華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)

<粗筋>
 焚書官モンターグの仕事は、世界が禁じる『本』を見つけて、焼き払うこと。だが、ひとりの少女と出会い、そして彼自身が本を手に入れた時から人生は大きく変わっていく。
<感想>
 SFは有名どころでもかなり読んでいないのであった。作者が亡くなったから、ちょっと読んでみようと思い立つのもアレだけれど、まあきっかけはなんであれ、不朽の名作を読むのも悪くはない。
 『本』とは何か。それは人類の歴史を綿々と綴ってきた「知識」と「知恵」の結集。それが奪われた人々の住むこの作品世界の人々は刹那的、快楽的、暴力的な生き方を自然と受け入れている。誰も考えず、疑問も持たない。淡々と描かれる、我々から見れば異質な人々が不気味。
 作者は叙情の人、と言われるだけあって詩的な書かれ方がしている。訳者の方も大変だっただろう。冒頭の本が燃え盛るシーンの入りが印象的。そして、最後の戦争で街が燃えるシーンも。
 ただ、ストーリーとしては不満も色々とあるかなあ。主人公も他の人達も、あまり頭が良いとは言えない行動が多い。主人公も結構酷いことをするし。……もちろん、それは『本』を奪われた故かも知れないけど。あと、クラリスはすぐに死んでしまった終わりですか……。そうですか。
 本を読んで考えることを身につけなければならない、だが、本に書いてあることを鵜呑みにして考えることを放棄するのも、またいけない。自分自身で考えること、が一番大切。
 「本」は不思議だねえ。ただ、文字の羅列に過ぎないのに、そこに意味があり、そして人々の考えさえ左右する。「本」が他の映像作品なんかと違うのは、自分のペースで読める、そして音が無い、ということではなかろうか、などということを思う。
 音楽はもちろん大切だけれど、かえって文字を読む場合には余計な要素になり得る。感情が文字以外の要因によって左右されてしまう。相乗効果を生むこともあれば、その逆もあり得る。
 ただ、この本書ではラジオやテレビが悪者扱いされて、本が特別視されているのは、映像作品が好きな人には不満かも知れないね。本だって、良書ばかりとは言えないのだし。