Hatena::ブログ(Diary)

たかひろ的研究館・別館避難所

2017-10-19 きららミラク休刊に際して。

kenkyukan2017-10-19

 先日、あの「まんがタイムきららミラク」の休刊が正式に告知されました。1カ月か2カ月ほど前から、急に連載終了が増えたことで「休刊するのではないか」と界隈で一気に話題が持ち上がり、さらには今月初めにフライング的に休刊の情報が入ってきたことで、ある程度予想はしていましたが、それでもこれはかなりのショックでした。これまで順調に発展してきたきらら4コマ誌のひとつが、アニメ化作品もいくつも出してきた雑誌がなくなるのは大きい。

 「まんがタイムきららミラク」の創刊は2011年。「まんがタイムきらら」系列の4コマ誌としては、「きらら」「きららキャラット」「きららMAX」4番目の雑誌になります(4コマ雑誌以外も含めればフォワードやカリノもあります)。しかし、他の3誌が2002〜2004年までの最初期に創刊されているのに対して、このミラクは2011年とずっと遅く、他とは創刊の経緯で一線を画するところがありました。

 雑誌のコンセプトとして、当初から「もっと自由に4コマを」のキャッチフレーズを打ち出し、4コママンガとしてより斬新な表現を求めたのが特徴的でした。具体的には、従来の4コマではあまり見られなかった大胆なビジュアル・演出や、ストーリーや世界観重視の方向性が挙げられます。ここからアニメ化された作品を見ても、毎回キスをするという百合表現で大きな話題になった「桜Trick」(タチ)、食や料理にスポットを当てた「幸腹グラフィティ」(川井マコト)、能力持ちの国王一家の生活を描く「城下町のダンデライオン」(春日歩)、和風の世界での占い師を目指す少女の姿を描く「うらら迷路帖」(はりかも)と、世界観や設定に特色のある濃い作品が多いと思います。

 個人的には、お菓子と女の子をテーマにした「スイートマジックシンドローム」(CUTEG)、19世紀アイルランドで妖精と人間の少女の交流を描いた「アンネッタの散歩道」(清瀬赤目)あたりも好きでした。また、「うらら迷路帖」のはりかもさんの前作で創刊号からの連載「夜森の国のソラニ」も絶対にはずせないところです。4コマの枠を縦にぶち抜いて描かれる高さと奥行きのある森のビジュアルは、最初に目にした時には新鮮な衝撃を受けました。ミラクの目指す自由な4コマ表現を代表する存在だったと思います。

 しかし、こうした特徴的な作品を多数生み出したものの、ほかのきらら姉妹誌と比べると、人気や知名度でやはり一歩引いたところはあったと思います。また、こうした姉妹誌の連載からも、ファンタジーな世界観が特徴的な大人気作品「ご注文はうさぎですか?」や、ゲーム会社の仕事を描いた「NEW GAME!」など、ビジュアルや設定面で特徴の強い作品が人気を得るようになり、相対的にミラクならではのコンセプトが目立たなくなったところもあったかもしれません。しかし、今回の休刊で「しましまライオン」(はなこ)や「ビビッド・モンスターズ・クロニクル」(キキ)など、望まぬ形での早期終了を余儀なくされた作品もあったようで、やはり残念な決定でした。ただ、「うらら迷路帖」や「城下町のダンデライオン」など、半分以上の連載が他誌へと移籍継続されるのは幸いで、これからの経緯を見守ることになりそうです。

2017-10-18 大人にとっての「日常系漫画」とは?

kenkyukan2017-10-18

 少し前の話になりますが、地元紙の中国新聞の増刊誌で、「癒しの日常系漫画」という特集があり、思わず興味を持って手に取って読んでしまいました。しかし、実際に読んでみると、紹介されているタイトルが自分の予想とは違っていて、その意外性に驚くことになりました。

 記事で取り上げられていたタイトルは、「ワカコ酒」「異世界居酒屋のぶ」「サチのお寺ごはん」「はらペコとスパイス」「山と食欲と私」など。あれ? これはもしかして日常系というよりは食マンガだな?

 新聞の購読層は、やはり大人の社会人が中心ということで、社会人のライフスタイルに合った食マンガを取りあげることになったのでしょうか。先日アニメが放送された「異世界食堂」が、30代以上の年代に特に支持されていたというデータもあります。もしかすると、「大人にとっての楽しい日常=おいしい食事」という図式が成立するのかもしれません。

 「ワカコ酒」(新久千絵)は、26歳の女性会社員・ワカコの一人酒を描いた作品。おいしい料理とお酒の組み合わせにめぐり合えた瞬間の幸福感がよく描かれた快作で、この中ではとりわけよく知られた作品となっています。実在するお店が登場するのも大きなポイントでしょう。

 『異世界居酒屋「のぶ」』(蝉川夏哉ヴァージニア二等兵)は、ファンタジー世界で現代の居酒屋が大流行するという話。ライトノベル原作のコミカライズで、先にアニメ化した「異世界食堂」と重なり比較されることも多い作品ですが、こちらも面白さは十分。アニメ化も控えていて期待も大きいです。

 「サチのお寺ごはん」(かねもりあゆみ)は、不摂生を続けていた女子・サチがお寺の精進料理に触れて食生活の改善にチャレンジする話。「はらペコとスパイス」(五郎丸えみ)は、社会人のOLが食文化の研究家と出会って世界の料理の魅力を知る話。いずれも社会人の女子が主役で、やはり大人向けのグルメマンガという気がします。

 きらら系作品からは、アニメ化を控える「ゆるキャン△」(あfろ)が入っています。数あるきららの日常系作品の中で、この「ゆるキャン△」が選ばれているのも、やはり大人の趣味のひとつであるキャンプ(とそこでの食事)にスポットが当たっているからだと思えます。まあ「ゆるキャン△」も半分はキャンプでのおいしい食事を楽しむ食マンガみたいなものだし(?)、そういうチョイスなのかなと。「山と食欲と私」(信濃川日出男)も、同じようなコンセプトを感じます。

 食マンガ以外の作品からは、あの「よつばと!」(あずまきよひこ)や、ベテラン作家が愛犬を描いた一作「コタおいで」(村上たかし)、男子高校生の笑えるトークを描いた「セトウツミ」(此元和津也)などが取り上げられています。こうした作品が、社会人にとっての癒やしなのかなと考えるとなかなか面白いと思いました。

2017-10-12 「魔法使いの嫁」ついにテレビアニメスタート。

kenkyukan2017-10-12

 この10月からの秋アニメは、これまで以上に豊作でさまざまな作品が話題に上っていますが、自分としてはその中でひとつ「魔法使いの嫁」(ヤマザキコレ)は、絶対にはずせないものとして改めて紹介しておきたいと思います。自分の好みの中心のひとつとなっている創作ファンタジーの傑作として、あるいはマッグガーデンに残る数少ない期待作としても、このテレビアニメを待ち望んでいたところは大きいです。

 「魔法使いの嫁」は、2014年コミックブレイドで始まった連載で、同年に同雑誌の休刊に伴い、今ではコミックガーデンへと移籍して連載が続いています。もともとは作者の同人での作品であったらしく、オリジナルの創作同人の色が濃い作品で、その点で最初期から注目して見ていました。

 ストーリーは、とある事情から不幸に生きてきた日本人の少女・チセ(羽鳥智世)が、人外で異形の姿をした魔法使いエリアスにオークションで買われ、彼の住むイングランドの家で弟子として魔法の習得に励みつつ新たな日常を送るというもの。当初は精神的に追い詰められていた彼女ですが、静かな環境で魔法の知識の習得に励み、エリアスと共に周囲で起こる案件に向き合うことで自らを見直すようになる。チセの成長を描く物語でもありますが、自分としては成長というよりむしろ救済、魔法の知識と技術の習得を通じて自分で自分を助ける物語だと思っています。

 そして、待望のテレビアニメですが、1話を見たところ非常によく出来ていて、まさに期待通りでした。もともと、先駆けて出ていたOVAの出来も非常によかったので、期待するところは大きかったのですが、まさにそのままでした。物語の舞台は現代イギリスですが、その片田舎の美しい自然、とりわけ魔法と妖精が日常のすぐ近くに存在する姿を丹念に描いているところが素晴らしい。無数の光に溢れる夜の妖精の森の光景には引き込まれるの一言でした。

 冒頭からじっくりと物語を描いていく姿勢もいいですね。視聴者をつかむために1話から早いテンポで進んでいくアニメも多い中、これはチセとエリアスの出会いのエピソードを、そのひとつひとつのシーンを細部までよく描いていると思いました。

 原作コミックを刊行しているマッグガーデンは、かつてエニックスお家騒動エニックスから離脱した編集者が創業した会社で、かつてのガンガン系の中性的な作風を最も強く受け継いだ出版社であるはずでした。しかし、初期の頃から意外なほど芳しい成果を出すことが出来ず、「ARIA」や「スケッチブック」などごくわずかの成功作を除いて、多くの作品が不振のうちに終わってしまいました。今では、かつて刊行された雑誌はほとんど休刊してウェブ掲載に移っている状態です。

 そんな中で、この「魔法使いの嫁」は、かつて目指した中性的な作風を色濃く残す作品として、最後にわずかに残った数少ない傑作だと思っています。アニメも全24話とすでに告知されており、2クールほどじっくりと味わえることになりそうです。

2017-10-11 きらら4コマの「2巻の壁」について改めて考える。

kenkyukan2017-10-11

 このところ、まんがタイムきらら系列の4コママンガで、そのコミックスの多くが2巻で完結を迎えてしまう、通称「2巻の壁」について改めて考えることになりました。ここ数カ月ほど、新刊コミックスの発売を追い掛けていて、その2巻完結率の高さを目の当たりにし、さらには自分の好きだった連載が中途で終了を迎えるに当たって、えらく寂しい思いをすることになりました。

 具体的に、ここ7月から10月までに発売されたきらら4コマのコミックスを振り返ってみると、まず7月に2巻が出た3作品のうち2作品が完結、8月には2作品でうち1巻は完結しています。問題は次の9月で、この月は2巻が実に5作品も出ていますが、そのすべてが2巻で完結しています! そして10月。この月は2巻が3作品ほど出る予定ですが、その3つともやはり完結です。

 ついでに来月11月の予定まで目を向けますと、こちらでも2巻が1作品ほど予定されていて、(もう察しが付くと思いますが)これもまた2巻で完結となっています。

 トータルで見て、この7月から11月までに2巻が出るきらら4コマのコミックス14冊のうち、実に11冊が2巻で完結を迎えていることになります。逆に2巻を突破して続巻が出るのはたった3冊しかない。3/14。2巻突破率わずか21%となりました。

 もともと、4コママンガはコミックス(単行本)が出にくいジャンルであり、一昔前はコミックスが1冊も出ないのがむしろ普通でした。それが、時代が下るにつれて次第にコミックスが出るようになり、とりわけ若い読者も多いきらら系の4コマでは、ほかの雑誌よりもコミックスが出る確率がぐっと上がりました。それでも、初期の頃は1巻で完結が一番多かったのですが、最近では少しずつ伸びて2巻まで行く作品が増え、今がその段階に達しているとも考えられます。そう考えれば確かにこれは進歩なのですが、しかしそれでも本当にこれが2巻で終わるのか?と残念に思う良作が多いのも事実だと思うのです。

 個人的には、9月に2巻が出た永山ゆうのんさんの「みゅ〜こん!」の終了は、その中でもかなりのショックでした。一方でぶっ飛んだコメディも盛り込みつつも、コーラス部のまじめな活動ぶりがよく描けた部活動ものの良作だったと思います。きらら作品で長く同人活動を続けていた時から追い掛けていた作者の初連載だけに、これが早い時期に終わってしまうのは本当に残念でならない。

 この10月に発売される「しましまライオン」(はなこ)、来月11月に発売予定の「すくりぞ!」(らぐほのえりか)も、正直終わるのが信じられないような作品です。どちらも連載初期からかなりの評判だったはずなのですが・・・。他にも最近の新作で期待している作品はいくつもありますし、それらが2巻の壁を越えられるように祈るばかりです。

