幾何学 2004.10.11

代々木体育館

これは原宿にある代々木体育館の構造模式図です。1964年、東京オリンピックのために代々木国立屋内総合競技場として建設されました。設計者は建築家の丹下健三氏と構造家の坪井善勝氏です。

「吊り構造」が採用された理由は設計主旨によると、15000人の観客を収容する大空間を圧迫感のないものとして実現するためだったようです。「吊り構造」の特徴は鋼材のもつ張力の強さを利用した点にあります。鋼材は引っぱりに強いのですね。この建物の骨格は、左右の巨大支柱からワイヤーを渡して大屋根を吊るすという大胆な構造です。

実務的な話ですが、屋根の曲線は実際はかなり複雑なため、カテナリーという懸垂線で近似した上で構造計算を行ったと言われています。

強さと美しさが一気に保証されたのは「吊り構造」が持つ力学的な特性と幾何学的な美しさが、屋根を吊るすための回答として的中したからです。両者は共振して緊張感を生み出し、建物全体にひびいています。これこそが名作の秘密かもしれません。

「丹下さんが構造の心配をし、坪井さんがデザインの心配をした」これは有名な逸話です。2人のコンビはもはや伝説のように神々しく語られていますね。デザイナーとエンジニアの最高にクリエティブな共同作業でした。