一、ニ、三、死、今日を生きよう! ―成田参拝―(笙野頼子)★★★★☆

一、ニ、三、死、今日を生きよう! ―成田参拝―

一、ニ、三、死、今日を生きよう! ―成田参拝―

新たな滑走路が出来た成田空港を観に行く。愛猫の一匹・モイラが唐突に死んでしまう。不毛な論争に疲れ果てる。何の関連性もないようにみえるそれらのことが、なぜかひとつの潮流のようになって著者の精神を追い込んでいく。自分を追いつめる「なにか」とは? ぐちゃぐちゃに散らばった思考の「整理整頓」を試みる私小説


という説明で合ってるか!?……と不安に思うのはわたしが『金比羅』で挫折してるからでしょうか。再チャレンジの気持ちはまだあるのですが。
「整理整頓」というのは近いようで違うかもしれません。「解明」にも近いのかな。でも自分の中のイメージでは、この作品の中で著者がやっている作業というのは、ぐちゃぐちゃになった部屋で、まずはそのぐちゃぐちゃの原因であるらしいなにか得体の知れないものを探し出し、ラベルを貼ろうとすることのように見えた。
内面へ内面へと入り込んでいく、刹那感あふれる駆け抜けるような文体に、ぐいぐい引っ張り込まれるようなかんじで、ほぼ一気読み。『金比羅』含め近作をもう何作か読んでから、もう一度再読したらさらに面白いだろうなと思う。

『ヘンリエッタ』(中山咲)〜第43回文芸賞受賞作〜

文藝 2006年 11月号 [雑誌]

文藝 2006年 11月号 [雑誌]

今月号の『文藝』はもう、綿谷りさの「夢を与える」だけでお腹いっぱいモトは取らせていただきましたという気分ではありましたが、せっかく文藝賞の受賞作も掲載されてることでしょうし、読んでみますかね。
今回の受賞作は二作、「公園」の荻世いをらと「ヘンリエッタ」の中山咲。中山さんは17歳の高校生だそうで。まーそんなことにも驚かなくなりましたが。


というわけで『ヘンリエッタ』から。
ヘンリエッタ」という名の家に三人の女性が共同生活している。家事を請け負っている主人公のまなみ、好きな男を見つけるたびに水槽の魚を増やしていくみーさん、いつも優しくゆったりとした雰囲気の家主・あきえさん。三人の共同生活は判を押したように、ひとつのほころびもなく続いていて……。
んんなるほど。なかなか面白かったです。
なぜこの三人が共同生活してるのか?という謎に引かれて読み進めるにつれ、「ヘンリエッタ」の閉鎖性が浮き彫りになっていく。とともに、まなみが少しずつ「ヘンリエッタ」の外に向かい始めるという、そこらへん上手いなぁと思いました。ただラストはもう少し壊しちゃってもいいのではないかと、思わないでもありませんでしたが。だってみーさんやあきえさんの今後も、やはり気になるので。文体はすごく<音>が意識されていて、川上弘美の作品が好きな人とかにオススメなかんじです。