暗殺者 (講談社文庫)(グレッグ・ルッカ/講談社文庫)<6>

暗殺者 (講談社文庫)
ぶつぶつ文句いいながら、ついにシリーズ三作目までやってきましたよ。

巨額の煙草訴訟でメーカーに大打撃も与える重要証人を亡き者にすべく、世界でも超一流の暗殺者が雇われた。ボディーガードのアティカスは証人警護の依頼を受けるが、正体不明の殺人者がどんな手段で襲撃してくるか分からない。一瞬たりとも気を抜けない緊張感の中、プロとして誇りを懸けた闘いが始まる。

今回の敵というのが、アメリカでも10本の指に入ると言われている優秀な謎の暗殺者。頭脳的だし、変装とかも得意で、アティカスに直接会いにきたりするほど余裕たっぷり、自分の犯罪に美学を持ってしかもそれを証明する腕ももってる、このシリーズでは初めて登場するタイプの犯罪者だ。対する主人公・アティカスは相変わらず悲観的な職人タイプでキャラ的には完全に負けてる気がするのだが、今回は個人的なしがらみなどはあまりないせいか、アティカスもボディーガードとしての才能を発揮してたっぷり活躍してる。そういう意味ではこの3作の中では一番スマートな作品だったと思う。後味もいいし。ただそのぶんライトでちょっと物足りないと言ったらないものねだりか。
訳者あとがきによると、今回登場した暗殺者は今後のシリーズでも登場するそう。…となると続きも読みたいかも。

夏のロケット(川端裕人/文芸春秋)<7>

夏のロケット
「みんな一緒にバギーに乗って」を読んで面白かったのでデビュー作である本書をブックオフで購入。それが偶然にもid:seiitiさんのオススメでもあり、期待して取りかかる。
タイトルからしてちょっと前に読んだ「2005年のロケットボーイズ」みたいなやつかなぁと勝手に想像してたんだけど、スケールが段違いでしたね。「2005年〜」は人工衛星を作る高校生たちの青春物語で、それはそれで楽しかったし、小説としてとてもよくまとまってるのだけれども。
この物語は、新聞社の科学部担当記者である主人公が、国内のテログループが製造したとみられる小型ミサイルの写真を見たとき、高校時代の仲間の一人を思い出したことからはじまる。熱烈な宇宙少年であった主人公は高校時代、数人の仲間たちと小型のロケットを製作していた。高校卒業後それぞれの進路は別れたものの、その仲間のほとんどは宇宙に関係する仕事に就いている。その問題の小型ミサイルの一部分が、当時彼らが製作していたロケットに酷似していたのだー。奇妙な胸騒ぎを覚えた主人公は昔の仲間たちに連絡を取ろうとするのだが…
単純に「青春よもう一度!」ってかんじじゃないんだよね。冒頭に主人公がぶつかった謎が最後まで物語にからみつく。また「興味のためなら何をしてもいいのか」という科学者としてのモラルにまでぐぐっと踏み込んでくる。そして物語全体を支える著者の科学的な知識もすごい。ぶっちゃけわたしはロケットの細部や設計、材料あたりの話は9割以上理解できなかったから。でも単に科学的な話だけじゃなくて、ロケットに関わる法整備とか歴史とかいろんなことに言及してて、その圧倒的なリアリティにぞくぞくさせられる。
はっきしいってわたしは生まれてこのかた宇宙に行きたいなんて思ったこともないし死ぬまで宇宙旅行の予定がたつこともないだろうけど、でもこの主人公とその仲間たちの宇宙への熱い思いはすごく素敵だ。物語の組み立て方も上手くて、最後の最後までどきどきしながら読んだ。やっぱ宇宙はロマンなのかな…?