ナベさんって誰だ?

11時過ぎに出かける。古書会館へ向かう途中で、向こうからやってくるおじさんに「おお、久しぶり、元気?」と声をかけられる。見覚えないが、ひょっとして古本屋さんかと思い、あいまいに「はあ」と云っていると、「ワタナベさんは元気?」と来た。
「ワタナベさん……って、誰でしたっけ?」
「ナベさんだよぉ。総務の」
「ええと、知りませんけど」
「そうかあ、オタクの会社も大きいからなあ」


会社? 「本コ」編集室のことを云ってるのか? しかし、あそこに総務なんて部はないんだけど。親会社のことを指してるのか? それにしては、親しげだし。もしかして、前にいたゆまに書房のコト? いや、あれが「大きい」とは云えないだろう。
わずか、数秒の受け答えで、すっかり混乱してしまった。目も泳いでる。それでも、向こうは確信的にこちらに話しかけている。


「あのー、間違えてないですか?」
「いやいや、俺、そっちに三回ぐらい行ってるんだよ」
いつ、何の用事だったかは云ってくれない。


「いま、なにやってるの? 前と一緒?」
「雑誌の編集ですけど」
「これから仕事?」
「ええ、まあ」
「土日関係ないもんなあ」
この辺は微妙に噛み合っている。


「時間あったら、どこかでお茶飲まない?」
ウッと詰まったが、相手が誰だかわからないまま会話を続けていくことに耐えられそうもない。(あとで、旬公に「そんなに面白い状況でナンでお茶しなかったの! この腰抜け!」となじられたが)
「すいません、急いでるんで」と云うと、
「あっそう、じゃあ、またね!」と去っていった。
…………で、誰なんだ、あのヒトは? そして、「ナベさん」って誰?
まるで、落語に出てくる、相手がわからず「たしか……先のところでしたね」を連発する幇間みたいであった。


首をひねりながら古書会館へ。入り口で生田さんにばったり。注文していた本、二点ともハズレ。当たっていたら二万円の出費だったけど、持っておきたい資料だったので残念。二階で絵葉書の展示即売会を覗くが、あまり面白くない。〈書肆アクセス〉に行ったあと、裏通りの中華料理屋でラーメンと半チャーハン。以前に入ったことがある店だが、改装していた。ラーメンの味、こんなだったかなあ。マズイよ。口直しに〈さぼうる〉でコーヒー。客席でテレビドラマ(?)の収録をやっていた。


岩波ブックセンター〉で編集者、カメラマンと待ち合わせて、古本屋さん取材を二件。そのあと、西日暮里に戻る。暑さが続くので、夕飯はさっぱり行こうというコトで、汁かけ飯に決める。ネギ、あぶらげをだし醤油にかけ、しらす大根おろしと一緒に、ゴハンにぶっかける。これがウマイ! さらさらと一杯目を食べてしまう。昨日の残りのナムルも混ぜ込んで、二杯目。さっぱりしてて、満腹感もある。上出来の夕飯だった。


少し元気が出たので、旬公と散歩に。谷中銀座出口で最近見つけた(営業は古い)〈シャルマン〉というジャズ喫茶に行くつもりだったが、休み。こないだから二回、休みだった。残念。少し足を伸ばして、根津へ。〈往来堂書店〉で何冊か買った後、〈カフェNOMAD〉でビール。今日も満員。周囲の話をなんとなく聞きながら、本を読むのがイイ。帰りは根津でバスに乗り、〈古書ほうろう〉の前で降りる。宮地さんたちと展示の打ち合わせ、というか、雑談。少しずつ、カタチが見えてくるか。30日(金)のイベントをご覧になりたい方は、南陀楼までメール(kawakami@honco.net)ください。よろしく。
http://www.yanesen.net/horo/