石裂山、23年ぶり再訪

 









 










 

 
 鎖場と岩尾根を巡る信仰の山で知られる鹿沼市上久我の石裂山(879.4m)回遊コース(前日光県立自然公園)に出かけた。1991年に3件の死傷事故があり2人が亡くなった、私にとっては曰くのハイキングコース(当時)である。それから23年余り。危険ヵ所は整備され、登山コースに衣替えされていたが、細い登山道のうえ、急勾配のアップダウンが多く、中高年には気の抜けないコースには変わりない。今年2月の記録的な大雪の影響で登山コースのあちこちが倒木でふさがれて歩きづらかった。痩せ尾根の岩場にひっそりと群生するピュアホワイトのヒメイワカガミにはとても癒された。

 死傷事故があった当時は、鎖場や鉄梯子などは必要最小限程度に設置されていたように思うが、現在では急勾配のヵ所にはアルミ製の梯子が設置されていたり、鎖もステンレス製のしっかりしたものが設置されていた。成樹脂性のコースを示すロープや、危険標識、従来からの鉄梯子なども要所要所に設置されていた。

 全体的には危険ヵ所の喚起を促す標識が目立った。地元関係機関の安全策の一環と思われるが、事故の後、ハイキングコースを登山コースに改めたが、以前のハイキングコースの標識もコース内に残っており、ちょっと統一感に欠ける。私などどっちなんだ、と再三迷った。まあ登山コースなのだろうが、山中の標識は重要性が高いのできちんと統一してほしいものだと思った。

 今思うと、当時の地元行政機関はパンフレットなどで石裂山周遊コースをハイキングコースとして紹介していた。大手山岳書籍出版社でも石裂山をハイキングコースとしてガイドブックで紹介していた。中高年の登山ブームと相まって山岳事故も多発している背景もあった。

 当時の地元紙によると、1991年3月6日、埼玉県の職場グループの女性(当時61歳)がヒゲスリ岩の鎖場で滑落死。同9月1日、栃木県壬生町の武道愛好グループの男性(当時37)がやはりヒゲスリ岩で滑落死。同10月5日、東京都の主婦らの登山グループの女性(当時57)が下山途中月山直下の岩場で滑落し、1ヵ月の重傷を負った。地元警察署は、いずれも現場は急傾斜の岩場で、「自己過失」による滑落・転落事故と断定した。その後も散発的に死傷事故は続き、現在、現地の立て看板には5人が死傷していると記されている。

 さて、今回の山行だが登山道が倒木で歩きづらかったことと体がなまっていたせいもあり、一言で言うととても辛かった。倒木で登山道がふさがれていて千本桂まで行くのにも一苦労した。この間、登山道の左手にはシカ除けの防護ネットが延々と張り巡らされていた。所々倒木でネットが倒れていたり、雑草が絡みついてネットがたわんでいたりと、シカの侵入を防ぐ役目はほとんど果たしていないように見えた。その証拠に付近にはシカが食んだとみられる野草の食み痕が至る所に見られた。奥日光や足尾のシカはこんな所まで分布域を拡大している。近年ではサル・イノシシ・クマなどの分布も報告されている。こんな情景は少なくとも22年前までは報告されていなかった。前日光の自然は大きく変わりつつあるようだ。

 登山道をふさいでいる倒木は、今年2月に2週間連続(2月8、15日)で関東信越を中心に降った大雪が原因であるようだ。新聞などによると、本州の南を発達しながら通る南岸低気圧がもたらした記録的な大雪だった。宇都宮市では1890年の気象観測開始以来最高の32cm(15日午前7時)。最大瞬間風速は奥日光で34.2m/s(西南西、16日午前8時22分)をそれぞれ記録した。気象庁の異常気象分析検討会では30年に1回程度起こる「異常気象」との見解を示した。

 登山道付近は広葉樹林よりも拡大造林のスギ・ヒノキの植林地が多く、30〜50年程度のスギが縦に裂けていたり根をむき出しにして倒れていたり、大きく反り返っている姿があちこちに見られた。いずれも雪の重みによる惨状と考えられた。地元のボランティアらが登山道をふさいでいる倒木を片づけているようだが、これにも限界がある。地主をはじめ行政など関係機関が早急な整備対策を取ることが必要だろう。

 千本桂を越えてしばらくすると鬱蒼とした中ノ宮の休憩所に到着。ここに鹿沼警察署・鹿沼市・加蘇山神社の連名で過去に死傷事故があったことを記した立て看板が設置されていた。ここからはハイキングコースではなく登山コースであるとが記されていた。しかし、その先に何度も登場する案内板にはいまだにハイキングコースと記されたものもあった。

 太い鎖と梯子が掛かった数十メートルの一枚岩をゆっくり登り、奥ノ宮をのぞき、痩せ尾根を歩き東剣ガ峰、西剣ガ峰までをゆっくり歩く。ヒゲスリ岩は奥ノ宮と東剣ガ峰の間にある。整備が進み特に危険ヵ所という感じはせずに通り過ぎた。午前9時ごろから登り始めたので、昼近くになりこのあたりで昼食にしようとルートから少し外れた岩場に腰を下ろしてストーブでお湯を沸かす準備をしながらふと目の前を見ると真っ白な可憐な山野草が目に入ってきた。えぇ〜、何だこれはイワカガミかな? と偶然の遭遇に驚いてしまった。まさに窮すれば通ず。花冠、細かく裂けた先端部、鋸葉数などの特徴を図鑑と照らし合わせて、よくよく眼を凝らして眺めた。イワウチワ→イワカガミ→ヒメイワカガミ。ようやく同定した。ヒメイワカガミには数変種あり花は白と紅色のものがある。葉縁の鋸歯はヤマイワカガミに比べて少ない。付近を捜すとそこここにミニ群落が出現した。盛りは少し過ぎていたが、群落はとても可憐で素晴らしかった。

 ルートの周辺にはスギの巨木をはじめ、モミ、ツガ、アカマツ、カシワ、ブナなどの巨木も点在していた。岩場の胸高直径50?ほどのツガはなぜか枯れ木が目立った。ある種の害虫にやられたのか、それとも酸性雨に弱いのか、本当のところはどうなのだろうか? 

 石裂山の山頂は5坪ほどの空間で展望は奥日光方面が見える程度だが、まだ真っ白な奥白根山(2,578m)が印象的だった。月山も余り展望は利かなかったがさらに奥日光(奥白根山)が近づいて見えた。祠は崩れそうで少々荒れた雰囲気だった。コース沿いには少し盛りを過ぎたアカヤシオミツバツツジシロヤシオが見られた。帰りは急な下りを踏みしめながら倒木のルートを越えて麓に着いた。

 10日から16日まではバードウィーク。どんな野鳥に出合えるかと楽しみにしていたが、ヤマガラ、ヒガラ、シジュウカラメジロ、ウグイス、コジュケイ、カケスなどの定番のほかは、オオルリ(目視)ぐらいしか出会えなかった。しかし、7種類の聞きなれない夏鳥? のさえずりを耳にした。夏鳥の目視はなかなか難しい。

 歳のせいかくたくたに疲れた。22年ぶりの再訪とあって当時を回想しながら歩き、久しぶりにいい汗をかいた。明日の筋肉痛がこわい。

 5/11 石裂山:午前9:00〜午後14:50。6.6km、10202歩(355kCal・25g)