梶ピエールの備忘録。 RSSフィード

2016-09-26

[][]お仕事のお知らせ

 9月26日(月)発売の、『週刊東洋経済』10月1日号のコラム「中国動態」に、「工場移転と高齢化で中国の労使対立が深刻に」という記事を寄稿しました。9月初めに香港と広東省で行った聞き取り調査に基づき、現地の労使間紛争の現状について書いています。

 ここ数年珠江デルタなどで生じている労働争議や労働者による訴訟などの労使間紛争の多くは、養老年金などの社会保障費をめぐる問題をめぐって生じています。40代後半から50代前半の熟年層のワーカー、特に女子労働者が工場の移転に伴いリストラされた場合、次の仕事を探すのは困難です。たとえ仕事を見つけられたとしても、高齢になってから再就職した場合、定年時の勤続年齢が不足するため、養老年金の受給資格を失ってしまうことになるからです。中には、外資企業による社会保険費の未払い問題が深刻な労使対立を引き起こすケースも少なくありません。記事の中では現地ではよく知られた具体例も取り上げていますので、よろしければ実際の誌面をぜひご覧ください。

2016-09-23

[]いただきもの

赤井茂樹さん編集によるhomo viatorシリーズの第四弾、ということでご恵投いただきました。ありがとうございます。

2016-09-14

[][]お仕事のお知らせ

シンガポールの華字新聞『聯合早報』に、中国経済に関する論評が掲載されました。

http://www.zaobao.com.sg/forum/views/opinion/story20160913-665720

 ただ、これは会員限定の有料記事でしかも中国語なので、以下に元の日本語の原稿を公開します。ブログでお知らせするのが遅れましたが、毎日新聞社の『週刊エコノミスト』誌の先週号にも「人民元 急速な国際化は政策の足かせに」という記事を寄稿しており、これにもほぼ同じ内容のことを書いています(雑誌記事の方がもう少し詳しく、図表も入れて論じていますが)。基本的に私の中国経済に対する見立ては一年前とほぼ変わっておらず、日本の「失われた20年」における経済政策論争における見取り図を頭に入れた上で現在の中国経済を見れば、かなりすっきり整理されるのではないかと思っています。


危機的な状況を脱した中国経済

梶谷懐(神戸大学教授)

 

 7月16日、2016年上半期の中国GDPに関する統計が発表された。注目の実質成長率は前年同期比6.7%となり、政府が定めた今年の成長率目標の「6.5〜7.0%」をクリアした。その内訳では第一次産業が3.1%、第二次産業が6.1%であるのに対し、第三次産業の成長率は7.5%と、第三次産業の堅調な伸びが現在の中国経済を支えていることが明らかになった。

 一方で、日本国内では中国経済が抱えている多くの問題について、悲観的な論調の報道が目立っている。ただ、日本の報道では、昨年夏の株価の急落に代表される短期の問題と、中長期の問題が混同される傾向が強い。例えば、鉄鋼や石炭産業などにおける非効率な「ゾンビ企業」の存在や、銀行が抱える不良債権の処理、過剰な債務の削減など、いわゆる供給サイドの問題の深刻さが指摘されることが多いが、これらはいずれも今後時間をかけて取り組むべき中長期の課題である。

一方、昨年夏から今年の年初にかけて懸念された、株価や元相場の急落といった金融・資本市場におけるより短期の問題については、その後の政府による適切なマクロ政策により、基本的に危機的状況は脱したとみてよいだろう。

株安に代表される短期的な「危機」が生じた原因の一つは、リーマンショック後の景気対策の後遺症によって、製造業を中心とした債務デフレ(debt-deflation)が進行しているにもかかわらず、硬直的な為替制度のために適切な金融緩和が行われなかったことである。近年の中国では消費者物価指数(CPI)はプラスであったものの、生産者物価指数(PPI)はマイナスの状態が続いており、特に昨年には下落率が5~6%にも達した。過剰な生産能力と債務を抱え、収益の見通しがたたない企業が新たな投資を手控えて不況に陥る、典型的な債務デフレの状況にあったといってよい。  

