平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

モーリス・ルブラン『ルパン、最後の恋』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

突然自殺した父レルヌ大公は、一人娘のコラへの遺書に意外なことを記していた。コラの身近には正体を隠した、かのアルセーヌ・ルパンがいる。彼を信頼し、頼りにするようにと。やがて思いがけない事実が明らかになり、コラはにわかに国際的陰謀に巻き込まれることに……永遠のヒーローと姿なき強敵との死闘が幕を開ける! 著者が生前に執筆しながら封印されていた、正統アルセーヌ・ルパン・シリーズ正真正銘の最終作!(粗筋紹介より引用)

2011年、ルブランのエッセイ「アルセーヌ・ルパンとは何者か?」を併録し、フランス・バロン社より刊行。『ジュ・セ・トゥ(Je sais tout)』第6号(1905年7月15日)に掲載された、アルセーヌ・ルパン・シリーズ第一作である「アルセーヌ・ルパンの逮捕」(雑誌初出版)を加え、2012年9月、ハヤカワ・ポケットミステリより邦訳刊行。『バーネット探偵社』未収録作品「壊れた橋」を加え、2013年5月、ハヤカワ・ミステリ文庫化。



稀代の怪盗、アルセーヌ・ルパンシリーズ最終作。ルブランが1936年9月にいったん書き終え、推敲を始めながらも2か月後に脳血栓発作を起こし、1937年初頭で加えられた推敲を最後に、最終稿に至らないまま忘れ去られ、幻の作品となっていた。存在は知られながらも、『奇岩城』のような傑作に及ばないから、という理由でルブランの息子・クロードが出版化を拒否していたという。クロードが1994年、妻ドゥニーズが1997年に亡くなり、膨大な資料を受け継いだ孫娘フロランスが2011年に発見したという。

40歳になったルパンの最後の冒険、となるのだが、不幸な子供たちを救っていろいろ教え込むと言ったあたりは非常に珍しい。ただ唐突な場面転換、よくわからない設定が登場するなど、まだまだ推敲不足といった感はある。ルパン・シリーズ最後の作品という意図をもって描かれたとのことだから、ルパンの意思が未来まで引き継がれていくというあたりをもっとふくらませて書いていただろう。それが『ルパン三世』(漫画)に出てくるルパン帝国になったらちょっと嫌だが(苦笑)。

短編「アルセーヌ・ルパンの逮捕」は、単行本版がどうだったか思い出せず、その辺はもう少し解説に書いてほしかった。「壊れた橋」については、バーネット探偵社シリーズらしいやり取りが面白い一冊で、ルブラン円熟期の作品として楽しめる。
何はともあれ、21世紀になってルパンの新作を読めることができるとは思わなかった。その幸福を味わうのが、この一冊である。