キャシー・マッコード「虹の架け橋」

キャシー

洗練されたサウンドによるメロウなジャズを数多くリリースしていた、クリード・テイラー主宰のCTIレーベルがA&Mから70年に独立して再スタートをきった際、第一弾としてリリースされたアルバム。それは意外にもジャズではなく、17歳の少女による内省的なポップ・アルバムでした。彼女の名前はキャシー・マッコード。
プロデュースはもちろんクリード・テイラー。エンジニアにはルディ・ヴァン・ゲルダー。バックにはジョン・ホールをはじめとする、後にオーリアンズの母体となるセッション・グループ「サンダー・フロッグ」のメンバーの面々。オーケストラ・アレンジを手がけたのは名匠ドン・セベスキーといった豪華な布陣。CTIからのリリースじゃなかったら、完璧にウッドストックサウンドのアルバムです。そして、曲は1曲を除き全てキャシー自身の手によるものなのです。
ジョン・ホールのギターがうなる1曲目こそ、そのサイケデリックサウンド・プロダクションにちょっとびっくりしますが、続く唯一のカヴァー曲、ビートルズ「シーズ・リーヴィング・ホーム」が素晴らしいです。時計のベルの音から始まり、キャシーのはかない声が寂寥感をつのらせます。原題の「She」を「I」に代えて「I'm Leaving Home」として歌っているので、カヴァーにもかかわらず、キャシー自身の孤独な心境がうかがえるような・・・。そしてアルバムの個人的なベスト・ナンバーは3曲目の「Candle Waxing」。国内盤のライナーノートを執筆した宮本望氏が金延幸子と比べてるのも納得の名曲で、ヒューバート・ロウズのフルートも美しい。アルバムにはディキシー調のブラスが入る曲があったりと軽快なナンバーもいくつかあるのですが、キャシーの声は静かに内面を見つめているような印象を与え、単純なハッピーソングはありません。17歳の少女が主人公とは思えない複雑な味わいを持ったアルバムになっています。
キャシー・マッコードのプロフィールは当時17歳だったということ以外に詳しいことはわかっていないそうです。そして彼女が残したアルバムはこれ1枚だけ。商業的には不発に終わりました。キャシーはその後いくつかの他人の作品に参加したらしいですが、現在の消息は不明です。アルバムには彼女のコメントとして、

Born of the Mountain at a very young age,I quickly discoverd life. Now I am a singing poet with a record album. Perhaps if it makes you happy, I'll be happy,too.


という言葉が記されています。早くに自分の人生の道を音楽に見出し、それを支えるに足る才能も充分に備えていたキャシー。残された作品がこれ一枚だけというのは残念でなりません。