2017-10-05 いぬぼくはアニメ11話こそが最大の傑作だった。

kenkyukan2017-10-05

 先日、あの藤原ここあさんの作品「妖狐×僕SS」のアニメTOKYO MXで再放送されるという告知があり、MXを見られない自分としてはとてもうらやましいと思ってしまいました。2012年の本放送から実に6年近い時が経ち、原作も終了して久しい今となっての再放送は、かつてのファンにとっては思わぬうれしい出来事でしょう。ただ、ひとつだけ気になることとして、今回の再放送はいくつかの話を選んで放送される「セレクト再放送」であり、その中に第11話「陽炎」が入っていなかった点がありました。

 実は、わたしが以前このアニメをリアルタイムで視聴していた時、この11話がものすごく気に入ってしまい、当時利用し始めたばかりのニコニコ動画配信で、実に7回か8回も繰り返して見たことがあるのです。この話は、原作でも序盤のクライマックスにあたる箇所で、ここだけは今回の再放送でもどうしても入れてほしかったところです。

 「妖狐×僕SS」は、妖館というマンションに集う妖怪の先祖返りたちの日常と非日常を描いた作品ですが、中でも中心となるのが主役と言える凜々蝶(りりちよ)と双熾(そうし)ふたりの物語だと思います。そしてこのアニメ11話は、その双熾の子供時代からの境遇を、ほぼ全編双熾本人の独白の回想によって語る構成になっています。

 幼少期から実家の旧来の風習によって軟禁されていた双熾ですが、巧みに周囲に取り入ることでついにはある権力者の保護を受けることに成功し、 軟禁から解放されその家で自立までの資金を稼ぐことになる。そこで文通の代筆の仕事を通じて知り合ったのが凜々蝶で、彼女の純朴な内面を知ってひどく影響され、自分のこれまでのさもしい生き方を見返すようになる。そして、凜々蝶に仕えるため妖館のSSシークレットサービス)となり、彼女に大してどこまでも真摯に仕えるようになる。原作でもここは泣ける話なのですが、アニメでは双熾の独白が、ひとりの声優の熱演によって全編を通して語られることで、さらに心に響く1話になっていました。

 わたしは、この当時は今ほど声優には詳しくなかったのですが、この「妖狐×僕SS」の熱演によって中村悠一さんを知りました。原作ではまだコミックス2巻と序盤のエピソードなのですが、それでもこれは凜々蝶と双熾の関係を最も深く語る重要なエピソードであることは間違いない。今回のセレクト再放送でも、これは絶対にはずしてほしくなかったと思います。

2017-10-04 「Memories Off」新作発表とKIDの思い出。

kenkyukan2017-10-04

 先日、MAGES.志倉千代丸会長のツイートで、あのKIDの恋愛アドベンチャーの名作『Memories Offメモリーズオフ)』の新作の発表があり、かつてのファンを中心に思った以上に多数の反応が見られ、いまだに根強いファンがいることを確認しました。さらには、その志倉さんの手で、かつてKID倒産したあとで事業を受け継いだときの逸話が語られ、その時の熱い展開に思わず感動してしまいました。

 KIDは、古くは80年代後半に設立されたゲームメーカーで、当初はアクションゲームシューティングゲームを中心に手がけ、また90年代の半ばからはPCの美少女ゲームの移植もよく行っていました。それが、99年になって、初めて自社オリジナルのアドベンチャーゲームである「Memories Off」を手がけ、これが非常に大きな人気を得たことで、以後多数のオリジナルのアドベンチャーゲームを出すことになります。

 このときに出たゲームの中では、前述の「Memories Off」シリーズと、「Ever17」に代表される近未来SF「infinity」シリーズが特に有名ですが、それ以外にも多数のタイトルを出していて、一時期は非常に盛り上がりました。それぞれのゲームのファンに加え、KIDアドベンチャーゲームの熱心なファン層もいて、コンシューマのアドベンチャーゲームの全盛期の一端を築き上げたことは間違いありません。

 しかし、2004年か2005年あたりを境に急に不振となり、肝心のオリジナルの新作がいまひとつで、代わってまたPCの他社のゲームの移植を盛んに行うようになりますが、こちらも評判は芳しくありませんでした。そして、2006年になってついに倒産してしまうのです。

 倒産後はもうKIDのゲームを見ることもないと思っていましたが、しかしKIDのゲームで多数の楽曲を手がけた志倉さんが、自社の5pb.KIDのスタッフのほとんどを引き受けるという思い切った決断を行い、ここでかつてのスタッフによるゲームがまたリリースされることになりました。かつてKIDによって楽曲の仕事を何度も依頼された志倉さんが、ここで恩返しのようにKIDのスタッフを救った形になったわけで、今回のツイートでその詳しい経緯を知って、また新たに感動してしまったのです。

 そして現在。また新たに新作こそ出るものの、かつてのKID時代のゲームの思い出は遠くなってしまいましたが、そんな時に唐突な「Memories Off」の新作の話。かつてKIDのゲームにはまったプレイヤーにとっては、単に新作が出る以上にうれしいものがあったと思います。MAGES.は、これまでも「シュタインズ・ゲート」を初めとする名作を多数出してきましたが、これからの展開もまた楽しみですね。

2017-09-28 「百合姫S」とはどんな雑誌だったのか。

kenkyukan2017-09-28

 ひとつ前の日記で書いた「此花亭奇譚」が連載されていた「百合姫S(コミック百合姫S)」。短期間で休刊となったこの雑誌のことを知っている人は多くないと思います。わたしは、休刊まで3年ほどの間、そのほとんどを追い掛けていたので少しそれを振り返って語ってみたいと思います。

 「百合姫S」は、一迅社より2007年に創刊された雑誌で、先行する「百合姫」の姉妹誌となっていました。「百合姫」は、百合作品を集めたコンセプトの雑誌として、当時からすでにかなり知られていました。では遅れて創刊されたこの「百合姫S」は、この本誌とも言える「百合姫」とはどんな違いを打ち出したのか?

 具体的には、「男性向けの百合作品」を集めるというコンセプトで作られていました。男性向けとはどんなものか? 端的に言えば萌え系の絵柄・作風の百合作品と言っていいかと思います。「男性向けの少女マンガ」とニュアンスとしては近いかもしれません。あの「ゆるゆり」も元々はここの連載として始まり、「此花亭奇譚」(のちの「このはな綺譚」)も当初からの看板人気作品でした。こうした作品のイメージでこの雑誌を理解してもらえればいいと思います。

 これ以外に印象的だった作品としては、まず「むげんのみなもに」(高崎ゆうき)を挙げてみたい。現在ではコミックキューンでほのぼの(?)した悪魔×メイドコメディを描いていますが、こちらはまったく印象の異なる厳しい関係性に裏打ちされたシリアス百合作品。しんどいけど面白いなと思って読んでいた記憶があります。しっとりした作画もいびつな雰囲気をよく表現していたと思います。

 「マイナスりてらしー」(宮下未紀)も個人的に好きな作品でした。彼女の描く話は暗いものも多いのですが、これは基本明るいお嬢様×従者コメディだったような気がします。コミックス1巻で終わっていますが、もうちょっとこの路線で長い話を読んでみたかったです。

 これ以外にも、今でも百合作品で知られた南方純さんや吉冨昭仁さん、玄鉄絢さん、藤枝雅源久也両氏もここで執筆しており、連載陣の充実度は決して悪くなかったと思います。芳文社4コマの方で知られた石見翔子さんや、スクエニでの活動が多い椿あすさんの姿も見られました。

 しかし、どうも売り上げは芳しくなかったのか、3年という比較的短い期間で、2010年に本誌百合姫に統合されるような形で休刊。「ゆるゆり」などごく一部の作品は百合姫に移籍することになりましたが、大半はそのまま再開されずに終わってしまいました。「此花亭奇譚」もその中のひとつで、はるかのちに他社のコミックバーズで連載再開されることになったのは、本当に幸運だったと思います。雑誌が成功しなかった理由はよく分かりませんが、あの頃はまだ男性向けというか萌え系の百合作品に注目する読者が、従来の少女マンガ百合作品と比較して、それほど多くなかったのかもしれません。

 しかし、ここ最近は、従来は百合作品が載らなかった雑誌においても、こうした作品が載ることが増えています。電撃大王の「やがて君になる」「新米姉妹のふたりごはん」、スクエニでもJOKERで「ハッピーシュガーライフ」、バーズのウェブ版のデンシバーズでも「ふたりべや」と、いずれの作品も好評を得て連載中です。今ならば、百合姫Sのようなコンセプトの雑誌でも前よりやって行けるかもしれない。その点では早すぎた創刊だったかもしれないと思っています。

2017-09-27 ついに「このはな綺譚」アニメ放送開始!

kenkyukan2017-09-27

 夏のアニメもそろそろ終了を迎え、秋アニメをしばし待つ時期に差し掛かりましたが、ここでまずは以前よりずっと原作を推してきた「このはな綺譚」(天乃咲哉)をおすすめしたいと思います。秋アニメでも早い時期に始まるこの作品にまずは注目してほしい。

 「このはな綺譚」は、幻冬舎月刊バーズの連載で、神や妖怪が存在する和風ファンタジーの世界で、旅館の仲居をして日々を過ごす狐の娘たちの物語となっています。旅館で仲居というと、アニメではあの「花咲くいろは」を思い出す人もいるかもしれませんが、ここはまったく違う話であるということを強調しておきたいと思います。

 「花咲くいろは」は、現実のお仕事を描くコンセプトでリアルな描写も多いのに対して、こちらはあくまでファンタジー。確かに仲居の仕事は簡単なものではなく、主人公が新人ということもあって時に厳しい描写も見られますが、しかし基本的に目線はとても優しい。まだ仕事に慣れない主人公に対して、教育係を勤める先輩を始めとした同僚たちが、みな彼女を気遣って優しく配慮してくれる。お客さんたちも基本みないい人で、やはり従業員たちと仲良く接してくれます。

 さらに、旅館を取り巻く美しい自然の描写が、その優しい雰囲気をさらに盛り上げてくれます。夢と現の境に立つという「此花亭」は、周囲では美しい桜が咲き誇り、瀟洒な旅館の建物と涼やかな内装と共にすばらしい光景を見せてくれます。特に天乃さんのカラーイラストは毎回絶品で、彩り豊かなこの作品の世界観を象徴していると思います。

 作者の天乃さんは、かつてエニックス(現スクエニ)のステンシルでデビューした作家で、のちにKADOKAWA一迅社など他社へと活動の場を移していきました。この「このはな綺譚」は、かつては一迅社百合姫Sで2009年から始まった連載で、その時のタイトルは「此花亭奇譚」。この時から人気は高かったのですが、しかし掲載誌の休刊によって1年ほどの連載で中断となり、以後長い間移籍先が見つからない状態となっていました。

 それが、2014年になって、ついに幻冬舎コミックバーズ(現月刊バーズ)にて連載再開が決定。作者の天乃さんの話によると、複数の出版社から連載を受け入れる話はあったものの、どうしても条件が合わず実現しなかったのを、最後にバーズが条件を認めてくれたとのこと。そんな話もあって、「此花亭奇譚」の頃から追いかけていた自分にはとてもうれしい連載再開でした。

 あれから3年。2017年3月に発売されたコミックス5巻において、待望のアニメ化の告知も行われ、この10月よりついに放送開始。これまでの原作の経緯からしても、あるいはエニックス時代から天乃さんを追いかけてきた経緯からも、本当に楽しみで仕方がない! 最新コミックス6巻も先日発売されたばかりで、是非ともこの機会に注目してほしいと思います。

2017-09-22 「メガロマニア」と檜山大輔。

kenkyukan2017-09-22

 コミックスの整理で10年ほど前の単行本を多数目にする機会を得たのですが、その中でこれはと目を引いたものがいくつかありました。そのうちのひとつが、檜山大輔さんの「メガロマニア」。これが最初の連載で、今はなきガンガンパワードの連載のひとつになります。その当時は季刊から隔月刊へと移行し、さらに新規連載に力を入れていた頃だったと思います。

 肝心の内容ですが、現代風のファンタジー世界を舞台に、人間と人間に似た種族「亜人」たちが暮らす町での日常を描くアクションファンタジーでしょうか。亜人たちは、この世界で人間たちから露骨に差別され、虐げられて生活していました。主人公はそんな中で人間と亜人のハーフとして警官の職務に当たり、ふたつの種族の確執に悩まされ苦しみながらも、それを乗り越えようと必死に奮闘していきます。

