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2008-12-18

タケルンバ卿にウェルベックを勧めてみる。 タケルンバ卿にウェルベックを勧めてみる。を含むブックマーク

グダグダ言うな、万札握って走り出せ - (旧姓)タケルンバ卿日記

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※元記事削除済。

なんか反省しきりみたいですが、まあそれはそれとして。まずは「北方メソッド」にトドメを刺しておかないと。

「似たような話を何回繰り返すんだよ!」とツッコミたい人はしばらくこの動画でも見てて下さいね。そのうち終わりますんで。

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さて。

タケルンバ卿はミシェル・ウェルベックという小説家をご存知でしょうか。

この手の話に関してはウェルベックが一番辛辣かつ絶望的なのでブコメで引用したんですが、タケルンバ卿の言う「負債」というのは“現在の社会において”決して消えることのないものなのだ、というのがウェルベックが一貫して主張していることで御座います。

ブコメでは文字数の関係で抜粋の抜粋になってしまったので該当箇所を引用し直すと、

そうだとも。ずっと前から駄目なんだ。最初から駄目なんだよ。ラファエル、君は絶対に、若い娘が抱くエロチックな夢をかなえられない。仕方がないものと諦めなくてはいけない。自分はこういった物事に縁がないことを受け入れることだ。いずれにせよ、手遅れなんだ。いいかい、ラファエル、セックス面における敗北を君は若い頃から味わってきた。十三歳から君につきまとってきた欲求不満は、この先も消えない傷跡になるだろう。たとえ君がこの先、何人かの女性と関係を持てたとしても――はっきりいってそんなことはないと思うけど――それで満たされることはないだろう。もはや、なにがあっても満たされることはない。君はいつまでも青春時代の恋愛を知らない、いってみれば孤児だ。君の傷は今でさえ痛い。痛みはどんどんひどくなる。容赦のない、耐え難い苦しみがついには君の心を一杯にする。君には救済も、開放もない。そういうことさ。

「闘争領域の拡大」P,133

という絶望的な認識を彼は提示しているわけです。

時間が不可逆的なものであり、また「青春」というものが一過性のものである以上、そこで負ってしまった“過去の負債”を“現在の通貨”で返済することはできない。それは全く別の代物である。そして、id:y_arimさんやid:raf00さんが言うところの“負債の利息”は消えないどころか年月と共に君の人生に積み重なっていくぞ、ということですね。

つーことで、万札を握り締めてソープに行った程度で完済できるほど“童貞という名の負債”は軽いもんじゃねーぞ、ということをウェルベックに代わり主張してしておきます。


この認識は確かにシニカル過ぎるかもしれませんが、しかし彼が現状を冷徹に分析し描き出すこの「性愛を巡る戦場図」には確かな真実が含まれているように思います。まるで“そうあるはずだった過去”を追体験するかのように学園もののギャルゲーラノベにハマる大人の存在や、『耳をすませば』や『時をかける少女』が再放送される度にあちこちから聞こえる“うめき声”なんかを参照するに、ウェルベックの現状認識に合致する人はそれほど少数でもなさそうです。今回のタケルンバ卿の振る舞いもまた、その一例となるのかもしれません。

ここまで読むと誤解されそうですが、ウェルベックはそのような“負債に苦しむ人々”を愚かだと笑っているのではありません。逆に、彼自身はそういった人々に同調し、性愛を“誰もが受容できるもの”と信じて憚らない“普通の人々”の方こそ愚かだと嫌悪しています。はっきり言ってあんたら鈍いぜ、と。

彼の別の著作である『ある島の可能性』では「老い」というより普遍的な“負債”によって「性愛の戦場」から疎外され、押し潰される主人公の無様な様が描かれています。

既に「経験」がコモディティ化し「老い」に大した価値がなくなりつつある現代にあって、元々「老い」に価値を見出すことが稀な「恋愛」という戦場では、僕らはひとつひとつ確実に「武器」を奪われていく。そして、いつからか、「戦場」に立つことさえ許されなくなる。僕らは武器を奪われたまま、「若さ」というかつて自分が保持していた鎧を身に纏った戦士が、獲物を刈り快楽を独占する様を指を咥えて眺め続ける。あるいは、彼らの格好や振る舞いだけを真似て、着てもいない「若さ」という名の鎧を着ている気になっているだけの、「裸の王様」ならぬ「裸の戦士」となり嘲笑される。そう、求められるのはたったひとつ、「諦念」によってその事実を受け入れることだけだ。

全ての人間は「非モテ」になる。〜ミシェル・ウェルベック『ある島の可能性』〜 - 想像力はベッドルームと路上から

“過去の負債”を“現在の通貨”で完済できないのと同様に、“現在の貯蓄”では“未来の負債”を賄いきることはできないのだ、ということですね。そして多くの人は実際にその事実に直面するまで気がつくことはない。だから現実が受け入れられず、狼狽することになるのだ、と。

そのような状況に対して“彼ら”が何を選択しどうなるのかは読んでのお楽しみ、ということで。

闘争領域の拡大

闘争領域の拡大

ある島の可能性

ある島の可能性

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