はある。小説の地の文でも「日本軍最強伝説」コピペなどのデマ*1を事実のように表現している。
http://ncode.syosetu.com/n6471dd/3/

日本人を悪役にしたポルノまがいのコンテンツを量産した。
 いわゆる反日作品である。
 日本では日本軍最強伝説として半ばネタとして語られているものだ。

百人斬り事件などは戦時中の日本で報道されており、韓国がつくったコンテンツではありえないことは無視されている。


なお、誤解を恐れずにいえば、フィクションには不謹慎ネタというジャンルもないではない。
正直な感想をいえば、あまりに政治主張として幼稚すぎて、意外と嫌悪感は生まれなかった。読者選考を通過さえしなければ、特に注目するような個性も技術もない。さすがにコンテストで大賞を受けることはないだろうとも考えている。
これが出版社運営サイトで読者の支持を集めた残念さに、一種の興味深さもあった。読者選考の途中経過発表では10位につけていて、一部で悪い意味で注目されていた。
【第1回 カクヨムWeb小説コンテスト応募作品 途中経過ランキング】現代アクション編 - カクヨムからのお知らせ


ただし同じ内容で「小説家になろう」にも投稿されており*2、各話ごとに「カクヨム」で削られている作者コメントを読むことができる。
http://ncode.syosetu.com/n6471dd/1/

韓国紙がGATEに難癖をつけたので韓国ならやりそうなネタを詰め込みました。

読者との質疑応答もおこなわれている。
http://ncode.syosetu.com/n6471dd/25/

ぽっぽの次の総理はまったく笑えませんでしたね。
あの人は「韓国のために原発爆発させたのにー」ってネタが一瞬頭によぎったのですが入れる箇所がありませんでした。

こうしたコメントまでフィクションあつかいすることは難しい。


さらに、同じ「現代アクション」ジャンルで、似たような小説が「カクヨム」で公開停止措置にあったことがある。
https://kakuyomu.jp/users/Heine/news/1177354054880758153

つらいです
公開停止されているのに何故かブログの途中経過ランキングの30位に載ってます

違反理由:
第13条(禁止事項等)第1項
11.犯罪行為、および犯罪を助長する一切の行為
12.法令または公序良俗に違反するまたは違反するおそれのある行為

同じ作品が「小説家になろう」には残っており、今でも内容を確認できる。
http://ncode.syosetu.com/n9878dd/

スーパーマーケットに転がってる発泡スチロールをガソリンに浸せば、ナパームができあがる。

何者にもなれなかった20人が力を合わせて、何者だらけの渋谷を滅ぼすお話です。

カクヨムにも投稿しています)

つまりTVアニメ『残響のテロル』やモキュメンタリー映画『オカルト』に近い物語。これも不謹慎ネタの一種だが、他者への蔑視や憎悪をあおる内容ではない。
この小説もURLをのせる手法をつかっているが、注記のように使うのではなく、読者へ語りかけるような形式。そもそもインターネットの動きをとりこんだ物語だった。
http://ncode.syosetu.com/n9878dd/4/

日本を影から操り老若男女の脳みそにハッキングする暗黒サイト「Yahoo! ニュース」にこんなトピックが半日くらい掲載された。

【「黒子のバスケ」脅迫事件の被告人意見陳述全文公開】NEW !

ずっと小説技術として巧妙で新鮮味があるし、現在に重ねあわせる物語としての必然性も感じられた。一人称の語りかけ形式であっても、作者の主張と同一ではない慎重さもある。
それなのに、『渋谷スクランブルX点 汚物完全消毒マニュアル』は運営によって公開停止されてしまった。比較すると、『世界最優秀民族が異世界にやってきました』が読者選考を通過したことに納得いかない気持ちは出てくる。運営が気づかなかったのだとすれば、ジャンル別で10位に残った小説にすら目を通していないわけで、サイト管理が甘いといわざるをえない。

