給油


旅先で日が暮れると
不安になる。
世界が急速に変わる
気がする。


しかし一方で、その変わる
世界へと足を踏み入れる
独特な不安感を一旦通り
過ぎると、快感、とまでは
いかないまでも、不可思議な高揚感に覆われる事もある。
そうなると不安感はいつの間にか消えてしまう。しめたものだ。


この日も旅先で日が暮れた。京都の市街地で給油。前回給油から
301.6km走って13.2L入った。燃費は22,8km/Lってとこか? 上等だ。


日没後の走行、世界が変わった中、疲労感の一方で今回もまた
不可思議な高揚感がやって来てくれた。もう15年以上、何度となく
味わって来たこの感覚。そして久しく忘れていたこの感覚。


今は冬。でも唐突に大阪から青森まで一気に走った夏の夜を想い出した。
1994年だったか。まだ二十歳そこそこ、無駄に元気だった。排気量の
少ないオフ車で頑張って走っていた。今乗っているバイクの3分の1にも
満たない排気量。でも燃費は今の倍以上。お金のない僕には丁度良かった。



お金はないけど時間があった。どこまでもどこまでも走った。
東北の山間部で深夜に見上げた天の川の絶望的な美しさや、
眠気覚ましのアイスクリームや、覚めないで突っ込みかけた
路肩での急停車後の戦慄や、口ずさんでいた適当なメロディーや、
長距離便のトラックのテールランプの光跡や、その頃夢中になって
読んでいた沢木耕太郎の「深夜特急」の文庫本の事や、あこがれて
いたあのひとの事や、いつか来る自由の終わりや、世界の終わりや・・・


深夜営業のドライブインで呆けている。路肩の闇の中で地べたに
転がっている。バイクに跨ったまま突っ伏している。そいつを
繰り返しつつ、旅は続いてゆく。


給油する。深夜のスタンドで談笑したあの日の店員さんは、今は
何をしているのだろうか。セルフ式になったスタンド、自分で
ガソリンを入れながら、ふと想う。時代は、もう還ってこない。


疾駆せよ。どんなに形を変えても、それを続けられるのであれば。


寝ます。明日もいい日にしてみせますよ。ではまたね。