9-フランス人キレル

私は台湾を一周し、鈍行列車に乗り再び台北に戻ってきた。

いつもは、西門町の台北バックパッカーズという安宿に
泊まるのだが、それではいつまで経っても進歩がないし、
あそこは道路に面しており朝方、うるさい!

そこで今回は港で噂のSTAR HOSTELという
比較的新しいゲストハウスに行ってみることにした。

ゲストハウスの入り口からなんとも洒落てはった。
STARと書かれた銀色のプレートが入り口に掲げられており
一見しただけではそれがゲストハウスだとは分からない。
東京かどっかの隠れ家的美容室のような感じである。
まぁそんな美容室には行ったことないのだが。

ゲストハウスは二階にあり、階段をあがると受付があった。
そこには台湾人の女性が椅子にちょこんと座っており
私に気づくとPCを叩いていた手を止め、流暢な英語で
こんにちはと微笑んだ。

チェックインを済ませお金を払うとすぐに部屋に案内してくれた。
部屋に案内される途中の壁面までも洒落たはる。

私のようなお洒落と程遠い人間にはどうも落ち着かない。
私にはどちらかというと、香港で有名な日本人宿である
ラッキーハウスのような時々、南京虫やゴキブリ、
ネズミがでますよくらいが丁度いい。

やがて相部屋に着いたようで、ドアに鍵をさしこみ回すと、
そこからは、むさくるしい獣の匂いがむっと漂ってきた。
例えるならば野球部の部室のような匂いである。
部屋には誰もおらず、脱ぎ散らかした服やバックパック
相部屋は無残な状態になっていた。

この相部屋は男女混合らしいのだが、
私の部屋はあいにく男4人の相部屋だという事だ。

受付の女性は、その獣の香りを嗅いだ瞬間、
あら、ちらかってますね・・・。私はなんだか恐いわ・・・と言って
足早に部屋を去っていった。

私が以前台湾を旅したとき、ゲストハウスの相部屋には
決まって女性が一人はいたもんだ。
そして楽しく会話して、寝る頃には、
じゃあタワポンさんお休みなさい、電気を消してもいいかしら?
とかなんとかいって、異国の地で素敵な夜を過ごしたものだ。

でも今回の旅ではなぜか男ばかりの相部屋にまわされる。
なぜなんだ?これでは、お部屋というよりは汚部屋である!
前回の旅と今回の旅で一体何が違うというのだ!

私は真っ白なシーツの上に寝転び、
この上なくどうでもいいことをいたって真剣に考えた。
周りから見たらいかにも哲学的命題に挑んでいると
見えたかもしれない。











そして私は一つの回答にめぐりついた。
前回の旅と今回の旅で決定的に違うことといえば、

前回の旅では、ゲストハウスを予約せず直接出向いたのだが
今回の旅では予約をしてゲストハウスに出向いたのだ!

まだお分かりいただけていない人のためにもう少し説明すると
前もって予約をすると、予約をした男は、他の予約をした男と
男どうしで相部屋にされるのだ!

しかし予約をせずにいきなりゲストハウスに行くと
バックパッカーの多くが男のため、男ばかりの部屋は空いていない。
よって開いている男女混合や女性が多い部屋にまわされるのだ!

名づけて「ゲストハウス予約なしの法則」である。

遅すぎた法則の発見に枕を濡らしていると、
相部屋のドアに鍵を差し込む音がした。
ドアを開けたのは20代後半か30代前半の西洋人の男だった。
西洋人は老けてみえるから実際はもうちょっと若いかもしれない。
男はHi!といい、私もHi!と返した。

短い髪で、顔には少し疲れが見える彼はフランス人だそうで、
フランスなまりの英語を躊躇なく早口で話した。
それがアジア人の私には、たいそう聞き取りにくい。

君はどこから来たんだい?というもんだから
日本だよと答えると、彼はJAPAN・・と言い一瞬口ごもり
堰を切ったように早口の英語で話し出した。

アジアの物価は安いのに、日本だけは
なんだってあんなに物価が高いんだ!
あんなに物価が高くては旅行もろくにできないだろ!
日本はクレイジーなんだ!確かに文化は素晴らしいし、
日本は個人的に好きだが、物価はクレイジーだ!