 最近も、こうした「亜人」的な存在と人間との関係を描く物語にいくつか心当たりがあるのですが、これもかつての先駆的な存在のひとつかもしれません。檜山さんの作画はポップでコミカルな雰囲気も感じられ、見た目はそこまで暗いイメージばかりでもないのですが、しかし描かれるストーリーは一様にシビア。最後には争いが高じてついに破滅的な展開まで迎えることになります。

 しかし、そうしてストーリーが大いに盛り上がったまさにその時期に、このマンガは「第一部完」として連載中断、実質的な打ち切りとなってしまうのです。その理由は、掲載誌だったパワードの休刊にほかなりません。連載最終盤の2009年、スクエニ雑誌の大再編が行われ、このガンガンパワードと同時にガンガンWINGも休刊、新しく創刊されるガンガンONLINEガンガンJOKERへと再編されることになったのです。

 この再編によって、多くの連載が終了することとなり、この「メガロマニア」もそのひとつとなりました。また、これは檜山さんが新雑誌のJOKERで新しく始める連載企画も関係していたようで、そちらで「ひまわり」という新連載を始めることになりました。これは、当時人気だった同人ノベルゲームのコミカラ イズで、決して悪い内容ではなかったとは思いますが、しかしその終了後も第一部完となった「メガロマニア」の再開はなし。こちらはまさに完全な打ち切りとなってしまったのです。

 スクエニにおいて、雑誌の休刊によって活躍の場を失い、消えてしまう作家は本当に多いです。この檜山さんの場合、連載こそ打ち切りになったものの、新雑誌で新しい連載を行う機会を与えられたわけで、その点はまだ全然よかったと思います。しかし、それでもこの良作だった「メガロマニア」が中途半端な形で終わったのはやはり惜しい。檜山さんは、この後にも何度か連載を行っていますが、いずれも短期間で終わるなど成功しきれなかったことを見ても、やはり惜しすぎる初連載だったと思うのです。

2017-09-20

kenkyukan2017-09-20

「刻の大地」連載再開決定に寄せて。

 先日、かつてのガンガンの人気連載「刻の大地」の連載再開の話が、作者の夜麻みゆきさんから告知され、その資金を集めるためのクラウドファンディング企画が立ち上がるという大きなニュースがありました。これは非常に大きな反響を呼び、8月31日に募集期間が終了したクラウドファンディングも、目標額の800万円の2倍の1600万円以上が集まるという結果となり、改めてかつての人気の高さと、今でも支持する根強いファンの多さを再確認することになりました。最近再アニメ化された魔法陣グルグル最遊記もそうですが、やはり昔のガンガン、エニックスの作品の潜在的な人気は本当に高いです。

 わたし自身も、今回の連載再開の話はとてもうれしかったのですが、同時に本当に意外でもありました。かつて作者自身の口から「もう描くことは出来ない」といった発言を聞いた記憶もあり、また連載終盤における中断の経緯からしても、再開の可能性は極めて低いと感じていたのです。

 この「刻の大地」、これまで散々取り上げてきた「エニックスお家騒動」による連載中断ではありません。いや、確かにその影響もあったと思います。お家騒動に至る路線変更において、ガンガンでトップクラスの人気を誇っていた「刻の大地」は、ガンガンの誌面に合わないという理由だけでGファンタジーへと移籍させられることになりました。Gファンタジー移籍後の内容は、明らかに精細を欠いていたところもありましたし、こうした措置が作者になんらかの動揺を与えた可能性は否定できません。

 しかし、中断した本当の理由は、おそらくは作者自身の精神的な理由にあったと思うのです。具体的には、連載中盤以降明らかに休載が多くなり、作画も乱れ、実際にはGファンタジー移籍前から精細を欠き始めたところがありました。そして、連載終盤は明らかに内容的にも調子を崩し、継続が難しい様子も感じられ、そのまま中断してしまったのです。その後の夜麻さんも、「刻の大地」以外の作品の執筆を行うことはありましたが、この作品だけはどうしても描けない様子が感じられ、もう商業で再開の話が出ることもなくなっていたのです。

 これは、他にも当時のエニックスの作家の何人かにも見られた現象で、例えば「まもって守護月天!」の桜野みねねさんも、連載の途中で突然調子を崩し、そのまま連載中断したという経緯があります。こちらも、最近になってついに正式に再開したあたりで共通しています。また、お家騒動マッグガーデンに移籍した作家が何人も、早い時期に連載を中断して姿を見せなくなったのも、やはり共通したものを感じます。誰もが自分の作品に対する思い入れが強すぎて、何かのきっかけで調子を崩すと継続が難しい。そんな雰囲気も感じられました。

 そんな中で、この「刻の大地」が、連載中断から15年が経過した今になって連載再開の決定が下されたのは、本当に勇気のいる決断だったと思います。クラウドファンディングが成功した後、この10月にもウェブ上で連載が再開されるようで、再開後1話を楽しみに待ちたいと思います。

2017-09-14 月刊ステンシルについて(2)。

kenkyukan2017-09-14

 前回では、雑誌の看板だった「BUS GAMER」と「AQUA」を紹介しましたが、他にもこのステンシルには目立たないながら確かな良作がいくつもありました。

 まず、どうしても取り上げておきたいのが、「南国動物楽園綺談」(斎藤カズサ)です。Gファンタジーで先にSFアクション「東京鬼攻兵団TOGS」を連載していた斎藤カズサさんの連載で、こちらは一転して九州の田舎を舞台にした動物コメディ。動物たちとの和気あいあいとしたコメディと薀蓄が楽しめる作品で、当時あの「動物のお医者さん」をよく引き合いに出されて評価されることがありました。「動物のお医者さん」は紛れもない傑作ですが、こちらも動物コメディとして非常に面白いものがあったと思います。

 しかし、その斎藤さんも、エニックスお家騒動に巻き込まれてエニックスを離脱、移籍先のコミックブレイドで新作の連載を始めますが、連載開始直後に休載となり、その後まったく消息が分からなくなってしまいました。結果として、この「南国動物楽園綺譚」が、エニックスで何作も良作を手掛けてきた作家の、実質的に最後の作品となっています。

 連載ではなく読み切り連作の形での掲載でしたが、こがわみさきさんの一連の作品も取り上げるべきでしょう。これ以前に他社で掲載された作品のコミックス「でんせつの乙女」がすでに一部の読者の間で話題になっていたのですが、このステンシルでさらに本格的に多数の読み切りを残すことになり、一気に知られる存在となりました。いずれの作品も、中性的なさらっとした心地のよい作画と楽しくもちょっと切ない数々のストーリーで、やはり多くの読者の支持を集め、このステンシルだけで3冊の読み切り短編集を残しています。休刊後はガンガンパワードへと移籍し、そちらでの連載「陽だまりのピニュ」でその独特の作風は完成した感がありました。

 これ以外にも、現代伝奇ファンタジー「現神姫」(天乃咲耶)、近未来SFバトルアクション「KAMUI」(七海慎吾)、 麻薬捜査官の活躍を描く現代アクション「switch」(naked ape)、夢の世界を舞台にした大正ファンタジー浪漫夢喰見聞」(真柴真)、爆笑動物ギャグ「パパムパ」(もち)など、これはと思える作品は意外なほど多くありました。また、これらの作品の多くは、ガンガン的なとりわけGファンタジーの作品に比較的近い雰囲気で、やはりエニックスの雑誌だったなと思わせるところがあります。事実、これらの作品は、雑誌休刊後にその多くがGファンタジーへと移籍することになりました(「KAMUI」のみガンガンWINGへの移籍、「パパムパ」のもちさんはGファンタジーで新連載掲載)。

 また、これらの作品の作者のうち、天乃咲耶さんはのちに他社に移りそちらで活躍を続け、naked ape一迅社へと移って主にそちらで活動、七海慎吾さんと真柴真さん、もちさんはそのままエニックススクエニ)に残って今でも活動中と、いずれも息の長い活動を続ける作家となっています。こうした実力のある作家を多数発掘し後世に残したことが、ステンシル最大の功績ではないかと思っています。

 しかし、この雑誌自体は、やはり最後までマイナーで目立たない存在のまま、ひっそりと休刊を迎えました。最後まで伸び切れなかった理由としては、やはり基本が少女マンガ誌ということで、ガンガン系の読者の好みからは最も外れた雑誌であったこと、そして数少ない看板作品だった「BUS GAMER」と「AQUA」の連載が、お家騒動で失われてしまったことが大きかったと思います。ゆえに、最後まで雑誌やその掲載作品があまり知られないままで終わってしまった。天野こずえさんの「AQUA」も、移籍後に「ARIA」としてリニューアルした後で急に知られるようになり、一気に人気を集めたことからも、このステンシルが非常にマイナーだったことが分かります。しかし、そうした名作を生み出す母体となったこの雑誌の功績は、意外なほど大きなものがあったと思うのです。

2017-09-13 月刊ステンシルについて(1)。

kenkyukan2017-09-13

 先日、かつてのエニックスの雑誌・ステンシルの連載マンガについてちょっと記したのですが、この雑誌を買っていた、あるいはその詳しい内容を知る人はあまり多くないと思います。エニックススクエニ)の雑誌の中でも、とりわけマイナーで、実際に購読している読者も少なかったと思います。しかし、この雑誌の連載マンガと、ここを出身とする作家の存在は、決して侮れないものがありました。ここでは、少し本格的にこの雑誌について語ってみたいと思います。

 月刊ステンシルは、エニックスより1999年に創刊された雑誌で、エニックスの雑誌では少年ガンガンGファンタジー・ギャグ王・ガンガンWINGに次ぐ5番目の雑誌になります。しかし、これまでの雑誌と違い、「少女マンガ誌」として創刊されたことが大きな特徴でした。「あのエニックス少女マンガ雑誌を」ということで当時のガンガン系読者の間では大きな話題になりました。また、当時ギャグ王が突然休刊したばかりの時期とも重なっていて、そのことでもいろいろと物議を招きました。

 実際に出てきた雑誌は、オーソドックスな少女マンガと呼べる作品もあったものの、やはりエニックス・ガンガン的な作風の連載も見られる雑誌で、特に女性読者の多かったGファンタジーに比較的近いカラーの雑誌になっていたと思います。しかし、やはり少女マンガであるという壁は大きかったようで、当時のガンガン系読者の間でも、他の雑誌より一段とマイナーな雑誌に留まってしまった感はありました。あの頃読まれていた雑誌は、まずやはりガンガンが抜きん出て多く、次いでGファンタジーガンガンWINGがかなり間を空けて続き、ステンシルはそれよりもさらに読者は少なかったと思います。

 しかし、それでもこの雑誌には、注目を集める人気連載がいくつもありました。中でも、最初から雑誌の看板として置かれていたのが、当時Gファンタジーの「最遊記」が人気絶頂だった峰倉かずやの新作「BUS GAMER」でしょうか。こちらは一転して現代日本を舞台にして、企業間の「ゲーム」による争いに参入した若者たちを描く物語で、「最遊記」とはまた違った面白さがあり、やはり大きな注目を集めました。しかし、このマンガ、当初から季刊と隔月連載でペースが遅かった上に、あのエニックスお家騒動による作者のエニックス離脱で中断、コミックス1巻が出ただけで終わってしまったのです。

 のちに移籍先の一迅社で、2006年より「月刊ComicREX」誌上で再び連載開始されるも、こちらも作者の峰倉さんの深刻な病状悪化により早期に連載中断 、やはりコミックス1巻が出たのみでいまだ再開されていないという不運の作品となっています。

 もうひとつ、この雑誌の最大の看板だったのが、あの天野こずえさんの「AQUA」です。雑誌創刊当初より、恋愛少女マンガ読み切りや雑誌の表紙を何度も手掛け、最初から雑誌のイメージをつかさどる作家となっていましたが、その天野さんが2001年より満を持して連載を開始したこの作品。テラフォーミングされて青い水の惑星となった火星を舞台に、主人公の灯里たちウンディーネゴンドラの漕ぎ手)の成長を描く物語で、その美しい作画と世界観、ストーリーで開始当初より大きな反響がありました。

 しかし、これも連載開始1年も経たないうちにお家騒動により中断、移籍先のマッグガーデンの「コミックブレイド」で「ARIA」とタイトルを変えて連載再開されることになり、そちらでも大人気を博することになります。何度もアニメ化されるなどマッグガーデンでも最大の成功作となるなど、その後の経緯についてはもはや説明するまでもないでしょう。この作品こそが、ステンシルという雑誌が生んだ最大の功績だと思います。基本的には「AQUA」と「ARIA」はまったく同じ作品で、完全に続きの話となっていますが、個人的には最初のタイトル「AQUA」の方が、より作品のイメージをストレートに表していてよかったと思います。それが唯一の心残りですね。

