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- 作者: 小桧山博
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1989/10
- メディア: 単行本
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主人公慎次が都会人川島を殺害して「クマソタケルの末裔」と一緒に暮らしてゆくことを決心する場面など、野性の文明に対する勝利ということだが、それでいいのかと言いたい。「野性」や「自然」がそういうものとして我々に認識される時点で、すでにそこには人の手が、アートが介在している。アート(技、技術)があるからネイチャーがあるという認識から出発しないと不毛な二項対立を繰り返すだけ。小檜山さんは本当に「自然」を信じているようで、こういう人は貴重だとは思うが、しかしなあ・・・。
ちなみにこの小説には「アイヌ」は登場しない。北海道は雑種だ、だから自由なんだ、内地が何だ!と説く小檜山さんのアキレス腱が「アイヌ問題」だろう。雑種といったって、自由といったって、アイヌもウイルタも自由意志から「和人」と交わったわけではないのに、ぜんぶごちゃまぜにして「道産子」なる主体を立ち上げるのは、今は「内地」と悪魔化できるからいいけれど、そのうち「道産子」の内部の差異を抑圧する方向に向かう可能性がなきにしもあらず。