自治体の組織(9)〜附属機関(その2)

今回は、附属機関に関する条例の提案権といわゆる私的諮問機関との違いについて記載する。今回でとりあえず自治体の組織については最後である。
附属機関に関する条例の提案権は、次のように長と議員の双方が有していると解されているようである。

附属機関は、地方公共団体の執行機関の要請により、その行政執行のための必要な資料の提供等いわば行政執行の前提として必要な調停、審査、審議、調査等を行うことを職務とする機関であり、執行機関のための補助機関ではあるが、いわゆる長の権限の分掌組織ではなく、一般の部課、出先機関等とは異なった独立性を有するものであること、及び特に長に提案権限を専属させる明文の規定がなく、条理上も長に専属するものとはいい切れないことから、条例提案権の原則から鑑みて、設問の条例提案権は、長及び議員の双方に属するものと解される。(実務地方自治研究会『Q&A実務地方自治法―行政・財務―』(P847〜))

長に提案権を専属させる場合には、「普通地方公共団体の長は、条例の定めるところにより、……する」という規定の仕方がなされると言われている。しかし、附属機関は、長以外の執行機関にも置くことができるので、そのような規定の仕方ができないことは言うまでもない。そうすると、組織関係の条例の提案権が一般にどのように考えられているかということを踏まえて考えるべきではないかと思う。
組織関係の条例については、都道府県の支庁及び地方事務所並びに市町村の支所又は出張所の設置条例や長の直近下位の内部組織の設置条例の提案権は、長に専属すると解されている(松本英昭『新版地方自治法(第4次改訂版)』(P186))。これに対し、附属機関の設置条例の提案権は議員も有していることとされるのは、上記のとおりその独立性を強調するからであろう。しかし、条例で設置する附属機関は、あくまでも執行機関の諮問等に基づき行為等を行うのであり、しかも、あくまでも執行機関に属する機関と考える以上*1、他の組織関係の条例の提案権は長に専属すると解するのであれば、それと区別する理由はないのではないかと思う。
したがって、私は、附属機関に関する条例の提案権についても長に専属していると考えるべきなのではないかと感じている*2
次に、要綱等によりいわゆる私的諮問機関が設置されることがあるが、これと附属機関との違いが不明確な面がある。
附属機関と私的諮問機関の形式的な違いは、委員へ支払う報酬の科目が違うとか(前者は報酬、後者は報償費)、名称が違うとか(地方自治法の規定からすると私的諮問機関を「審議会」とか「審査会」という名称にするのは適当でないので、例えば「委員会」とするとか)言われる。
しかし、その本質的な違いは、組織であるかどうかという点に求めるべきであろう。例えば、執行機関が意見を求めた場合、附属機関は、組織として意思決定を行うのであるが、私的諮問機関は、機関として意思決定をするわけではなく、長などの執行機関が委員個々の意見をそのまま聴く場ということになり、その委員が集まっている場を単に「○○委員会」と称しているだけということになろう。したがって、附属機関の設置条例等には、議決の方法について定めておく必要があるが、私的諮問機関の設置要綱等には、そのような定めは必要ないし、あってはいけないことになる。
したがって、実質的に行っていることに関しては、両者で違いがあるわけではないことになる。同じような例として、地方自治法第174条の規定による専門委員と附属機関の違いを挙げることができるのではないだろうか。つまり、両者は共に一定の事項を調査する権限を有しているため、行うことは変わらないが、前者は長の権限で置くことができることとされているのは、組織であるかどうかという点に違いを求めていることになろう。このように、条例事項とするメルクマールは、組織であるかどうかであって、何を行うかではないことになる。だが、このことが、附属機関と私的諮問機関の違いを分かりにくくしている原因なのではないだろうか。結局、あまり理論的な根拠がなく附属機関は条例で定めることとされていることの弊害が、この辺りにも出てきているように思える。
<追記>(2008.12.29)
国における私的諮問機関について、塩野宏行政法3(第3版)』(P82)には、次のような記載がある。

これら会議体(私的諮問機関のこと)*3については、国組法の組織規範にその存立の根拠が存在しないので、これをもって、国組法上の行政機関として位置づけることはできない。そのことと関連するが、その構成員は、国家公務員法上の公務員(非常勤職員)としての任命行為が行われているわけではない。そこで、国と構成員との関係は、雇用契約関係(公務員関係を含む)に立つものではなく、ある特定の政策課題に意見を述べるということで寄与することを内容とする委任契約であるとみることができる。したがって、仮に報告書等の名目で意見集約の結果が公にされても、それが合議体としての行政機関の意思という意味をもつものではない。

ただし、同書では「現実には、構成員の権威性、専門性により、審議会答申と同様の政治的、社会的効果を有するという実体があり、その傾向はますます顕著である」として、審議会との区別が困難であることを指摘している。

*1:地方自治法第202条の3第3項は、「附属機関の庶務は、法律又はこれに基く政令に特別の定があるものを除く外、その属する執行機関において掌るものとする。」としている。

*2:そもそも私は「自治体の組織(8)〜附属機関(その1)」で記載したように、附属機関は条例で設置する必要はないのではないかと考えているので、このように感じるのも当然なのであろう。

*3:管理者注記