2017-09-07 「POCKET HEART」の思い出。

kenkyukan2017-09-07

 先日、妖精さんと一緒に暮らす話を取り上げたばかりですが、それをきっかけに、かつてエニックスステンシルでほんの一時期短期連載されていた作品を思い出しました。「POCKET HEART」(吉崎あまね)です。

 こちらはファンタジー世界を舞台にした日常ファンタジーで、とある空き家に住んでいたブラウニーの兄妹・リデルとネジと、その家に引っ越してきたオルゴール職人を目指す青年・エルムの出会いと交流を描く物語となっています。この連載の少し前に、まさに「リデルとネジ」という読み切りが掲載されており、そちらを設定を少しアレンジして連載化した形となっています。

 リデルとネジの兄妹は、オルゴール職人として名高いアボットおじいさんの家に住み着き、優しいおじいさんの元で幸せに暮らしていました。しかし、やがておじいさんは亡くなってしまい、双子は誰もいない家に取り残されてしまい、そしておじいさんとの思い出を失いたくなかったふたりは、アボットさんの家にやってくる人たちを次々と追い出していました。しかし、最後にやってきた青年エルムの優しい心に触れ、頑なだった心がほどけていき、やがてはエルムを完全に受け入れ、共に暮らすことになるのです。

 ここまでが1話のストーリーですが、これも元は読み切りとして書かれていたようで、これだけできれいに完結しています。続く第2話・第3話では、人間のエルムにもストーリーの焦点が移り、そちらのエピソードもまた感動させるもので、いずれも非常によく出来ていました。また、作者の吉崎あまねさんの絵も素晴らしいものがあった。まさにエニックスならではの中性的な作風を体現したかのような、くせの少ないかわいらしい絵柄で、少女マンガ誌であるステンシルの中でも、最もエニックスらしいマンガのひとつだったと思います。しかし、そんな確かな良作でしたが、わずかにこの3話だけで連載終了してしまうのです。

 「POCKET HEART」が連載されたのは、ステンシルで2001年8月号〜10月号。当時のエニックスは、あのエニックスお家騒動真っ最中の混乱期で、多くの雑誌で一気に連載が終了、混乱は極致に達していた時代でした。しかし、そんな中でもステンシルでの終了作品はさほど多くなく、幸いにも混乱の影響は少ない状態に留まっていました。そんな比較的静かな環境の中で、この「POCKET HEART」の連載が行われたのは、数少ない幸運な出来事ではなかったかと思います。

 しかし、作者の吉崎さんの商業連載が、これだけで終わってしまったのは本当に惜しまれます。約1年後にお家騒動で離脱した側のコミックブレイドで、2本の読み切りと読者コーナーのイラストを手掛けたことがあったようですが、それも一瞬のことで、それ以後は商業誌の活動は完全に途絶えてしまいました。もしお家騒動が起きなかったら、エニックスでまた活動の機会があったのか? 今となってはそれは知るよしもありません。

 ただ、吉崎さんもこの連載には特に思い入れがあったようで、のちに同人誌で少しずつその続きとなるエピソードを執筆していました。2004年頃から本が出始めたようで、2010年には総集編が出ています。しかし、その後2011年頃になってその活動も途絶えたようで、今となっては懐かしく思い出されるばかりです。

2017-09-06 「うちのアパートの妖精さん」

kenkyukan2017-09-06

 8月末の新刊で「うちのアパートの妖精さん」(あまからするめ)のコミックス1巻がついに出ました。以前コミティア同人誌で買った時以来注目していたのですが、その後ウェブ雑誌で商業化→ついにコミックスの発売となりました。気が付けば最初に出会ってから1年以上。ここまで長いようであっという間だったかもしれません。

 最初に同人誌が出たのは、おそらく昨年(2016年)5月のコミティアで、そのときの本のタイトルは「うちに妖精さんきてほしい」。西洋の伝承に登場する様々な妖精たちをイラストと4コマで紹介するという内容で、この時はマンガとイラストを使った解説本としてのコンセプトがメインだったと思います。それが、翌2017年初めからオーバーラップのウェブ雑誌・コミックガルドで商業連載開始。商業化に際してアレンジされてメインは4コママンガとなりました(解説分はキャラクターの紹介ページという形で残っています)。

 4コマの内容は、「アパートに引っ越したらそこに妖精さんが住んでいた!」「さらに後からどんどん妖精さんたちがやってきて大変だ!」と、そんな設定で妖精たちと人間の青年の織り成す日常コメディ・・・でしょうか。出てくる妖精たちは、コボルトピクシーケットシージャックフロストジャックランタンとファンタジーでもよく知られた妖精たちで、人間がいても平然と自由きままに暮らしている。中には人間の役に立とうとするものもいますが、いまいち役に立たなかったり役に立ったり役に立たなかったり。そんな「無邪気でかわいいけどちょっと手のかかる子供」のような妖精さんたちとの、ほのぼのした日常に思い切り和む作品となっています。

 妖精さんの見た目も思い切り縦に縮んだかのような2頭身で描かれていて、へちゃっとした感じでとてもかわいい。同人誌版では、普通の頭身のイラストでも描かれていましたが、商業版ではその多くがこうしたデフォルメ(?)絵で描かれています。そしてひとりひとり実在の伝承をモチーフにした個性的な性格が魅力的。個人的には、おとなしく善良でそっと人のお手伝いをする(でも中々気付いてもらえない)エサソンさんと、芸術家肌でいつも創作活動に励んでいるジャックフロストくんが特に好きですね。

 そんな妖精さんたちが次々と登場して、1巻の時点で随分と賑やかなマンガになっています。登場するたびに妖精さんたちの伝承を紹介するプロフィールページを読むのも楽しい。今後もぽこぽこ増えていくらしいのでさらに楽しみにしたいですね。

2017-08-31 9年目に語る「まなびや」。

kenkyukan2017-08-31

 先日、江の島鎌倉近辺を舞台にした作品を色々振り返る機会があったんですが、その中でひとつ「まなびや」(小島あきら)を再び振り返る機会がありました。テレビアニメなど他の有名な作品と違い、これはもう随分前にわずかの期間で連載が終わったマンガということで、知っている人は少ないかもしれません。

 「まなびや」は、2009年にガンガンJOKERの創刊号から始まった小島あきらさんの連載です。あの「まほらば」の小島あきらさんの新連載だけあって、創刊号から最大の期待作として推されていました。同時に当時創刊されたばかりのガンガンONLINEでも「わ!」という4コマの新連載が始まり、そちらと並んで当時のスクエニ新雑誌の最大の目玉だったと思います。さらには、このふたつは世界観を共有しており(舞台となる学校が同じ)、一方のキャラクターが何度も他方に登場するなど、作品同士のつながりを探すのも大きな楽しみとなっていました。

 肝心の「まなびや」の内容ですが、高校の新入生の男の子・槙嶋武(マキシマタケル)が、とあるきっかけから高校の映像写真部へと入部することになり、そこで出会う個性的な仲間たちとともに写真の活動に取り組んでいくというもの。武は、離婚して一人身になった父親のもとで、ずっと家事に勤しんできましたが、つい先日父が再婚することになり、家事の時間から大きく解放されることになりました。「これからは自由に自分のやりたいことをやっていい」と勧められましたが、しかし特にこれといった趣味もない。わずかに携帯電話で写真を撮るのが数少ない楽しみでしたが、しかしその写真撮影をきっかけにして、写真を趣味としたヒロインである白雪と出会い、さらには映像写真部への門戸を叩くことになる。そんな自由ながらちょっとした空虚感、寂しさを抱えるキャラクターの心境を丹念に描く、「まほらば」で見せた小島あきらの独特の作風がよく出ていたと思います。

 一方で、個性的過ぎる映像写真部の部員を始めとしたキャラクターたちが織り成す、ちょっと(?)毒のあるギャグやコメディ、随所に織り込まれたネタという、これまた小島さんらしい作風も健在でした。部員のキャラクターたちが、瑠璃や龍胆(りんどう)、擬宝珠(ぎぼうし)に蘇芳(すおう)、薊(あざみ)・金雀児(えにしだ)・苧環(おだまき)と、ことごとく花や植物の漢字の名前がつけられているのも特徴的で、どこか変なキャラクターというイメージを出すのに成功していたなと思います。

 加えて、前述の江の島鎌倉の舞台を描く背景にも光るものがありました。実在する場所の風景を撮影の位置からきっちりと設定し、作中で詳細に再現する手法を取っていて、キャラクターはシンプルな作画なのに背景は思った以上に緻密でリアル。「写真部による活動」という作品のコンセプトとも合っていて、これもまた独特の魅力を生んでいたと思います。

 これら数々の小島さんらしい面白さから、期待通りの人気で当初から好評連載中だったのですが、しかしわずか5話にして作者の体調不良を理由に連載中断、変わって4コマで作画の負担が少ないとされた「わ!」をONLINEからJOKERへと移籍して継続するという形となりました。「わ!」はその後2年ほど続きますが、その終了後も結局「まなびや」が再開されることはなく、しかもその後は小島さんの活動自体完全に途絶えてしまいました。

 さらに、かねてよりの(「まほらば」の頃からの)深刻な体調不良の話から、「小島さんは本当に死亡したのでは」という話まで読者の間で流れるほどで、一時期は死亡説が有力なくらいでした。それが、2016年になって突然JOKERで原作担当の読み切りで復帰、さらには本人作画による待望の新作読み切りまで掲載され、これは多くの読者を驚かせるに十分でした。

 しかし、その数本の読み切りの掲載後は、またしばらく新しい活動は見られない状態となっており、本格復帰はまだ難しいのかもしれません。個人的には、今度こそ「まなびや」の再開を期待しているのですが、その望みはまだまだ薄いのかもしれない。しかし、いつかあの名作の続きが読めることを期待してやまないのです。

2017-08-30 「Why did I enter the Art Course?」

kenkyukan2017-08-30

 「ご注文はうさぎですか?」「きんいろモザイク」「ステラのまほう」とヒット作の続くきららMAXから、さらなる注目作品として「どうして私が美術科に!?」(相崎うたう)を紹介したいと思います。まだ1巻が出て間もない今のうちにこそおすすめしておきたい。

 「どうして私が美術科に!?」は、タイトルどおり美術科のある高校が舞台のコメディ4コマ。美術部や美術科を舞台にした作品は、これまでもいくつも出ており、きらら4コマでも「ひだまりスケッチ」「GA 芸術科アートデザインクラス」という初期の頃からの名作はよく知られていると思います。この「どうびじゅ」こと「どうして私が美術科に!?」も、まさにそうした作品のひとつとも言えます。が、ちょっと違うのは、主人公の桃音(ももね)が、手違いから高校の美術科に入ってしまい、当初は美術とはまったく縁のなかった生徒であるということ。

 当初は間違えて美術科に入った自分を恥ずかしがり、美術のことを何も知らないことに不安と怖さでいっぱいだった彼女ですが、課題が出来ずに取り組んでいた居残りの場で個性的な生徒たちと出会い、彼女たちと一緒に課題に取り組むことで少しずつ美術に対して前向きになっていく。美術に対する知識や技術どころか興味もなかった場所からの、いわば「ゼロからの取り組み」の過程が描かれていることが、とても面白いと思いました。

 一方で、個性的過ぎる生徒たちによる、かなりぶっ飛んだネタのコメディがふんだんに描かれているのも楽しい。一見してクールで目つき悪くて怖そうに見えるけど、実は普段はローテンションでしょっちゅう眠っている黄奈子(きなこ)、面白いこと・食べること・動くことが好きなムードメーカー蒼(あおい)、美術には真面目に見えてどこかずれた関西弁少女・紫苑(しおん)、そして美術室のだるまに入って寝泊りしたり妙な口調でしゃべったりと最大の個性派とも言える生徒・翠玉(すいぎょく)と、ひとりひとりとても面白い。課題への取り組みや日常の生活でもどこかずれていたり、そのドタバタ感がとても楽しい。

