愛の保存法(平安寿子/光文社)

愛の保存法
フジモトマサル氏のカバーイラストがかわいい、平安寿子の最新刊。それにしてもこの人は本当にコンスタントに新刊出してくるなぁ。しかもハズレなしだし。この短編集は、なんかうまくいかない男と女の関係をユーモラスかつ味わい深く描いた、「平安寿子」らしい一作です。
一番気に入ったのは「パパのベイビーボーイ」かな。主人公は結婚間近な真面目なサラリーマン・丈彦。結婚に向け順風満帆だったはずなのに、急に恋人の琴絵が結婚を考え直したいと言い出したところから物語がはじまる。しかもその原因っていうのが、丈彦の長年の悩みの種であった実の父親だった…。
このお父さんっていうのがいいキャラなの。ハンサムで優しくてやたら女にモテる…が、定職はもたないオトコ。結婚しても浮気は数知れず、息子である丈彦と一緒にゲームやらの遊びに熱中する、子供な大人だったのだ。そんな父親を嫌悪し、さらに母親の死から3ヶ月後には女を連れ込んでいたにいたっては幻滅し、できるだけ関わらないように真面目に生きてきた丈彦だったが、さすがに結婚相手を会わせないわけにはいかない。ところが会わせたとたん、この始末。怒り心頭で父親のところへ乗り込んで行くのだが…!?
圧倒的に悪いはずの父親を責めるはずが、いつのまにか恋愛についてアドバイスされてる丈彦。そこでお父さんが言うことが的を得てるんだよね〜。

女の人には、意見なんかしちゃいけない。そもそも、女の人には男の意見なんか必要ないんだ。何か相談されたり愚痴られたりしたら、優しく抱き寄せて、よしよし、きみのしたいようにしたらいいよと、こう言ってやらなくちゃ。それが男のたしなみだよ。

はっはっは。わかってるよね。ていうか著者が女性だから当然なんだけど。なんとかこの短編、中学校の国語の教科書にでも入れてもらえないだろうか。これはすべての男が知っておくべき真実だ。「女には男の意見なんか必要ない」…蓋し名言ですよ? とくに悩み事を相談された時こそ100%、意見なんていらない。抱きしめてくれる腕と「大丈夫だよ」って言葉、That's Allだろう。
さらにパパのアドバイスは続く。

それが女心の困ったところなんだよ。僕もそれで苦労してきた。昨日と今日で、言うことが全然違うんだから。平気で矛盾してるんだよ。だけど、それが女の人ってものなんだ。だから何を言われても言い返しちゃいけない。はいはいと承る。それが女の人を安心させる、秘法献身の術。

浮気性でヒモでなかったら、惚れちゃいそうだぜお父さん!
…とついついお父さんのアドバイスにしびれちゃったわけなんだけど、でもこの物語の主軸は父親と息子の物語だ。このお父さんはダメな男だけど、でもいい父親としての一面もあった。それに気付く丈彦が大きく前進するラストは胸が熱くなります。
一番最後の「出来すぎた男」もいい。「出来すぎた」ってそういう意味じゃないから。子供が「出来すぎた」男のことだ。三度の結婚で5人の子供をつくり、さらに5人全員に愛情を注ぎ、その仕送りのせいで貧乏な信光。そんな男の最初の妻であるミチルを視点に、信光が20歳になった最初の娘・瑠璃にすべてを話す物語が描かれる。
親子の関係もからめながら、友達でもパートナーでもない、でもお互い気になるもと夫婦の微妙な距離感を描いた、この物語はひどく心地よい。
完全には許せないけど、でも憎めない。そんなキャラとそれを包む物語を描くのが、やっぱ平安寿子だよね。とても良かったです。

おすすめ文庫王国〈2005年度版〉(本の雑誌社)

おすすめ文庫王国〈2005年度版〉
なんとなく惰性で買ってしまいました。ベスト10のうち既読は6冊。ほぼ単行本で読んだものばかりでしたが。
それにしても今更気付いたんだけど、これ広告少ないね。いや少ないどころじゃないよ。表2(角川)/表3(集英社)/表4(講談社)しか入ってないじゃん! 今まであんまり気にしてなかったけど、気付いたからには気になる。書店売りしてる雑誌で、こんなに広告少ないのって他にないんじゃないの? 不思議だなぁ。
企画として面白かったのは「都内大型2書店による文庫売上ベスト100」の対談でしょうか。ジュンク堂書店池袋本店×ブックストア談浜松町店の書店員による対談が個人的にすごく楽しかったな。ブックストア談浜松町店はホームだし、池袋はほとんど行かないけど行ったら必ず寄るしジュンク堂。…とりあえずブックストア談浜松町店はいい店です。