アメリカ大学院留学の利点

アメリカ留学には多くの準備が必要です。TOEFLGRE(共通試験)などの試験を受けて、Statement of Purposeや推薦状などを準備しなくてはなりませんし、まずどの大学院に応募するのか決めなければなりません。
これらの情報に関しては本で探すのもいいですし、ウェブには是永先生の理系留学のススメという素晴らしい情報ソースがあるのです("WebBook:「理系留学のススメ」"をクリックすればTabel of Contentsが出てきます)。このウェブサイトはもし今まで知らなかったのであれば、ぜひチェックしてみることをお勧めします。是永先生は地球物理学を専門にされているようですが、サイトに載っている情報はほとんど生命科学分野にも適応できます。
私はアメリカの大学院で研究することは日本の大学院で研究することよりも優れていると考えています。もし大学の世界ランキングで下位の大学院に進学することになったとしても、私はアメリカに来ることをお勧めします(私が実際そうでした)。ではなにがそんなに魅力的なのでしょうか?
すでに是永先生のサイトで網羅されているのですが(立志編を参照)、私なりにまとめてみます。日本語と英語、どちらが先か(2)も参考にしてください。
(1)お金がかからない
アメリカの大学院では理系であれば授業料を払う必要はありません。しかもその上に生活費として給料をもらうことができます。大体相場としては年$20,000-25,000ですが、大学のある地域により物価も違うので、物価が恐ろしく高い場所(ケンブリッジやサンフランシスコなど)では支給額はこれより多いかもしれません。また在籍年数が増えるにしたがって支給額も増えます。
(2)英語が上達する
授業が英語ならば、テレビをつけても英語、クラスメイトと話すのも英語なので、アメリカに来た当初から必死になって覚える必要があります。そういう状況に身をおくことで、英語を学ぼうという意欲も大きく変わります。まずすぐに上達するのは科学用語や学術的な文章のヒアリングでしょう(授業を沢山受けるので)。そのうち次第に日常会話も上達していきます。読み書きは日本でもある程度学べるので、多少はできると思いますが、それ以外の能力の上達によって、例えばphraseの使い方や語彙の選択も自然にできるようになります。私は試験では最初の頃書くスピードが遅くて、アメリカ人が2時間で終わらせるテストを5時間もかけて解いていたりしたのですが(教授も辛抱強く待ってくれる)、そのうちに書くスピードも早くなりました。意味が正しく伝われば文法上のミスなどはあまり点数に響かないので、最初から余裕を持って英語を習得できます。
(3)豊富な授業と試験
私が数ヶ月間在籍していた日本の大学院では週2-3時間、講義型の授業を履修すればいいだけでしたが、こちらでは週12時間の履修を義務づけられています。しかも教授がかわるがわる思い思いに自分の研究について発表するような授業とは違い、ちゃんと体系立てて教えてくれるので、一つの授業で大変多くのことを学ぶことができます。これはResearch paperとReview paperの違いに似ているでしょう。どっちのほうが大学院を始めたばかりの生徒にとってより多くのことを学べるかといえば、後者であることは間違いありません。また試験もMid-termとFinalの二つは必ずあり、時々さらにもうひとつMid-termがあったりします。試験結果は授業のGradeに影響するので、もし奨学金に応募しようと考えているのであれば、いい成績を取る必要があります。もしそうでないのであっても、平均B以下であれば退学させられます(成績はA-Fまで)。まあ普通はB-以下になることはまずありませんが。ポスドクへの申請には授業の成績はまず関係ありません。
これ以外にも最初の2年間を過ぎるとCandidacy Exam(あるいはQualifying Exam、日本の博士課程入試に相当)というのが存在し、プロポーザルと口頭試問をクリアしなければなりません。これをクリアできなければもちろん退学です。このように退学するための道は豊富なのですが、そのかわり得られるものも同様にとても大きいと思います。
(4)外部講演者によるセミナー
ここでも何度か書きましたが、アメリカの大学院では外部講演者によるセミナーが頻繁に行われています。私の大学の生命科学系では少なくとも週3つのセミナーが別々の学科により行われていて、それぞれの分野で活躍する多くの科学者が大学を訪れます。大学院生はどれか一つのセミナーを履修するのが必須になっています。このような講演を聴くことで、毎日自分の実験のことばかりを考えていては得られないような広い視野と多様な知識を得ることができます。もしかしたら自分の実験の転換点となるような情報を得られるかもしれません。また、多くの学科には年に1度、記念講演というものが存在し、世界的に著名な研究者を招聘して講演してもらうこともあります。記念講演に呼ばれるのは大変名誉なことでもあるので、多忙な研究者であっても、大学に来てくれます。私の学科では記念講演に招待する研究者を大学院生による投票で選んで、講演も大学院生が司会します。
(5)異なる文化を体験することができる
アメリカには様々な文化的背景をもつ人たちが学びに来ています。日本の大学院では中国人と韓国人が留学生のほとんどを占めていますが、アメリカにはそれ以外の多くの国から来た人たちがいます。彼らと普段から接することで世界の広さを実感できるだけでなく、多様な考え方を身につけることができます。
(6)同僚と対等な関係を築ける
日本では教授を頂点としたヒエラルヒーが根強く残っていますが、アメリカではまず上下関係を気にする必要はありません。他人に対して尊敬の念を持って接することは当然ですが、研究室のボスに対しても、友達に対して接するのと同じように接するのに臆する必要はありません(そうさせない雰囲気を発している教授もいるにはいますが)。フランクに接することのできないボスは大体の場合(A)自分のことしか考えていない教授、もしくは(B)超有名教授くらいしかいません。学生のノートを毎日チェックしたり、休日も働かせたりする(A)のようなボスはどこでも嫌われています。少なくとも私が考える最も優れたボスとは、(i)実験スケジュールは学生の自由に任せる(ただほどよいプレッシャーは必要)、(ii)プロジェクトに関するアイデアを学生と議論して煮詰める、(iii)学生の持ってきた興味深いデータに一緒に喜び、さらなる実験を議論できる、(iv)失敗したデータにはalternative experimentsを提案、あるいは議論できる、ようなボスであると考えます。これらを実現するためには、ボスと学生の対等な関係が不可欠です。でも素晴らしいことに、これらの条件を満たして、「君は一緒に働いている大切な仲間だよ。」と面と向かって言ってくれるようなボスがアメリカには沢山いるのです。
どうですか?日本の大学院に進もうと思っている方もアメリカに行ってみたい、と思ってきませんか?(そのような人が見ておられるかどうかはわかりませんが)
[追記]留学カテゴリーを追加して過去の記事のカテゴリーも少し編集しました。