最近読んだ本の感想(2014/10/16〜10/31)


2014年10月16日から31日に読んだ本のまとめ

74. 天の夜曲 - 流転の海 第4部

天の夜曲―流転の海 第四部― (新潮文庫)

天の夜曲―流転の海 第四部― (新潮文庫)

昭和31年、熊吾は大阪の中華料理店を食中毒事件の濡れ衣で畳むことになり、事業の再起を期して妻房江、息子伸仁を引き連れ富山へ移り住む。が、煮え切らない共同経営者の態度に、妻子を残して再び大阪へ戻った。踊り子西条あけみと再会した夜、彼に生気が蘇る。そして新しい仕事も順調にみえたが…。苦闘する一家のドラマを高度経済成長期に入った日本を背景に描く、ライフワーク第四部。

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流転の海の第四部である「天の夜曲」は熊吾にとって大きな失敗から始まります。

人生には、しばらくしてから振り返ったときに「あそこでくだしたあの判断が人生を左右したな」という分岐点、俗に「ターニングポイント」と呼ばれるときがいくつかあります。この「流転の海」シリーズは主人公の熊吾が50歳で子を為してからを描いた物語ですが、この一連のシリーズの中で熊吾にとってのターニングポイントとなる出来事が二つあったと思っています。

ひとつめは御堂筋にあった松坂ビルを売り払って南宇和に引きこもることを決めたとき、そしてもうひとつは本作の富山に活路を見出そうとしたときです。


本作は失敗に失敗を重ねる熊吾の様子を描いた作品であり、正直読んでいてしんどい部分が多かったです。

75. 花の回廊 流転の海 第5部

流転の海 第5部 花の回廊 (新潮文庫)

流転の海 第5部 花の回廊 (新潮文庫)

昭和32年、松坂熊吾は大阪で再起を賭け、妻房江とともに電気も通らぬ空きビルに暮らしていた。十歳になった伸仁は尼崎の集合住宅に住む叔母に預けられた。居住者たちは皆貧しく、朝鮮半島からやってきた人々が世帯の半ばを占め、伸仁は否応なく凄絶な人間模様に巻き込まれていく。一方、熊吾は大規模な駐車場運営に乗り出す。戦後という疾風怒涛の時代を描く著者渾身の雄編第五部。

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再起に向けて立ち上がろうとした矢先に起きた事件でまたもやその道は潰えてしまった熊吾。
息子を妹の住む尼崎に預けて妻とともに働き、新しい事業を興そうと躍起になっている様子を描いているのが本作第五部。

本作で印象的なのは妹の住んでいる集合住宅には朝鮮半島からきた人たちが住んでいて、その人たちとのやり取りが多く描かれている点です。熊吾は朝鮮の人たちのことを「突然とんでもなくキレることがあってそのことは理解に苦しむ」と評しているのですが、だからと言って差別をしたりすることは一切しません。周囲の人たちが朝鮮から来た人たちのことをとりたてて理由もなしに悪くいうことはよく思っておらずそういった言説に同調することなくきっちりと批難をぶつけます。

人種で人を区別することが当たり前だと思っている人の多い時代において、人種ではなくあくまでその人自身の人間性を評価しようとしている熊吾に非常に好感がもてました。


76. 慈雨の音 流転の海 第6部

流転の海 第6部 慈雨の音 (新潮文庫)

流転の海 第6部 慈雨の音 (新潮文庫)

皇太子御成婚や日米安保東京オリンピックのニュースに沸く昭和三四年、松坂熊吾の駐車場経営は軌道に乗り、新事業に手を広げていく。妻房江も日々の暮らしに明るい楽しみを見出し、中学生になった息子伸仁は思春期を迎える。かたや北朝鮮へ帰還する人々との別れがあり、戦後より数々の因縁があった海老原太一の意外な報せが届く。大阪の町に静かな雨が降る―。人は真摯に生きるとき、諍いの刃を受ける。しかし己れが春の風となった微笑めば、相手は夏の雨となって訪れ、花を潤す。戦後の時代相を背景に、作者自らの“父と子”を描くライフワーク第六部、大阪・隆盛編。

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77. Nのために

Nのために (双葉文庫)

Nのために (双葉文庫)

超高層マンション「スカイローズガーデン」の一室で、そこに住む野口夫妻の変死体が発見された。現場に居合わせたのは、20代の4人の男女。それぞれの証言は驚くべき真実を明らかにしていく。なぜ夫妻は死んだのか?それぞれが想いを寄せるNとは誰なのか?切なさに満ちた、著者初の純愛ミステリー。

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