「夜明けの街で」見たよ


どこへ出しても恥ずかしくない由美子を妻に持つ大手建設会社の課長・渡部和也(岸谷五朗)は、心の底から“不倫するやつなんて馬鹿だ”と思っていた。だが、ある日、会社に派遣社員として入ってきた仲西秋葉(深田恭子)と、ふとしたきっかけで一夜を共に過ごすことに。その後も2人の関係が続いていく中、あるとき、渡部は彼女から思いもよらぬ秘密を明かされる――。累計120万部突破した東野圭吾のベストセラー小説を、『沈まぬ太陽』の岩松節郎監督で映画化。

『夜明けの街で』作品情報 | cinemacafe.net

(注意)
浮気について肯定的な表現をしている部分がありますが、わたしは浮気をしたことがなければする予定もないので不貞を働いているとか浮気する気だろうという指摘や憶測はご容赦ください。
あと、作品の内容や結末に触れている部分があるので未見の方はご注意ください


TOHOシネマズ宇都宮にて。


原作は何度も繰り返し読んでいるくらい大好きな作品でして、もしかしたら東野さんの著書の中では一番好きなんじゃないかというくらい愛読しています。これと白夜行シリーズはわたしにとっては東野作品の双璧といってもよいと思います。


では、いったい原作のどのあたりがいいと感じたのか改めて読み返してから思い返してみたのですが、二点これは!というところがありました。ひとつは「この世に絶対と言い切れることはないということをはっきりと示したところ」であり、もうひとつは「打算は愛情よりも強いことを描いているところ」です。
後者はともかく、前者については以前書いた感想にたぶん書いているはずなので(あまり覚えてませんが)今回は割愛しますが、わたしはとにかく物事を理屈だけで判断しがちでして、例えばなんの得にもならない不倫なんて絶対にしないとずっと思っていたのです。でも世の中には実際にその立場になってみたり経験してみないとわからないことがたくさんあるわけで、そういうところの認識の甘さというか考えの温さを思い知らせてくれたのがこの作品だったのです。
「不倫なんてバカのすることだ」と豪語していた男性が、ゆるゆると流されるように不倫にハマっていってどんどん逃れられなくなる様子はどんなことも決して他人ごとではないことを嫌というほど思い知らされたのです。


そんな大好きな作品が映画化されるということで、期待半分で観てきましたがよいアドリブが加えられていたことは認めつつも全体としてはちょっと残念な作品だと感じました。映画単体としてみればまた違うのかも知れませんが、原作に強い思い入れがあるためにニュートラルな目線で作品を評価することはなかなか難しかったです。


まず原作との違いを挙げる前に申し上げておきたいのは、わたしがこの作品を評価できないのは原作との違いのせいではありません。以下でくわしく書きますが、原作に対するアレンジはテキストの映像化という点で考えるととてもよい変更だと思っています。


原作からの変更点は大きく2点。

1.サスペンス部分が希釈されてほぼ不倫映画になっている

秋葉への気持ちは決して揺るがないと確信していた渡辺が、利己的な打算によってつよく揺さぶられる出来事として「ある事件」が描かれるのですが、この事件の扱いが映画ではかなり雑になってしまっていました。具体的には原作に出てきた刑事や被害者の家族がごっそり消されてしまっていたのですが、このことからも過去の事件を重要なものとして描く気がないことがうかがえます。
ただしこれについてはさほど悪くない改変だと思っていて、「秋葉への想いが打算抜きで本当なのかどうか」悩む一イベントを削るだけで登場人物が削れると考えれば原作にこだわる人以外には登場人物は減ることを優先するのが正しいのかなと感じました。

2. 結末がホラー

続いての変更点は、原作では描かれていなかった渡部の妻の心の表情が描かれていたことです
原作だと「渡辺の浮気は終わったけど実は妻にはばれていた...」→「家庭を守るために妻は自分の感情を押し殺して耐えていた...」という最終的な流れは不定のまま終わりが告げられるのですが、映画だと最後に妻が「勝手に幕を引かないで」とこれから一生続くであろう旦那にとっての地獄の日々をはっきりと予感させて終わるんですよね。


まあ原作も映画も「どれだけ男が浮気がばれないように頑張ったとしても、ちょっとした変化にも敏感に気付く女性には隠し通すことはできないんだぞ」と観ている男たちを恫喝していたことは間違いなく、このシーンを観た世の既婚男性は「浮気はぜったいに止めておこう」とひそかに心に決めたと断言できるくらいにこのシーンはなかなかにホラーでした。


ではいったいこの映画の何がよくなかったのか?と言うと、目立った欠点があるわけではなくて単に原作の方がおもしろいからなんです。


上ではアレンジも悪くなかったと書きましたが、それはあくまで初見の人に対する変更としては悪くないというだけであって、物語のおもしろさとしては原作の方が数倍おもしろいんですよ。全体の構成をシンプルにするために原作のあちこち削って体裁を整えたのがこの作品の脚本であり、元の話を知っている自分からみたらすごく物足りないんです。


それ以外にもいろいろと不満はありますが、「元の話がもっていたエッセンスが薄まってしまっていた点」にもっとも大きな不満をおぼえました。


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