 それと、主人公の桃音と彼女が最初に出会った黄奈子、このふたりの間に見られるほのかな依存関係にとても惹かれますね。間違えて美術科に入って不安に駆られていた桃音に対して、黄奈子も最初は好きで美術科に入ったわけではないという事情を抱えており、桃音に出会ったことで少しずつ自分も美術に対する向き合い方が変わっていく。桃音の方もそんな黄奈子の思いを知って惹かれていく。そんな微細な関係がとてもいい。

 キャラクターがポップでかわいらしく、カラーイラストも鮮やかに見栄えがするのもいいですね。好調のきららMAXでも「2巻の壁」で早期終了する作品が相次ぐ中、まだ早いうちにこの作品をおすすめしておきたいと思います。すなわちコミックス1巻を買ってくださいお願いします。

2017-08-25 SO2というエニックス全盛期。

kenkyukan2017-08-25

 先日、あの「スターオーシャン セカンドストーリー」のとあるキャラクター(というかアシュトン)の名前が、ツイッタートレンドに上ると言う出来事があり、改めてこのゲームの人気を再確認したのですが、かれこれ20年近く前にこのゲームが発売されたあの時代こそが、エニックスのゲーム部門でも出版部門でも最盛期ではなかったかと少し懐かしく思い出されました。

 「スターオーシャン セカンドストーリー」の発売は1998年7月。前作である「スターオーシャン」からほぼ2年後の発売で、これが制作スタッフのトライエースによる最大のヒット作のひとつになりました。ヒットには様々な理由がありましたが、プレイヤーの工夫次第で一気に攻略が楽になる大胆なゲーム性、徹底的なやりこみ要素、魅力的な数々のキャラクターやSF的な世界観などが挙げられるでしょうか。難易度はかなり高く、「最高レベルでもラスボスが倒せない」というプレイヤーがいる一方で、そんな強敵に挑むプレイヤーたちが攻略談義で盛り上がる。そんなゲームでした。中でも「アイテムクリエイション」(素材から自作のアイテムを作り出すシステム)に代表される奥深いやりこみ要素、キャラクターの個性をさらに演出する「プライベートアクション」(街や村など特定の場所でパーティーメンバーが単独行動するシステム)は、多くのプレイヤーを引きつけるに十分でした。

 そして、ゲームの発売から比較的早い時期に、ガンガンでもこのゲームのコミック連載が始まり、こちらも非常に好評で、ほどなくしてガンガンでも中心的な人気作品になりました。90年代後半においては「まもって守護月天!」や「ツインシグナル」「刻の大地」と並ぶガンガンの看板だったと思います。人気の理由は、なんといってもコミカライズ担当の東まゆみさんによるキャラクターでしょうか。あまりにも人気だったため、原作ゲームの続編である「スターオーシャン ブルースフィア」では、ゲームのキャラクターデザインに抜擢されたほどです。原作のストーリーを随所でアレンジした巧みな再構成や、緻密な作画による魅力的な世界や迫力の戦闘シーンでも光るものがありました。

 そしてこの当時は、このマンガの読者を中心にガンガンを読んでいた読者の間でも、原作のゲームをプレイしてはまっていた人が多かったことも見逃せません。特に、この「スターオーシャン セカンドストーリー」と制作スタッフの次回作である「ヴァルキリープロファイル」は大人気で(こちらもガンガンでコミック連載されました)、マンガとゲーム双方はまっていた読者は、当時本当によく見かけました。あの頃は、ゲームとマンガとその双方において間違いなくエニックスの全盛期だったと思います。

 しかし、長期連載でいまだ好評連載中だった2001年に、あのエニックスお家騒動が巻き起こり、このマンガも中断を余儀なくされます。中断による最終回は、ゲームでもちょうど中盤のクライマックスのイベントとなり、その後のストーリーやキャラクターにはまったく触れずじまいとなっていまいました。お家騒動によって中断されたほかのエニックスの作品は、いくつかが移籍先の雑誌で再開されることがありましたが、この「SO2」に関しては、原作がエニックスのゲームだけあって、最初から再開の可能性はほとんどなく、今に至るまで再開も新展開も何もないのが残念でなりません。中断前は間違いなくガンガンでも1、2を争う人気マンガだったのに、この結末はあまりにも寂しいものがありました。

 今ではエニックス自体もスクウェア合併して大きく体制が変わり、ガンガンを中心とするマンガ雑誌体制や作風も大きく変わってしまい、あの頃のことを懐かしく思い出されるばかりです。

2017-08-23 夏コミ同人誌ちょっと紹介。

kenkyukan2017-08-23

・「観葉植物になって百合カップルのイチャラブ生活を見守る話」(みかみてれん/てれたにあ)

 創作小説ですが、もう本当に完全にタイトル通りの内容で驚きますよ。死んで妹の部屋の観葉植物となった高校生の姉が、小学生の妹とその友達ふたりの百合関係的な生活を長年にわたって見守っていく話。目の前で紡がれる百合描写萌えあり感動ありでとにかく面白い。小学生から中学生、高校生と大きく成長していく妹たちとその関係性の変化を描くコンセプトも素晴らしい。あと、観葉植物になるというぶっとんだ設定、その日々の生活のおかしさを描くくだりもいいギャグ(ある意味ホラー)になっていて、随所で笑って読めるのもいいですね。

 作者のみかみてれん先生は、小説家でなろうで活動しつつ商業のライトノベルでもデビューしており、コミックキューンでもマンガ原作を担当するなど(「JK小説家っぽい!」)、多方面での活躍にさらに期待される作家だと思いますよ。


・「MEMOIRES OF EVER17」(滝川悠/Lovepockets)

 今回これを選んだのは完全に自分の趣味ですね。15年前に発売された「Ever17」でキャラクターデザインを担当した滝川悠さんによるかつてを振り返るイラスト集。あの当時から、こうしたジャンルのゲーム(ギャルゲー)で見られるオーソドックスな絵柄からは少しはずれた、線の細いスタイリッシュな絵柄に目を引かれていたのですが、それが15年経った今でもほとんど変わっていないことに安心しました。

 内容について何を言ってもネタバレになってしまうのがもどかしいのですが、ゲームを実際にプレイして進めないとに見られないキャラクター関係性、それを直接描いたイラストが見られたのはうれしかったですね。これを作中の舞台である2017年に見られたことに感動しました。

 そして、この本が見られた今、作品のもうひとつの舞台である17年後、2034年にはどうなっているのか気になります。作中で描かれた未来世界の技術が少しでも実現しているのか。そもそも自分は生きているのか、今と同じ生活をしているのか、まだイベントに通って本を買っているのか。また17年後にもこの本が出て、自分がそれを読んでいることに期待したいと思いますね・・・。


・「TARI TARI 鎌倉江の島聖地巡礼ガイド」(サークルEMA

 ここ数年、いわゆる舞台探訪(聖地巡礼)系の同人誌の質の向上がめざましいと思っているのですが、中でもこの江の島鎌倉を中心に活動するサークル・EMAの出す本のクオリティには驚かされます。今回の新刊は、もう5年前の放送になったアニメTARI TARI」の聖地巡礼本。

 基本は1ページで舞台となった場所の写真+テキストとミニマップでの紹介というスタイルで、特に重要な場所では特集ページもあるという構成。しかし、その舞台の位置と周辺情報の記述が非常に詳しく、極めて正確性が高く情報量も多い申し分ない観光ガイドとなっていて驚き。作中で商店街のイベントから泥棒を追いかけるシーンなどは、その詳細な逃走ルートと個々の舞台の場所が逐一紹介される徹底ぶり。これは本当に驚いてしまいました。

もうひとつ、アニメファン巡礼地となっている店舗に掲示される黒板イラスト、数カ月に1回のペースで更新されるそのイラストの写真を5年分ずっと掲載しているのもすごい。中には1カ月経たずに切り替わったイラストもあり、これを全部収録しているのは驚きとしか言えない。

 中にはこの5年で姿が変わったところもあり、かつて作中でミュージカルが上演された会場は今では更地となっており、ヒーローショーが行われた商店街もアーケードがなくなり衰退、あの有名な鎌倉高校前駅の踏切も、2015年以降工事が始まり景観が変わってしまっているようです。奇しくも5年間の時間の経過を感じる一冊にもなってますね。


・「あいた〜ん1〜4」総集編(ナナセミオリ・コキリン/山猫BOX)

 つい先日商業コミックスを紹介したばかりだけど気にしない。こちらはオリジナルの創作本のシリーズ総集編で、田舎で暮らす素朴な女の子・ひばりと都会から越してきた垢抜けた女の子・大和(やまと)の出会いと日常を描くコメディですね。見た目も行動も純朴そのもののひばりと、垢抜けて押しの強い現代っ子大和のずれた掛け合いが楽しい。大和から見ると、なんとも田舎っぽくて垢抜けないひばりをなんとか今時の女の子に仕立てようとする形に、ひばりから見れば活発で魅力的な大和と彼女が暮らしていた都会(東京)に憧れる形になっていて、その関係性が面白いですね。

 それともうひとつ、この総集編ならではの特典として、作中の舞台となった場所の紹介が写真付きで7ページも掲載されています。これまでの単体の本では、明確な舞台モデルは出てこず(地名も変わっている)、特定の舞台があるとは思っていなかったのですが、まさか北秋田秋田内陸線沿線だったとは。特に作中で最寄り駅となっている岩野目駅近辺は、本当に田舎で道と森ばかりの場所で驚いてしまいました。バスも1日に上りと下りが1本ずつしかない・・・。これは逆に聖地巡礼に行きたくなってきましたよ。

 最近は舞台探訪の動きも速く、アニメやマンガの舞台がすぐ開拓されることも当たり前になっていますが、これは同人誌だけにさすがにまだ誰も知らないだろうということで、その舞台をいち早く知ってちょっとうれしくなりました。

2017-08-10 冬の「ゆるキャン△」のアニメが最高に楽しみ。

kenkyukan2017-08-10

 このところ、「ブレンド・S」「スロウスタート」「こみっくがーるず」「はるかなレシーブ」ときらら系のアニメ化発表が相次いでいて、どれも楽しみで仕方ないのですが、その中でも冬からの放送が告知されている「ゆるキャン△」(あfろ)にはひときわ注目しているところです。原作はフォワードの連載で、タイトルどおりゆるく活動するキャンプの楽しさを描いた作品。それも、キャンプでは通例シーズンオフとされる冬場でのキャンプの楽しさを全面に描いているところが、極めて特徴的な作品となっています。

 舞台となるのは、ごく一般的な設備と環境が整ったキャンプ場がほとんどですが、しかし寒さ厳しい冬場であるため他に利用者はほとんどいない。いるのは人のいい管理人のみで、簡単な注意事項を守ればあとの行動は自由。気の向く場所に自由にテントを張り、ゆったりとあたりを散策して薪なんかを集め、焚き火なんかで火をおこして温かいものをゆっくりと味わって食べる。周囲を見渡せば広々とした素晴らしいパノラマが広がる。そんなまさに肩のこらない本当にゆるいキャンプの姿、しんどい目標や作業などまったく意識しない、ただただ楽しい活動の姿が存分に描かれています。

 中でも特筆すべきは、キャラクターのひとりであるリンちゃん(志摩リン)の活動ぶりです。彼女は、ほとんどの場合ひとりでキャンプに出かけ、直接的に人と会って一緒に活動することがあまりありません。コミックス最新4巻までの範囲内で、メインキャラクターのひとり・なでしことたまたま一緒になったことが1回、そしてようやく4巻になって、彼女を含む3人の野外活動サークルのメンバーと一緒にキャンプをするまで、基本ずっとひとりでの活動なのです。

 ひとりで自由にバイクを飛ばし、行く先々の食堂や温泉なんかにゆっくり立ち寄りながら目標のキャンプ地にたどり着き、そこでもひとりきままにテントを張って、薪を借りて火を起こし、防寒具をしっかりと着込んでテントのそばでゆったりと過ごす。簡単な調理器具で温かいものをひとり堪能し、周囲の景色を味わう。そんな「孤独のキャンプ」とでも言うべき、何も障壁となるものがない単独での活動の魅力が、どこまでもじっくりと描かれているのです。

 個人的に、これはきらら系の作品でもかなり異色のコンセプトではないかと思います。日常ものにしろ部活動ものにしろ、キャラクター同士が直接会って会話する親しい交流の姿を描く。そういう作品はやっぱり多い気がします。そんな中で、この「ゆるキャン△」のように、キャラクターひとりでの活動の描写が延々と続く作品は、本当に貴重ではないかと思うのです。

