窓 2004.10.18

遠州のぼうぜん

小堀遠州の茶室「忘筌」です。この垂れ障子は西陽除けであると同時に上部への視線をさえぎり、意識を庭に向けさせる役目をもっています。

「忘筌」がある孤篷庵は、その名前に「一艘の孤独な舟」という意味が込められているので、遠州は「忘筌」を琵琶湖に浮かぶ舟になぞらえていたのかも知れません。「忘筌」から中庭を見ると、舟の中から外を見ているような感じも受けます。中庭が海をモチーフに造園されているという話もありますね。

この障子下の開口部が形式的には「忘筌」の躙口(にじりぐち)です。機能上は窓でもあるので、出入口と窓の両方の機能を合わせた部分なんですね。上への視線をさえぎるこの独特の仕掛けによって、室内から自然に中庭に意識が向くのですね。

ちなみに「忘筌」とは目的を果たしたらそれに使った手段や道具は忘れてよい、という荘子の言葉です。遠州はこの荘子の言葉を引用したと言われています。彼は幕府の奉行として現実的な政治の世界でも活躍した人物ですし、亡くなられたあと、孤篷庵に葬られましたから「忘筌」というネーミングは意味深です。