でも韓国やシンガポール、香港、台湾も物価高いじゃん・・
私がそう反論すると彼はこういった。

韓国やシンガポールも物価は高いが、公共交通機関は安い!
でも日本は乗り物から食事から何から何まで高いんだ!
どうやって旅行しろというんだ!

なんだかゴメンなさい・・・。
私が無性に申し訳なくなって謝ると

NO!君が悪いんじゃないんだ。
でも日本の物価はクレイジーだ。そうだろ?

はぁ・・・おっしゃる通りでございます。

すると彼は突然話題を変え、二つの空きベットを指差し
ANYWAYと話し出した。

そこに二つの空きベッドがあるだろう?
そこには二人の男がいるんだが、
いつも帰ってくるのが遅くてな
深夜2時や3時に帰ってきては部屋の明かりをつけて
音をたてるんだ。こっちは寝ているのにだ!

彼はもう我慢ならんという表情である。
私が時計を見ると既に夜の11時。
彼はもう寝ようとしている。

うわぁ・・今から音たてずら〜。
私も、そんなに大きな音をたてるつもりはないが、
寝る前にたまった洗濯物を違う階にある
共同の洗濯機でどうしても洗いたかったのだ。

君も、もう寝るんだろう?

いや、それが洗濯物を洗う必要があって・・。

そうか。

うん、じゃあ、おやすみ・・。

OK、グッナイ。

私は極力気配を消して洗いたい洗濯物をまとめた。
部屋が真っ暗では洗濯から帰ったときに何も見えないだろうと思い、
私が私のベットの上の私専用のライトを
つけたまま洗濯に行こうとすると、
まだ寝てなかったフランス人が大声を出した。



電気を消せよ!



Oh,sorry.とりあえずそう言っておいたが、
自分のライトぐらいつけてもいいだろうに!

まったく神経質なフランス人である。
私が洗濯を終えて眠りについたのは夜12時だった。



どれだけ眠っただろうか。
私はふと目が覚めた。なんで目覚めたんだろう。
そう思い時計を見ると深夜の2時である。
なんでこんな時間に・・。

ん?それにしても、まぶしい・・。
なんなんだ・・・と思って上を見ると天井のライトがついている。
ま、まさか・・・部屋のライトをつけるという
噂の男が帰ってきたのか?!

確かにものスゴイ騒音というわけではないが
耳栓をしている私の耳にもカバンをごそごそする音が聞こえる。
これは間違いなさそうだ。

やばい・・・。
このままでは第三次世界大戦が勃発するぞ・・!!!


私が心配していると、事件はすぐに起こった。
フランス人のベッドが揺れている。
寝返りをうっている!まさか起きたんだろうか?

その予感は的中し、すぐにフランス人の怒鳴り声が部屋中に響いた。

電気を消せよ!今何時だと思っているんだ!俺達は寝てるんだ!カバンを置いてすぐ電気を消せ!

ん?俺達?WEですか?確かに私も寝てましたけど。。
私を世界大戦にまきこむおつもりでしょうか?
日本は参戦しませんよ。だって憲法9条がありますからね!!!!!

私はあくまで寝ているふりをして、
耳に全神経を集中して成り行きを見守っていた。
誰の血も飛ばないことを祈りつつ。

深夜にライトをつける男はどこか不満そうな感じだったが
しばらくして無言で電気を消した。

はぁ・・・。
最悪の危機は免れた。それにしても嫌な夜である。
私の胸の鼓動は激しいリズムを打ち、もう当分眠れそうもない。
私は電気が消えて暗くなった部屋で思った。

これだから男部屋は嫌なんだと。

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STAR HOSTEL(台湾)
http://www.yyisland.com/yy/tpe/item/3058

ラッキーゲストハウス(香港)
http://www.geocities.jp/vajrasatwa2007/index.htm