バド・パウエルの芸術。



バド・パウエルの芸術/The Bud Powell Trio』

 ビ・バップのエッセンスをピアノという楽器で表現し、モダン・ジャズ・ピアノの歴史の中で燦然と輝く天才、バド・パウエル
 前半8曲が47年録音、後半8曲が53年録音と、変則的な収録内容であるが、この間にバドは、ドラッグに溺れ、精神に変調をきたし入退院を繰り返している。後半の録音は、社会復帰直後のものである。
 前半の収録曲は、スピード感と枯渇しないイマジネーションの泉と言った感がある。特に2曲目の『Indiana』は、ドラムのブラッシュに乗って、弾きまくるバドの”疾走感”と、それでいて細やかな”タッチ”は、クセになる。ピアノと一体になり、いつまでも続く交合をしているかのような、エロティックな印象さえ受ける。
 うってかわって後半は、地獄の苦しみと引き換えに得たかのような、”枯れた味わい”に満ち溢れている。ひとつひとつの音を確かめるように、そして新しく出会った表現と、ピアノとの”再会”を喜ぶような、バドの笑顔が想像できるような素晴らしい演奏である。
 この録音の後、新天地を求めパリに渡った彼の姿は、映画『ラウンド・ミッドナイト』でも描かれているが、突然の帰国後、栄養失調と肺結核のため、41歳の若さで、人生の幕を閉じる。
 栄光と挫折、天国と地獄を見つめ続けたバドが遺したこの一枚は、苦境にあっても”音楽への愛情”を抱き続けた天才によって、いつまでも私たちに”音楽の素晴らしさ”を教えてくれる、実に愛すべき一枚である。


Amazing Bud Powell 1

Amazing Bud Powell 1