 しかし、単独で行動しているからといって、キャラクター同士の交流がないわけではありません。そう、離れていながら、スマートフォンタブレットでの交流の姿が盛んに描かれているのです。離れていても常にそうした手段で人と繋がっている。特にこれはと思ったエピソードは、リンとなでしこが、ずっと離れたキャンプ地にいながら、互いに周囲の素晴らしい景色の画像を送りあうシーンです。自分が感動した素晴らしい景色のパノラマ、それをずっと離れた仲間と共有しあう。このシーンだけはほんとにじんと来てしまいました。

 キャンプ地への進路に迷うリンを、なでしこたち野外活動サークルのメンバーがナビゲートする話もいいですね。カーナビだけでなんとかなると考えるリンでしたが、しかしそれでも離れた場所から寄せられる情報に耳と傾けるだけでも楽しく、さらには時間が押す中で通行止めの道に遭遇してピンチに陥ったときも、なでしこの意外な知識に助けられてキャンプ地へと無事たどり着く。そんな息の合った遠隔交流の姿が描かれる名エピソードになっています。

 わたしは、こうした離れた場所での交流、「こんな場所に行ってるんだ」と知り合い同士がその状況を楽しむような遠隔交流に、ひとつの可能性を見出しています。そんな個人的な期待からも、それがテレビで見られる「ゆるキャン△」のアニメはとても楽しみなのです。

2017-08-09 ふあふわ白書

kenkyukan2017-08-09

 2カ月近く前の新刊になってしまいましたが、以前より同人活動で注目していたナナセミオリさんの商業初コミックスが、一迅社より出ました。百合姫掲載の読み切り3作に同人誌からの再録2作を加えた読み切り集。一迅社は、以前より有望な同人作家の作品を拾い上げ、それを商業コミックス化するという試みを何度も行っていて、その活動にも注目しているのですが、今回は特に好きな作家さんだっただけに、そのうれしさは大きかったです。

 ナナセミオリさんは、以前より多数の同人誌を出していて、2次創作ではごちうさラブライブ!まどマギ、少し前には咲-Saki-らき☆すたなど様々なジャンルの本を出していました。さらにはオリジナルの創作本も多く、最近では田舎に帰ってきた女の子の日常を描いたシリーズ作(「あいた〜ん」)も手掛けていて、これも注目して追い掛けていました。しかし、ここに来てまさか商業本が出るとは思わなかった。一迅社ほんとグッジョブ!という感謝しかないですね(笑)。

 収録された5本の読み切りは、いずれも中学生の女の子の百合恋愛を扱ったもの。ほのぼのとしつつ初々しい恋愛の姿がよく描かれていてなんとも微笑ましい。それと同時にちょっと深い事情に踏み込んだシリアスな物語もあり、キャラクターのかわいさに惹かれつつもぐっと読ませる話になっています。

 中でもこれはと思ったのが、2番目に掲載されている「DJカレンにおまかせ!」。放送部でDJをしている女の子・カレンの質問コーナーに、「友達の女の子を好きになってしまった」という質問が寄せられてくるエピソードです。それに対するカレンの回答が、思った以上にずっと真面目なもので、「いきなり拒絶しないでほしい」「真剣に向き合ってほしい」とみんなに訴えかけるものでした。これが同性愛など特殊な恋愛に対する優れた回答にもなっているようで、すごく感動してしまったのです。

 それと、やはりナナセさんの絵は素晴らしい。すごく整った綺麗な絵で何よりキャラクターがかわいすぎる。表紙の絵にまず惹かれてしまいましたが、中身もほぼそのままのイメージになっていて、どの話のカップリングも素晴らしいと思いました。これが1冊にまとまって良かったと思います。

2017-08-05 そろそろ90年代ガンガンの名作をアニメ化してみようか。

kenkyukan2017-08-05

 ここ最近、「魔法陣グルグル」に「最遊記」の再アニメ化&放送開始に加えて、あの「封神演義」や「カードキャプターさくら」のアニメ化の発表まで飛び込んできて、かつてのファンを中心に大きな話題となっていますが、これを機にグルグルだけでなく他のガンガンのかつての連載も、改めてアニメ化の可能性を考えてみたいと思うのです。というか、かつての大きな人気を獲得しながら、残念ながらアニメ化されなかった名作はあまりに多い。

 その中でも筆頭は、なんといっても「ロトの紋章」ではないかと思います。ガンガン創刊号からの看板作品で、ドラクエ3のアフターストーリーというゲームプレイヤーを惹きつける設定と、藤原カムイの作画による圧倒的な迫力のバトル、魅力的なキャラクター。雑誌での人気、コミックスの売り上げも申し分なく、全21巻で1800万部に達したという話もあります。しかし、これだけの作品でありながら、最後までテレビアニメの話が聞かれなかったのが、本当に不思議なところでした。

 当時はまだ新興の出版社だったエニックスの力が弱かったのかとも思っていますが、今ならばその心配もないでしょう。かつてのガンガンの大人気作品で、今は続編が連載中という点では、先に再アニメ化を達成した「魔法陣グルグル」とも共通しています。ドラクエの人気はいまだ健在でもありますし、今からアニメ化しても大きな反響が見込めそうです。加えて、アニメの作画が大きく進歩した今だからこそ、あの壮大なスペクタクルバトルをアニメで見てみたいですね。

 90年代を通した長期連載でトップクラスの人気作品だった「TWIN SIGNAL」も、結局アニメ化されなかった名作です。かろうじてOVAにはなったのですが、その内容は初期のエピソードのみで、原作がぐっと面白くなる「アトランダム編」以降の話をアニメでやってほしいと、誰もが思っていたはずです。ロボットと人間の関係を追求した物語は、AIロボットが進化して話題になる今だからこそ、さらに興味を惹かれる内容でもある思います。

 「刻の大地」もまたテレビアニメ化されなかった最大の名作のひとつ。同じく夜麻みゆき三部作の「レヴァリアース」「幻想大陸」も合わせて、その壮大な物語を最初からアニメで観たいところ。そこに行きたくなるほどの魅力溢れるファンタジー世界を、今のアニメの技術で再現してほしいのです。

 「CHOKO・ビースト!」「PON!とキマイラ」の浅野りん作品も外せないところ。この学園コメディの楽しさは今でも十分すぎるほど通用するでしょう。あの個性の固まりとも言えるキャラクターたちの魅力はすごい。少年サンデー的な作風でもあり、アニメでも幅広い視聴者の支持が期待できると思います。これもかつてアニメ化の話がまるでなかったのが不思議なところです。

 他にも姉妹誌のGファンタジーやWING、ギャグ王でもこれはと思える作品はいくらでもあります(個人的には「まいんどりーむ」「ナイトメア☆チルドレン」の藤野もやむ作品を・・・)。今に至ってもいくらでも夢は尽きませんね。

2017-08-02 上田信舟先生の歩みを振り返る。

kenkyukan2017-08-02

先日、90年代のGファンタジーを振り返る記事を書いたところ、上田信舟先生の「魔神転生」や「女神異聞録ペルソナ」に結構な反応があり、いまだにあの頃の人気を再確認しました。やはりあの当時の女神転生メガテン)を原作にしたコミックは、今でも強く支持されているのだなとうれしく思いました。一方で、それ以後今現在まで息の長い活動をしている作家でもあり、ここでは今一度その歩みを振り返ってみるべきかなと思います。

 上田先生の商業デビューは、おそらくは92年頃で、この頃にゲームアンソロジーで活動を始めたようです。特にファイアーエムブレム読み切りがデビュー作だったようです。その時の読み切りは、のちにエニックスから「ファイアーエムブレム 風の魔導士」として一冊にまとまっています。

 その後、94年から、エニックスGファンタジーで初連載となる「魔神転生」の連載を開始。96年に終了し、同年末から今度は「女神異聞録ペルソナ」の連載を開始。これが2000年まで続く長期連載となります。この2作が、今でも根強い支持を得る最大の人気作となりました。

 このふたつの作品の特徴は、原作ゲームの持つシナリオに積極的に様々な要素を加味し、あるいはキャラクターにも独自の解釈を加え、より深く魅力的なストーリーに仕上げていること。1作目の「魔神転生」などは、主人公にデフォルトネームはなく、会話シーンも少なく非常にシンプルなゲームだったのですが、コミックでは主人公たちに「都心の廃墟で生きる少年たち」という設定を加え、序盤から読ませるエピソードをいきなり見せてくれました。原作の重要キャラクター、エティアンヌと南一佐の出番も大幅に増え、パーティーに同行する形となり、さらにはゲームでは完全に戦闘ユニットに過ぎなかった仲魔たちにも、固有のキャラクター性を追加、魅力あるキャラクターに仕上げています。このマンガで初めてオルトロスのかっこよさに惹かれた読者も少なからずいるはずです。

 「女神異聞録ペルソナ」でも、各キャラクターのエピソードをより深く掘り下げ、主人公にも「藤堂尚也」という固有の名前を追加、双子の兄がいるという設定でそこで非常に深いオリジナルエピソードを見せてくれました。さらには、原作では隠しエピソードに当たる「雪の女王篇」も、本編のストーリーに挿入される形となっており、これはゲームのプレイヤーにも喜ばれました。

 この「ペルソナ」の連載終了後は、あの異様な世界観で話題となったローグライクゲームBAROQUE」のコミカライズBAROQUE 〜欠落のパラダイム〜」の連載を開始。お家騒動直後の2002年までの比較的短い期間での連載となりましたが、こちらもやはりシンプルなシナリオを巧みに脚色して読ませるコミックに仕上げています。

 そのお家騒動後は、主に一迅社ゼロサムへと活動の舞台を移し、ここからはオリジナルの作品を中心に手掛けるようになります。まず2002年から「DAWN 〜冷たい手」の連載を開始。これは、化け物と化すウイルス感染した少年が、同じく化け物と闘わされるという、ゾンビものの設定をリメイクしたような現代ものとなっており、やはり暗い世界観が印象的でした。同時に、大きな悩みを抱えることになった少年少女たちの心理描写にも長けていて、これは上田先生の作品の一貫した持ち味になっていると改めて思いました。

 また、同時期にはGファンタジーにも復帰し、「真・女神転生外典 鳩の戦記」という、女神転生のオリジナルコミックの連載も始めます。ロウとカオス対立という真1に立ち返ったような設定でのストーリーは興味深いと思いましたが、どういうわけか連載途中で休止状態となり、ほぼ未完結で残念ながら終わっています。

 一方で、一迅社ゼロサムでの活動は堅調に続き、2007年に「DAWN 〜冷たい手」の連載終了後も、「彩の神」「華園ファンタジカ」「幕末Rock-howling soul-」「魔術師と私」とコンスタントに連載を続けており、90年代エニックスの作家の中でも息の長い活動を続ける作家のひとりとなっています。

 最近では、白泉社ヤングアニマル嵐で「えびがわ町の妖怪カフェ」という連載を開始。妖怪もの+グルメマンガという最近の流行を取り入れた作風に驚くと同時に、これまでとは違う男性向け雑誌での連載となったのも意外に思いました。しかし、その持ち味は相変わらず健在で、幼い少女と心優しい叔父のふたりが、妖怪たちと打ち解けて料理でもてなすというハートフルストーリーで読ませる1作となっています。新境地でのこの連載にも注目ですね。

2017-07-27 「はやしたてまつり♪」

kenkyukan2017-07-27

 1カ月前のコミックスになってしまいましたが、6月のきらら新刊より「はやしたてまつり」(高坂曇天)を紹介したいと思います。ここ最近、きららではいわゆる日常ものに加えて、女の子たちが何かに取り組んでいく作品を、ひとつのコンセプトにしているような気がしますが、これもその中のひとつだと思いました。この「はやしたてまつり♪」で主人公たちが取り組むのは、祭りのお囃子。中でもその主役となる太鼓です。

 新聞部の女の子2人が、地元のお囃子の演奏家だという人に取材に行ったことをきっかけに、自分もお囃子の演奏に興味を持ち、とりわけ太鼓を叩いた時の心臓に伝わる響きに感動を覚え、少しずつその世界へと入っていくというストーリー。強面の年配の人だと想像していたお囃子の演奏家の人は、実は高校生の女の子でしかも同じ学校の隣のクラスメイトだったという展開で、その取材の成果の新聞記事を書いたところ、役所のふるさと振興課のお姉さんの目に留まり、彼女の誘いで地域新興の活動を始めることになります。彼女の紹介で笛を担当する女の子も加わり、4人で練習して地元のイベントに出ることになる。

