トーキョー・プリズン(柳広司)★★★★

トーキョー・プリズン

トーキョー・プリズン

この人の作品を読むのははじめて。なのだが、ちょっとぶっ飛んだ。

元軍人のフェアフィールドは、巣鴨プリズンの囚人・貴島悟の記憶を取り戻す任務を命じられる。貴島は捕虜虐殺の容疑で死刑を求刑されているが、その記憶からは戦争中の記憶がすっぽりと抜け落ちているというのだ。時を同じくして、プリズン内で不可解な殺人事件が起きる。その殺人は<密室状況>で為されていた。フェアフィールドは貴島の協力を得て、事件の謎を追うのだが……。
実力派作家が満を持して放つ、傑作エンタテインメントの誕生!

面白いですよ〜、これ。
キジマの捕虜虐待は事実かねつ造か? フェアフィールドの捜査を妨害するのは誰だ? プリズン内で起こった不可解な事件の意味するものは? キジマとは何者なのか? …すべての謎の背後にあるのは、戦争というあまりに深い闇なのだ。
事件そのもののサスペンス性が高くて引き込まれるのだけど、物語に厚みを加えているのは<戦争>そのもの。戦争という名のもとでは人を殺してもいいのか? 完璧な民主主義は存在するか? 現実から目を背け続けた先にある未来とは? 苦しみの末に吐き出されたこの問いに、まだ人間は答えることが出来ずにいる。何度も胸が痛くなった。

正直、ミステリとしては若干強引な部分もあるけど、それはいいじゃないか、と思える出来。個々のレベルにおける戦争の重みをストレートに描きながら、物語全体をみればエンタメ作品として十分に成功している。とても良かったです。

新世界(柳広司)★★★☆

新世界

新世界

『トーキョー・プリズン』の熱気が覚めやらぬまま、この人の他の作品に手を伸ばしてみました。

第二次大戦が終わった夜、原爆が生まれた砂漠の町で一人の男が殺され、混沌は始まった。狂気、野望、嫉妬、憐憫…天才物理学者たちが集う神の座は欲望にまみれた狂者の遊技場だったのか。そしてヒロシマナガサキと二つの都市を消滅させた男・オッペンハイマーが残した謎の遺稿の中で、世界はねじれて悲鳴を上げる。

またしても第二次世界大戦がらみですが、こちらの舞台はアメリカのロスアラモス。原子爆弾を開発するために急遽つくられた、隔離された街だ。ひとつの殺人事件をきっかけに、オッペンハイマーの苦悩と、恐るべき実験が徐々に明らかになる。

わたしはオッペンハイマーの名前くらいしか知らなくて、途中で検索かけたりして読んだんだけど、オッペンハイマーはじめ登場人物のほとんどが実名のようですね。

これまた、読ませます。あまりに圧倒的な史実の前で、フィクション部分が弱く感じたけど。でも、ナチスドイツへの恐怖心から生み出された原爆が二つの都市を壊滅させた、その重圧と科学者としての純粋な喜びの狭間で、オッペンハイマー狂気に追い込まれていくあたりはとてもスリリングで良かった。そして被爆直後のヒロシマの描写はもう…小説版『はだしのゲン』ですね。字面を追うのが辛く感じたほどだった。

というわけで、一日で柳広司の戦争関連ミステリを二冊も読んじゃったわけなんですが、この人は別に戦争ものばかり書いてるわけじゃないようです。他の作品も読んでみたいな。

そして二冊連続で第二次世界大戦に関する小説を読んだわけですが、わき上がる疑問がひとつ。さんざん言われていることではあるけど、どうして日本はたった60年前に自国が深く関わったこの戦争を学校できちんと教えないのかな。たしかに教科書に載ってはいるけど、あくまで「歴史の一部」ってかんじの扱いだったし。まーいろいろ詳しく突っ込んで教えれば、あっちからもこっちからも抗議が来るんだろうけれども。でもね、義務教育のなかで、もうちょっときちんと教えないとダメだと思うよ。

とりあえずオッペンハイマーに関するノンフィクションとか読んでみたいな、と思いました。