タウロウルソデオキシコール酸のインスリン作用改善

タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)は胆汁酸の一種であるが、分子シャペロンとしても作用する。シャペロンというのは「社交界にデビューするお嬢様についていくおつきのひと」という意味が元だが、生化学ではタンパク質の正しい立体構造が乱れないように正す役割を持ったタンパク質を指す。HSP70が代表だ。インスリンの効果が悪くなるインスリン抵抗性はタンパク質を合成している小胞体(ER)に異常な立体構造のタンパク質がたまることによっても起こる。そうするとTUDCAがシャペロンとして作用するとERのストレスを緩和してインスリン抵抗性が改善する可能性がある。細胞の外から与えたTUDCAが細胞の中で、しかもERの中で作用する可能性は「そう?」と思うが、論文の著者にインスリン抵抗性の大御所Hotamisligilが名を連ねていると読んでみる価値がありそう。肥満した20名のボランティアにTUDCA1750mg/日または偽薬を4週間飲んでもらい、インスリンクランプを行い、筋肉と脂肪細胞の生検を行った。非常に念の入った検査で信頼性が置けそうだが、ふつうの研究機関ではなかなかできそうにない。筋肉と肝臓のインスリン抵抗性はTUDCA群で30%改善した。筋肉のインスリン作用を現すインスリン受容体基質(IRS)タンパク質のチロシンリン酸化とリン酸化AktキナーゼがTUDCA群で増加した。偽薬では変化なかった。当初の仮説と異なりERのストレスを示すマーカーは変化していなかった。
胆汁酸は転写因子のFXRの刺激因子だったり、甲状腺ホルモンを活性化体のT3に変換する酵素を活性化したりするので、むしろそっちのほうかとも思うがTUDCAがFXRに結合できるのかは不明。
Kars M., Yang L. et al. Tauroursodeoxycholic acid may improve liver and muscle but not adipose tissue insulin sensitivity in obese men and women. Diabetes 2010; 59: 1899-1905