 中でもこれはいいと思ったシーンは、そのイベントで緊張を乗り越えて初めて演奏を始める場面。4人の音が合わさり、初めはゆっくりと、そして少しずつ駆け足でテンポが上がり、ついにはお祭りの賑やかな音に満たされる。そのお祭りの空気感が画面から伝わってくるようで、心地良くも華やかなシーンになっていると思います。

 高坂さんの絵がいい感じに柔らかで優しい雰囲気を出しているのもいいです。とりわけカラーページは華やかさも加わってとてもいい。太鼓や笛など楽器から出る音が、ぼんやりした光の玉や花びらで表現されている演出もいい。そのあたり一面の空気を響かせる音の広がりをそのまま描いているようで、とても面白い演出だと思います。

 和楽器という点では、きららフォワードに「なでしこドレミソラ」という先行作品があり、こちらとも音の演出という点でちょっとした共通感を覚えます。練習してイベントで成果を発揮する部活動的な取り組みという点では、同じくフォワードの「ハナヤマタ」を思い出すところもあり、あるいは地元新興のための活動という点では「ろこどる」的な要素もある(笑)。それでありながら、お祭りのお囃子、響き渡る太鼓というダイナミックな活動で、こうした先行作品ともまた違った魅力を持つ作品になっていると思いますね。

2017-07-24 90年代ガンガンWINGを振り返る。

 ここまで90年代のGファンタジーを2回に分けて振り返ったので、今度はもうひとつ、ガンガンWINGについても語るべきでしょう。実質的に雑誌として始まったのが98年と遅かったので、お家騒動までほんのわずかの間だったのですが、しかしその間の充実度は計り知れないものがありました。これこそかつてのガンガン系の全盛期を代表する雑誌ではなかったかと思っています。

 もともと、この雑誌は、「フレッシュガンガン」という新人読み切り掲載雑誌として、92年というかなり早い時期に刊行が始まっています。のちに96年になってこのガンガンWINGという誌名に変わりますが、まだ中身は読み切り中心のままでした。

 それが、98年になって、大きく誌面をリニューアルし、通常の連載を掲載する雑誌となりました。連載陣は、この時からの新人の他、当時のガンガンやGファンタジーの人気作家の新作を多数立ち上げ、そのため多くの作家がこれらの姉妹誌と共通していました。ゆえに、この当時のガンガンWINGには、これらの人気作家の別の側面を見られるという魅力もあったのです。

 そんな連載の中でも、まず筆頭は「パンゲア」(浅野りん)でしょうか。「CHOKO・ビースト!」「PON!とキマイラ」の浅野りんさんのWINGでの連載は、一転してファンタジーストーリー。親しみやすいキャラクターとコミカルな掛け合いは健在ながら、秘められた謎を追い求めて旅を続けるロードファンタジーの面白さも持ち合わせた、浅野さんらしいバランスの取れた作風だったと思います。学園コメディだけでない浅野さんのもうひとつの側面を見られただけでも、このWINGの価値はあったと言えるでしょう。

 もうひとつ、「常習盗賊改め方 ひなぎく見参!」(桜野みねね)も挙げるべきでしょう。「まもって守護月天!」の桜野さんのもうひとつの連載は和風な世界観を舞台にした時代物でした。端整なキャラクターと作画、繊細な心理描写はこちらも健在でしたが、エニックス時代末期の作者の不調に伴って、こちらも不振に陥ったのが残念なところです。

 さらに見逃せないのが、「ワールドエンド・フェアリーテイル」(箱田真紀)です。Gファンタジーファイアーエムブレムを長く続けた作者のオリジナル連載は、妖精伝説をベースに学園を舞台にしたファンタジーでした。箱田さんらしい端整な作画と作品に漂う静謐な雰囲気が魅力で、たびたび表紙になり、当時のWINGのイメージを代表していたと思います。今でもこの作品が好きだという人は数多い。

 新人作家の作品としては、「まいんどりーむ」「ナイトメア☆チルドレン」(藤野もやむ)は絶対に外せないところです。かわいいキャラクターと透明感溢れるイラストと、一転してシリアスで切ないストーリー。個人的には、この当時全盛だったガンガン系の中性的な雰囲気を最もよく表した作家だったと思います。お家騒動で移籍後も長く活動を続けますが、このエニックス時代の作品が一番好きという人はいまだ多い。

 最後に「ジンキ」(綱島志朗)も名作中の名作でした。エニックスでは珍しいロボットものでしたが、ジャングルの山奥で人知れず脅威と戦う組織の日常を描いた泥臭い作風が、他にない魅力だったと思います。この連載の前に描かれた読み切りで、重機のようなロボットで日々地雷の除去に取り組む者たちの姿を描いた作品があるのですが、そうした地味で危険な日常の仕事、しかし誰かがやらなければならない仕事を描くコンセプトが、この綱島作品最大の魅力だったと思うのです。

 これ以外の連載からも、Gファンタジーで長く活動を続けた作家による和風ファンタジー「陽炎ノスタルジア」(久保聡美)、独特の存在感を放ったダークファンタジー「悪魔狩り 〜冠翼の聖天使篇〜」(戸土野正内郎)、ガンガン人気連載の外伝「TWINSIGNAL外伝 呪われし電脳神」(大清水さち)・、いずれも秀逸な内容のゲームコミック「ヴァンパイアセイヴァー 魂の迷い子」(東まゆみ)・「ファイアーエムブレム-光をつぐもの-」(冬季ねあ)」・「タクティクスオウガ」(松葉博)など、雑誌を支えた名作は数多い。連載の充実度では、同時期のガンガンやGファンタジーをも凌ぐものがあったと思います。

 最後にあの「まほらば」(小島あきら)が来てラインナップは完成した感がありますが、しばらくのちにあのお家騒動が起きてしまい、ほとんどの作家が移籍して抜け、全連載の実に8割が中断されるという事態に陥り、この全盛期のガンガンWINGは完全に崩壊することになるのです。

2017-07-21 90年代Gファンタジーを振り返る(2)

 こうして93年の創刊直後から良作に恵まれ、順調に推移してきたGファンタジーですが、96年以降さらにまとまって多数の良作が登場し、さらに誌面は充実することになります。ここがGファンタジーの全盛期であると同時に、エニックス・ガンガン系の全盛期でもありました。

 その中でも真っ先に取り上げるべきは、やはり「最遊記」(峰倉かずや)でしょうか。96年に掲載された読み切りが好評を博し、翌97年初からほぼそのままの形で連載開始。当初から人気でしたが、2000年のテレビアニメ化でさらに爆発的なヒットとなります。内容はもう説明不要かもしれませんが、西遊記に現代的な設定を加えたSFファンタジーで、バトルアクションであり人間ドラマでありまたロードムービーでもある。峰倉さんならではの重厚な作画が、最初の時点でいきなり完成していたのも大きな魅力でした。

 もうひとつ、Gファンタジーの当時の看板作品となったのが、遅れて97年に始まった「E'S」(結賀さとる)でしょう。サイバーパンク的な設定のSFアクションですが、圧倒的な画力と緻密なストーリー構成で高く評価されました。とりわけ作画に関しては、当時のエニックスの作家の中でもトップクラスで、この「E'S」が、長い間Gファンタジーという雑誌のイメージにもなっていたと思います。休載が多く連載ペースが遅いのが難点でしたが、お家騒動後も長く続き完結まで漕ぎ付けたのは幸いでした。

 「クレセントノイズ」(天野こずえ)も絶対外せないところです。のちにARIA大人気となる天野こずえさんのかつての連載で、一足先にガンガンで始まっていた「浪漫倶楽部」のコンセプトを引き継ぐ学園もの+サイキックアクション。連載途中で「第一部完」として一時中断し、実際に再開する予定だったようですが、そこであのエニックスお家騒動が勃発、天野さんがエニックスを離れたことで再開されなくなってしまいました。おそらくは今後も再開の可能性はほとんどないと思われる上に、コミックスの新装版すら出ていない悲運の作品です。

 もうひとつ、「東京鬼攻兵団TOGS」(斎藤カズサ)も見逃せません。未来のドーム都市を舞台に人間を脅かす化け物と戦うSFアクションですが、こちらも大きな反響がありました。美少女+バトルアクションという設定で男性読者にも人気が高かったのが印象的でした。また、作者の斎藤カズサさんは、天野さんとも親交があったようで、作画にも近いものを感じるところがあるかもしれません(天野さんの作品でメカデザインを担当したこともあります)。

 しかし、この斎藤さんも、お家騒動エニックスを離れ、しかも移籍先のコミックブレイドで一時期新作を始めたもののすぐに休載となり、以後まったく消息がなくなってしまいました。エニックス時代にあれだけの良作を手掛けた作家のその後としてはあまりに寂しい。

 「女神異聞録ペルソナ」(上田信舟)も雑誌を支えた名作のひとつ。同名ゲームのコミカライズですが、原作ゲームの人気に加えて、上田さんならではの親しみやすいキャラクターと練られたストーリーで、ゲームのプレイヤーにも非常に高く支持されました。今でもペルソナと言えばこの上田信舟のコミックを思い出す人は多いと思います。

 もうひとつ「破天荒遊戯」(遠藤海成)も挙げておきましょう。少女と青年の面白楽しくも時に厳しい旅道中を描くファンタジー。ずっとのちにコミックアライブの「まりあほりっく」の方が人気を得て有名になってしまいましたが、これが遠藤さんの初連載でした。毒舌と皮肉の効いたキャラクターと会話劇はこの頃から健在でしたね。

 これ以外にも、「神さまのつくりかた。」(高田慎一郎)、レガリア「中村幸子・川添真理子」、「魔女っ子戦隊パステリオン」「華の神剣組」(松沢夏樹)、「フランケンシュタインズ・プリンセス」(たつねこ)、「わくわくぷよぷよダンジョン」(魔神ぐり子)、乱世の薬売りシン(佩月なおこ)など、この90年代後半の全盛期を支えた連載は数多い。最後にあの「ぱにぽに」(氷川へきる)が加わってラインナップが完成した感がありますが、まもなくあのお家騒動が起こり、この楽しかった全盛期は終わりを告げることになるのです。

2017-07-19 90年代Gファンタジーを振り返る(1)。

 先日、グルグルの再アニメ化や刻の大地の連載再開に際して、かつてのガンガンの話をしたところ、やはり相当な反応が見られ、改めてかつてのガンガンの人気を実感したところです。やはり90年代のガンガンの作品は、今でも覚えている人がたくさんいるくらい大きな人気がありました。

 しかし、当時のエニックスは、ガンガンだけでなく、その姉妹誌であるGファンタジーガンガンWING、ギャグ王にも無視できない人気がありました。また、これらの雑誌すべてで共通した雰囲気があり、何よりもエニックス雑誌全部、ガンガン系全部が好きという読者が多数いたのです。

 ただ、さすがに中心雑誌のガンガンに比べれば読者数や知名度で劣るところがあり、今では知る人がさらに少なくなっているのが残念なところ。今こそ、そうした作品にも今一度光を当てる好機だと思いました。中でも、ガンガンの次に93年という早い時期に創刊されたファンタジー誌・Gファンタジーの存在はとりわけ重要です。

 Gファンタジーは、93年に創刊された当時の雑誌名は「ガンガンファンタジー」で、1年後にGファンタジーと改名されました。タイトル通りファンタジーにより特化した雑誌というスタイルで、対象年齢も高めに設定され、あるいは少女マンガ的な作品も多く、やや女性読者向けの雑誌としても位置づけられていたと思います。しかし、一方で男性向けと思われる連載も少なからずあり、あるいはそれ以上に当時のエニックスの雑誌がどれも近い雰囲気を持っていたこともあり、ガンガンの読者とかなりの部分で共通したところもあったと思います。

 創刊当初に雑誌の看板として打ち出されたのが、当時ドラクエの関連小説として刊行されていた「精霊ルビス伝説」のコミカライズでした(原作・久美沙織、作画・阿部ゆたか)。しかし、これはあまり評判はいいとは言えず、ある程度連載は続いたものの最後までぱっとせず終わってしまいます。また、あの高河ゆんの「超獣伝説ゲシュタルト」も創刊号からの看板作品でしたが、こちらも休載が非常に多く最後まで安定しませんでした。

