瀬名秀明「小説版 のび太と鉄人兵団」

いつものように本の紹介をする前に、やはり震災のことにふれざるを得ません。

3月11日に発生した東北関東大震災では、多くの犠牲者が出、また今なおたくさんの被災者の方が不便な生活を余儀なくされています。
さらに福島第一原発の事故はいまだ収束の気配を見せず、現場では危険な作業に従事する方がおり、放射線は周囲に広がり、避難や屋内退避をする羽目になり、そして農作物や水道水にも影響が出ています。
その他、わざわざ私が挙げるまでもなく、日本全体に数多くの被害が発生しています。

私が住むのは中部地方なので、直接的な被害はなく、買い占めの余波でちょっと物資が足りないかな、くらいの影響です。
なので、被災者の方々にかけるべき言葉が見つかりません。
こういう時に何を言えば良いのか分からない、というのは表現者を目指すものとして、あまりに不甲斐なく、自分の無力さを思い知らされます。
せいぜい義援金を寄付し、毎日の生活の中で経済が回るように心がけるのが精一杯です。
被災地や原発で復興、復旧に当たっている数多くの方々には、どれだけ頭を下げても、足りない思いです。

また、毎日の震災に係る報道やそれに対する反応についても、色々と思うところがあります。
ここで、その内容を明らかにするつもりはありませんが、ひとつ強く思うことは、今ほどひとりひとりが自分の力で情報を集め、分析し、比較し、判断することが求められている時は無いのではないかと思います。

これから、何年もかかるに違いない復興に向けて、自分も含めて多くの日本人が、いま抱いている気持ちを忘れないようにしたいものです。

さて、今日は本を一冊紹介を。
 

小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団

小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団

新版を観に行ったのが、たった二週間ほど前だという事実に驚きを隠しえません。
さておき。

ロボットSFの第一人者にして、大の藤子・Fファンとしても知られる作者による、大長編ドラえもんの中でも屈指の名作と名高い作品のノベライズとあっては、嫌でも期待せざるを得ません。
そして、その期待に違わぬ、藤子ファン垂涎の作品となっています。
基本的には原作のストーリーを踏襲しつつも、終わりの方では一部オリジナルの展開を迎えます。
原作にある「死」のイメージをさらに増幅させ、たとえば序盤の見所であるザンダクロスによる無人ビルの破壊シーンは、9.11を引き合いに出して、その描写をしています。
その他、シリアスな場面を子供にも伝わるようにしながらも、遠慮無く描いています。
原作ファン、映画ファンならば、迷わず手にとって問題ないでしょう。
こんな文章がさりげなく挟まるところが、ドラえもんファンなのだなあと感心する次第です。

「それでも、だからこそ、この瞬間はみんなといっしょに歌っていたかったのだ。のび太にはそれがわかっていた。ジャイアンにも、スネ夫にも、ドラえもんにもそれがわかっているはずだった。
だからみんなで、心をゆらして、こうして手を振り、足を上げて歌うのだ。友達だから、君がいるから、歌うのだ。
一〇〇年後でも、歌うのだ。」