KADOKAWAとはてなが組んだ小説投稿サイト「カクヨム」に、先駆的なCGアニメ制作会社にまつわる興味深いノンフィクションがある

ノンフィクションはコンテストのジャンルにふくまれていないが、すでに注目されて高い評価を集めている。
あるアニメ製作スタジオの終焉について(高栖匡躬) - カクヨム

TVアニメ『星のカービィ』全100話を制作したことで知られています。今でもその名を覚えているファンの方は多いでしょう。

あれだけのヒットを飛ばしながら、ア・ウンは今存在していません。成功をおさめ、次回作に期待がかかっていたア・ウンは、なぜ解散してしまったのか?

制作会社の倒産にいたるまで、脇道たっぷりに語られているが、その試行錯誤の過程そのものが読んでいて楽しい。
今はなきア・ウンが、もともと任天堂関係のゲーム会社だったとは知りもしなかった。だからキラーコンテンツ的な原作ゲームを潤沢な予算と当時は珍しい3DCG多用でアニメ化できたのかという納得感もあった。


それに実名をつかっていることもあってか、対立する相手の心情や立場をおもんばかる視野の広さがある。業界暴露話のようでいて、読んでいて後味の悪さがない。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880567276/episodes/1177354054880567316

 ア・ウンの側からすると、ゲームとしての『星のカービイ』は単なる素案でしかなく、それに愛情を注いで育て上げ、命を吹き込み、アニメという別次元の作品に仕上げたのは自分たちだという自負があります。

 要するに、お金の話ではありますが、実際にはお金の話よりももっと大きな、表現者としてのプライドが掛かっているのです。


 でもこれは、筆者が大きくア・ウンに肩入れしていたから思う事。

 製作費を負担した側に分があるのは、世の習いです。もしも筆者が任天堂側の人間だったとしたら、きっと同じ判断をするでしょう。


さらに読みすすめていくと、意外なかたちで別の業界にもふれられている。
次回作の制作予算を獲得するにあたって、筆者はさまざまな先駆者に助言を求めていた。そのひとりとして、外国の制作会社に関与していた匿名スタッフが登場する。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880567276/episodes/1177354054880830698

吉川惣司さん脚本による、日本で初めてCGを前面に出した映画『SF新世紀レンズマン』(1984年)では、CGパートはJCGLが担当しています。そして好都合な事に、Hさんは当時、吉川さんの担当でもありました。

 Hさんはなんと、当時ナムコが出資をした、米国の大手CG&VFX・プロダクション、リズム・アンド・ヒューズのお目付け役として、ナムコLAに赴任していました。なかなか連絡が取れなかったのはそれが理由でした。

(リズム・アンド・ヒューズがCG&VFXを担当したハリウッド映画は数知れず。元JCGLの日本人スタッフも複数名在籍。残念ながら2013年に倒産)

このノンフィクションでは倒産したとふれられているだけだが、この会社は映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のVFXを手がけたことで知られている。
そう、リズム&ヒューズこそは倒産直後にアカデミー賞の視覚効果賞を受けた会社であり、その倒産を題材にした短編ドキュメンタリー『Life After Pi』で注目された会社である。

技術力があり、内外で高い評価を受けた作品の直後に倒産したという、不思議な縁でア・ウンと共通点かあるわけだ。


これ以降も、海部俊樹元首相の息子にしてWOWWOWのアニメ枠で手腕を発揮した海部正樹プロデューサーが登場したり、意外な人物がつながってくる。ひとつの会社の倒産をふりかえるだけのエッセイでありながら、アニメ業界をひとつの視点から見とおすノンフィクションとしてもすぐれている。
早く完結まで読みたいものだし、コンテスト外ジャンルなのに外部からのオファーで商業出版されそうなクオリティはある。その場合、資料として買いたい気持ちも実際ある。このエッセイが公開されただけでも「カクヨム」の存在意義はあった。