失われた男 (扶桑社ミステリー)(ジム・トンプスン)★★★★☆

失われた男 (扶桑社ミステリー)

失われた男 (扶桑社ミステリー)

やっぱすごいよね、トンプスンは。この疾走感は格好よすぎです。

町の新聞社に勤めるブラウンは、頭も切れ、自信満々コラムを書きながら、詩作にいそしむ男。だが、なにやら秘密をかかえているらしい。そんな彼の日常を大きく変える女たちが登場する。出奔して娼婦となった妻、美しい未亡人、そして都会からの意外な訪問者―突然暴力を爆発させ、非道な犯罪を重ねていくブラウン。しかし、世間を揺るがす巧緻な殺人劇は、予想もしない罠に飲みこまれていく…トンプスン作品の中でも、傑作の誉れ高い驚愕のノワール、文庫オリジナルで登場。

語り部であるブラウンという男がくせ者だ。戦争によって性器を失ったことから精神状態が安定してなくて、ときどき記憶がすっぽり抜けたりするし、しかもひどいアル中だ。つまり信頼出来ない語り部ってわけ。そんな彼視点で次々と繰り返される凶行とその隠蔽工作をヒヤヒヤしながら読み進めたのだが……ラストのどんでん返しにあっけにとられる。そうきますか。トンプスンらしい切れ味鋭い鮮やかなラストは、読み終えてちょっとぼーっとしてしまう。最高です。
はやく未読の作品を全部読みたいなぁ。

恋愛の解体と北区の滅亡(前田司郎)★★★★

恋愛の解体と北区の滅亡

恋愛の解体と北区の滅亡

ちょっと前に読んだ「群像 2006年 05月号 [雑誌]」の特集<新人15人短編競作>の中で初めてこの人の作品を読んで、なかなか面白かったので単行本を買ってみる。この最新刊で2冊目らしい。本書は中編「恋愛の解体と北区の滅亡」と、群像で読んだ短編「ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ」の二編が収録。中身の想像出来ないタイトルだ。テンポにちょっとがたつきがあるようにも感じたけど、そんなのは吹っ飛ばす勢いある一作です。


「恋愛の解体と北区の滅亡」
えっと……一応ファーストコンタクトものかな? 数年前に地球に降り立った宇宙人に占領されている地球で、こともあろうに東京北区で地球人が宇宙人を殺害してしまった。下手すると地球滅亡か? そんな憶測が飛び交う中、この件について地球人と宇宙人の話し合いが池袋で行なわれるという晩に、主人公の塚田は愛について考えた末、なぜか人生初めてのSM風俗店デビューを果たす。そんな話です。どんな話だ。
それがまぁ面白いんですよ。とくに宇宙人が初めて地球に降り立ったときのエピソードなんて、電車の中で笑いをこらえるのに必死だったもの。ま、全体的に笑いで押してくるので、とても読みやすい。でも後半は違う意味で良かったな。身近で大事件が起こってて、可能性としては宇宙人が一斉攻撃してくる可能性があるのに、この冷めた距離感。わからないようで、なんかわかるのだ。


「ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ」
これも一応設定はSFですね。

 ファナモはウンコに代わる次世代排泄物です。ウンコはよりエレガントに、よりスタイリッシュに、よりリーズナブルに、生まれかわりました!

主人公・サヤカの恋人であるタクヤは異常なほど自分の<恰好いい>イメージに固執する男。そのタクヤがファナモに代えるきっかけとなったひと夏の想い出が描かれる。これまた爆笑です。「あけるね」が最高。

コミックファウスト (講談社 Mook)

コミックファウスト (講談社 Mook)

コミックファウスト (講談社 Mook)

本誌の「ファウスト」は読んだことないのだけど、豊島ミホのブログでやたら「面白い!」と絶賛されてたので興味がわいて買ってみた。
まだ全部は読んでないのだけど、たしかに面白かった。とくに漫画は全体的にクオリティー高かったように思う。
舞城王太郎『ぬるつペピリリ』……小説以外の作品は初めて。恋と欲にまみれた青年とオバケのタタカイ。多才ですね〜。ビックリです。絵とか普通に上手いんだね。しかも話は個性的で面白いし。漫画である意味のある作品だとも思うし。笑えます。
高河ゆん(原作:西尾維新)『放課後、七時間目』……あまりに高精度な兵器を作り続けるため監禁された天才少女と、挫折に苦しむ科学者の物語。これは素直に面白かった。絵とかキレイで好みだし。ストーリーも良かったです。
西島大介『レミュエル・ガリヴァと』……前々から読んでみたかった西島作品に初挑戦。「ガリヴァー旅行記」を下敷きにした戦争の物語。すごく不思議な味わい。絵はやたら可愛いのに、人間の本性を鋭く描いていて。新鮮だった。
TAGRO『Son has died, Father can be born.』……親子の関係をテーマにしたこの作品もすっごく良かった。小心者なくせに母親に対してだけはやたら威張り倒す父親と、そんな父親を憎む息子の物語。家族は歴史そのものだなと、じんと来ました。
ウエダハジメ『鉄人形部隊』……初体験を母親に邪魔され、童貞のまま戦場に赴くことになった少年の物語。スピード感&迫力たっぷりなのにどこか可愛い画風に圧倒された。キャラ造形もしっかりしててグッド。


あとは「世界と格闘する日本まんが!」というテキストの特集も良かった。とくに北米版『SHONEN JUMP』初代編集長の成田兵衛氏のインタビューが興味深い。何より成田兵衛氏そのものがキャラ立ってるから面白いっていうのもあるけど。
ちょうど今日、海外における日本アニメに関するニュースをネットで読んだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060705-00000013-oric-ent
結局海外ではアニメは浸透しやすく着実にファンを増やしていても、違法なダウンロードによって観ている人が多く収益になかなか繋がらない。さらにそのアニメが好きな人でも、アニメよりわかりづらい原作の漫画にまでは手が伸びない。まぁそういうもんかもしれないけどね。でも日本の漫画を一手に引き受けて海外に紹介するっていうのは、のびしろがどれだけあるかわからない、とても面白そうな仕事だと思いました。


話は『コミックファウスト』に戻って戻って。結局、小説はひとつも読んでないなぁ。わたしはなぜか雑誌の中の小説は読みにくくて仕様がない。文芸誌だってやっと最近慣れてきたところなのだ。どうもこれまで相性の悪い西尾維新に挑戦したかったのだけど、その原作である漫画『×××HOLic』さえ読んでないのに、ここで挑戦するのは無鉄砲だろうと断念。
そういうわけで、読んで良かったです。1300円というのは正直高いなと買う時は思ったけど、薄味の単行本読むよりかは全然いいですし。装丁も凝ってるし。何より読んだことのない漫画家さんばかりだったのに、どれも楽しめて良かった。第二弾が出たらもちろん買いますよ〜。