「エンディングノート」見たよ


熱血営業マンとして高度経済成長期に会社のために駆け抜けたサラリーマン・砂田知昭。40年勤めた会社を退職し、第2の人生として歩み始めた矢先に、胃がんが発覚。愛する家族のため、そして人生総括のために、彼が最後のプロジェクトとして課したのは自身の終焉に段取りをつけることだった。彼は“エンディングノート”と呼ばれる段取りを作成し、ラストに向けて動き出すが…。

『エンディングノート』作品情報 | cinemacafe.net

新宿ピカデリーにて。


末期ガンにかかった一人の男性(監督の砂田さんの尊父)が、自身の最期をプロデュースする様子を記録した作品なのですが、つよく情感に訴えかけてくるすばらしい作品でした。ユーモアあふれるお父さんの行動に笑わされた次の瞬間に、理不尽に生に終わりを告げられることの残酷さを思い知らされて涙がぼろぼろこぼれおちてしまうくらい泣いてしまったりしました。この感情の揺さぶられ方は、単に人間の死を題材にしたことで生まれる感動とか悲しみとはまったく違っていて、例えるならば親戚一同として近親者の最期を見守っているときに感じるような温かさを伴った心情の揺れ動きに近いような気がしました。


劇場全体が大好きだった故人の生前を偲んでいるようなそんな空気がただよう中でこの作品を観ていたら、こんなに多幸感あふれるドキュメンタリー作品に出会えたことに感謝せずにはいられませんでした。


さて。
本作はいわゆるセルフドキュメンタリーに類される作品なのですが、なんていうか家族が撮影していることを忘れそうになるくらいものすごく目線が客観的なんですよね。そのことから砂田監督が「家族としてではなく撮影者としてその場にいるんだ」という覚悟をしっかりもって撮られていたことが伝わってきましたし、父親が死に瀕しているその状況において、家族としてではなくあくまで撮影者という第三者的な立場をとることの大変さを想像するとすごいなと思わずにはいられませんでした。


そしてあえてそのようなスタンスをとったことで、セルフドキュメンタリーであれば当たり前にあるはずの娘としての立ち位置を示すことがアクセントとなり、それがこの作品につよい個性を与えているように感じられました。


一個人の生きざまを客観的に見つめることで「人間が生きること/死ぬこと」という、より普遍的なテーマに昇華されていましたし、けれどもそこにセルフドキュメンタリーらしい個人の視点を加えることで身近で具体的な物語としても観ることが出来ました。


実を言うと、わたしはこの映画のことはまったく知らなくて10月1日に公開されて以降も完全にスルー状態でしたが、twitterである方に教えていただいて初めてこの作品のことを知りました。もともとドキュメンタリーが大好物というわけではないので、普段であれば遠出してまで見ることはないのですが、予告を観たり砂田監督のインタビュー記事を読んでいるうちにいま何としても観なければならない作品だと思うようになったのです。


で、実際に観てきたら今年観た中ではベスト作品と言っていいくらいすごくおもしろくて、この作品っを教えていただいた方にはとて感謝してますし、twitterをやっていたことでこの映画を知ることができてよかったなと心から思ったのでした。


現時点で断トツの本年ベスト作品候補です。大傑作!


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