 昨年末以来、中国人民銀行は、主要通貨によって形成される通貨バスケットを参照しながら、人民元のドルに対する変動幅を緩やかに広げていく、という対応策をとってきた。政策への信頼性を高めるため、人民銀行は昨年12月に通貨バスケットの各構成通貨の比率を公表し、中国外貨取引センター(CFETS)を通じて元のバスケットに対する1週間ごとの変動比率を公表することに踏み切った。その結果、元の実質実効為替レートは今年年上半期で5.47%元安に振れており、政府当局の元安を容認する姿勢が明らかになった。

 このような柔軟な為替政策への転換によって、それまで続いていた外貨準備の減少に歯止めがかかり、それまで大きなマイナスを記録していたPPIにも上昇の兆しが見られるようになった。このことは政府の「危機」への適切な対応として評価されてよいであろう。

 もちろん、懸念材料は存在する。例えば、2016年の1−7月期の民間部門の固定資産投資の累計額の対前年成長率2.1%と、統計の公表を始めて以来最低の伸び率となった。マネーサプライや社会融資総額は年率10%以上で伸びているため、マネーサプライや銀行貸し出しの増大が民間投資の増加と結びついていないことが分かる。

 このような状況を指して、かつて日本経済が「失われた20年」の時代に経験したような「流動性の罠」に中国経済も陥っているのではないか、という指摘もよく聞かれるようになった。この場合の「流動性の罠」とは、マネーサプライを増やしても、投資や消費など実体経済の増加につながらない状況を指す。そういった状況をもたらしているのが、民間部門だけで対GDP比170%を超えるまで膨れ上がった債務残高の存在だ。特に製造業を中心として、企業に業績改善の見通しが立たない現状では、いくら金融緩和を行っても過大な債務を抱えた企業は債務返済を優先させて需要を喚起する投資の拡大に資金が回らないからだ。

 ただ、だからと言って教科書的な「流動性の罠」の状況で想定されているように、現在の中国では金融緩和は無効なのだ、と判断するのは早計だろう。長らく低迷を続けてきたPPIにようやく上昇の兆しが見え始めたのは、為替政策の柔軟化によって一連の金融緩和の効果が現れ始めたからである。「流動性の罠」をもたらす企業のリスク回避的な行動は、デフレ下でこそ深刻化することを考えれば、金融緩和によるデフレ防止の試みは今後も継続される必要があるだろう。

 すでに述べたように、中国経済は元の減価を容認する柔軟な政策に転換したことによって、ようやく短期的な「危機」を脱したところにある。中国政府が、現在実施されている適切なマクロ政策で景気を下支えしながら、中長期的な懸案である供給側の改革を確実に実施していけるかどうか。日本の「失われた20年」の経験に学びながら、適切な政策運営を行っていくことが望まれる。

2016-08-31

[][]いただきもの

編者の山下さんからご恵投いただきました。ありがとうございます。以下は、出版社のウェブサイトからのコピー。

「ウェストファリアの講和」に現在の国際システムの起源をみるウェストファリア史観は、国際関係論にどのような認知バイアスをもたらしてきたのか。「神話」の限界を超え、オルタナティブな国際関係論の構築をめざす、知のインタープレイ。

2016-08-21

[][]お仕事のお知らせ

 8月22日(月)発売の、『週刊東洋経済』8月27日号のコラム「中国動態」に、「中国経済の新展開を示す配車サービスの大型再編」という記事を寄稿しました。先日発表されたインターネット配車サービスのウーバーが業界再王手の滴滴出行を買収した問題について書いています。

 中国国内では独占によるサービスの悪化を懸念する論調が多いようですが、本稿では1.これは民間企業などが「なし崩し」的にシステムの裏をかき解決を図るという「中国流の自生的秩序」の典型的な事例ではないか、2.配車サービスのようなシェアリングエコノミーは、短期的な取引を信頼できる第三者の仲介(「包」)によって成立させる手法が蓄積されてきた中国の伝統的商習慣に合っているのではないか、という観点から論じています。

 ちなみに、この合併劇については中国の有力経済メディア財新網が特集を組んでいます↓ので、中国語が読めて興味のある人はチェックしてみてください。

http://topics.caixin.com/zhuancheni/