 変わって真っ先に人気を得たのが、「ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣」(箱田真紀)と「聖戦記エルナサーガ」(堤抄子)です。前者は同名ゲームのコミカライズですが、当初から抜群の構成と作画の素晴らしい出来で、箱田さんのFEと言えば今でも名作として思い出す人は多いです。連載後半で調子を崩して中途半端に終了したのが極めて残念。「聖戦記エルナサーガ」は、対してオリジナルのファンタジーで、緻密に練り上げられた世界観とストーリー、社会性を帯びた奥深いテーマで、いまだに名作として語り継がれる屈指の一作。こうした実力のある作品がしっかりと雑誌の中心に存在したことが、最初期から好調を維持した大きな理由と言えそうです。

 創刊から遅れて1年ほど経って始まった「レヴァリアース」(夜麻みゆき)も絶対外せないところ。「幻想大陸」「刻の大地」と続く夜麻みゆき三部作の最初の作品で、魅力的なキャラクターと世界観、楽しいコメディや衝撃のクライマックスで、今でも三部作で一番好きと言う読者は多いです。

 同時期に始まった「魔神転生」(上田信舟)も挙げておきましょう。のちに「女神異聞録ペルソナ」でさらなる人気を獲得する上田さんの最初の連載で、これが上田さん初の女神転生メガテン)シリーズのコミカライズでした。原作のシンプルなストーリーに様々な要素を追加し、はるかに楽しめる奥深いストーリーに仕上げると同時に、ゲームを知らない読者にも分かりやすく設定を説明する配慮にも行き届いていました。のちの作品に比べると知名度は低いですが、これも見逃せない良作だったと思います。

 これ以外にも、初期のGファンタジーには、「白のテンペスト」(斉藤カズサ)や「サリシオン」(久保聡美)のような本格ファンタジー、「勇者はツライよ」(松沢夏樹)や「スマイルはゼロゴールド」(佐野たかよし)に代表されるギャグ作品、「アクトレイザー」(加藤元浩)や「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」(かぢばあたる)などのゲームコミックと、読ませる連載は多かったです。そして、これが96年以降のさらなる盛り上がり、全盛期につながることになります。

2017-07-18

「ドージンワーク」から「アホガール」までヒロユキ作品を振り返る。

 今季も前から期待していた原作付きアニメは多かったのですが、その中でもこのヒロユキさん原作マンガの「アホガール」が、一部で異様な反響を獲得していて驚いています。以前からヒロユキ作品はいろいろ読んでいて、この原作マンガも知ってはいたのですが、まさかアニメでここまで注目されるとは思いませんでした。「アホ」キャラであるヒロイン・よしこを中心に、個性的すぎるキャラクターたちによる強烈なボケとツッコミのテンポが素晴らしく、確かにこれはアニメで一層面白くなったと思いました。

 作者のヒロユキさんを最初に知ったのは、2004年にまんがタイムきららキャラットで始まった「ドージンワーク」ですね。きらら系でも最初期からの人気連載で、当時はかなりの反響があったと記憶しています。今に通じる強烈なキャラクターによるおバカなギャグ・コメディと、そして同人誌の制作や同人誌即売会を描いたことが特に注目されました。当時から「げんしけん」のようないわゆる「オタク」をネタにしたマンガがいろいろ人気を集めていたのですが、その中でも同人活動というコアな趣味を描いたことが特に評判だったと記憶しています。

 2007年にはアニメ化もされ、きらら系では「ひだまりスケッチ」に続くアニメ化だったのですが、なぜかアニメのBパート(後半)が、実写で声優たちが同人誌を作るという謎の企画となっていて、これはかなり微妙でした。アニメ自体の評価にも響いたようで、普通にアニメ化していればよかったと思います。

 また、アニメ化まで行ったとはいえ、その作風はやはりきらら系列の中ではやや異色で、特に強烈すぎる男性キャラクターによる強烈なギャグは、かなり雰囲気を異にしていました。この作風は、やはりのちのきららには受け継がれなかったようで、今となってはちょっと懐かしいなと感じています。

 そのドージンワーク連載中の2007年、スクエニのガンガンで開かれた4コマ競作企画で掲載された読み切り「マンガワーク」が好評を博し、翌2008年より「マンガ家さんとアシスタントさんと」とタイトルを変えてガンガンとヤングガンガンで連載されることになります。最初のタイトルからも分かる通り、ドージンワークをそのままプロのマンガ家にしたような設定でしたが、アホなマンガ家をサポートするアシスタントや編集者の苦労ぶりが面白く、こちらも人気を博することになりました。これものちにアニメ化され、ショートアニメながらその切れのいいギャグで非常に好評でした。最初の連載は2012年に終了するものの、2014年アニメ化に合わせて「2」のタイトルでしばらく復活連載されました。当時からスクエニが力を入れていた4コママンガの中でも、かなりの長期連載で最大の成功作だったと言えるでしょう。

 さらにその「マンガ家さんとアシスタントさんと」の連載終了後、2012年より今度は講談社週刊少年マガジンで、今話題中の「アホガール」の連載を開始。のちに作者の体調不良とスケジュールの調整で別冊少年マガジンへと移籍するものの、連載自体は堅調でこれも長期連載となっています。これで、「ドージンワーク」「マンガ家さんとアシスタントさんと」「アホガール」と、3つの連載作品が全てアニメ化されていることになります。しかも、芳文社スクエニ講談社と、それぞれ連載先の出版社が違うのもすごい。いずれもおバカなキャラクターが強烈なギャグを繰り広げるという作風は共通していて、ある意味まったく変わってないな・・・とも毎回思ってしまうのですが、しかしその安定した仕事ぶりはやはり素晴らしく、今回のアニメでそれを再確認することになったと思います。

2016-12-15

kenkyukan2016-12-15

浅野りん久々の快作「であいもん」。

 先日、あの浅野りんさんがヤングエースで開始した連載「であいもん」のコミックス1巻が出ました。浅野さんの連載はかなり久々で、しかも今回はマッグガーデンを離れてのKADOKAWAでの連載。これには当初かなり驚きました。かつてのエニックス時代からの読者だった自分としては、今回の新天地での活動はどうなのかなとも思っていたのですが、しかしこれが期待以上によく出来た新作になっていたのです。

 今回もまた、京都在住の浅野さんらしく、京都でそれも和菓子屋を舞台にした作品となっています。ミュージシャンを目指して家を飛び出すも挫折した主人公・和(なごむ)が、10年ぶりに実家の和菓子屋へと帰ってくると、そこには居候の小さな女の子がいた。その少女・一菓(いつか)は、1年ほど前に父親に置いていかれて家に引き取られていたのですが、今では和菓子屋の跡取り候補として日々頑張っており、帰ってきてもいまだふらふらした性格のままの和に強くライバル心を燃やして対抗する・・・といった話になっています。

 30代になってまだいいかげんさの残る言動の和と、まだ10歳の子供なのにしっかりした一菓の関係が面白いです。性格も見た目も正反対の和と一菓、その掛け合いがとてもいい。最初はまったく相手にしなかった一菓ですが、臆面もなく話しかけてくる和に少しずつではあるが心を許していく展開がほほえましい。一菓がまだ子供で街で和菓子がさばけなくて困ってたところを、和がコミックバンド譲りの弾き語りで人を集めて助ける1話は泣けました。いいかげんな性格のままで戻ってきた和だけど、役に立つ時にはちゃんと子供を助けて役に立ってくれる。わたしこういう話にはほんと弱いです(笑)。

 和菓子稼業って厳しい修業が必要な側面もあるし、一菓の境遇も深刻なんですが、しかし和のいいかげんながらもメンタルの強くて明るい性格で、暗くなりすぎずに楽しく読める話になってると思うのです。このあたりのバランス感覚は浅野さんならではというか、ほんと昔からの浅野作品になってて安心しました。

 もうひとつ、肝心のメインテーマである「和菓子」の描写もさりげなく本格的です。和は、実家を出てから10年経っても和菓子への思い入れはそのままで、いまだ子供の頃のように和菓子を見て涙を流す愛情の注ぎぶり。登場する和菓子も、冒頭の桜まんじゅうに始まって、よもぎの薯蕷(じょうよ)まんじゅう、菜の花のきんとん、そしてあの和三盆も登場。和菓子への愛もたっぷりと感じられる一作になっていると思います。

 浅野さんは、かつては90年代のエニックスドラクエ4コマの投稿に始まり、いくつかの読み切りを経た後で、少年ガンガンの「CHOKO・ビースト!」でデビュー。これとその後の「PON!とキマイラ」の連載で大人気を博しました。姉妹誌のWING連載のファンタジーマンガ「パンゲア」も好評だったのですが、2001年にあのエニックスお家騒動が起こり、浅野さんもエニックスを離脱してマッグガーデンへと移籍。そちらでは「天外レトロジカル」「京洛れぎおん」などの連載を手掛けましたが、ここ最近は連載がなく、マッグガーデンでの活動も見られなくなりつつありました。今回の「であいもん」は、マッグガーデンでの最後の連載だった「京洛れぎおん」の終了から約3年ぶりの新連載で、そこでもまったく変わらない作風が見られて安心しました。

 最後にもうひとつ、和菓子のマンガと言えば、すでに「わさんぼん」という名作4コマが存在するのですが、この「であいもん」でもコミックス1巻の後書きで、和菓子屋取材の時に「わさんぼん」作者の佐藤両々先生が同行した話が載っていて、なるほどやっぱり関係があったのかと納得しました。この「であいもん」も浅野さんらしい快作になっていると思いますし、これは楽しみな新作がもうひとつ増えましたね。

2016-12-08

kenkyukan2016-12-08

「ゆめのロワイヤル」でギャンブルの楽しさを体験しよう!(?)

 先日コミックキューンから「つくろぐ。」を紹介したばかりですが、今度は同日にコミックス1巻が発売された「ゆめのロワイヤル」(むらさき*)を紹介したいと思います。「つくろぐ。」は、女子高生の下宿先での楽しいものづくりライフを描いた4コマですが、この「ゆめのロワイヤル」は一転して女子高生ギャンブルを行う異色4コマとなっています。

 ゆめの・かづき・まなの3人の女の子が入学した高校・梶野女学院は、学園で行われるギャンブルで稼いだチップですべてが決まる学園だった。衣食住すべてにおいてチップが必要、進級・卒業にもチップが必要、なくなれば退学という一見とんでもない設定ですが、しかし作品の雰囲気はそんなに悪くありません。基本はほのぼのかわいい4コママンガで、主人公たちも日々生活の必要に迫られながらも、しかしギャンブルや学園生活を存分に楽しんでいる姿も見られる、明るい学園コメディものになっていると思います。

 学園で行われるギャンブルは、チンチロリンブラックジャック麻雀と多種多様なゲーム。まったくの初心者だった3人は、ルールを覚えながらもライバルとなる生徒たちにチャレンジしていくことになります。キャラクターたちの明るい性格もあって、ゲームの様子は基本にぎやかで和気あいあいとしたシーンも見られますが、しかし本気でチップを賭けての対戦はやはりシビア。その一戦一戦の緊張感と、そして3人の仲間が力を合わせて立ち向かっていく熱い信頼感も見られる対戦シーンになっています。

 もうひとつ、「ゲームそのものの楽しさ」が丁寧に描かれているのも魅力だと思います。キャラクターたちが普通の女の子ということもあって、他のギャンブルもののような心理戦や駆け引きの描写はそれほどでもないと思いますが、反面完全なゲームの初心者である彼女たちが、少しずつゲームの楽しさを覚えていく様子が丁寧に描かれているのです。とりわけ面白かったのが、学園の先生がディーラー役となるブラックジャックに挑戦するエピソード。彼女からひとつひとつゲームのルールを丹念に教えられ、楽しくゲームの遊び方をマスターしていく。同時に読者もゲームのルールをひとつひとつ教わることが出来るいいエピソードだったと思います。

 学園でギャンブルと言っても、先行する「賭ケグルイ」のようなひどすぎる人間描写や殺伐とした心理戦の要素はあまりなく、あくまで楽しさに裏打ちされた4コママンガになっているところが、この「ゆめのロワイヤル」のオリジナリティであり最大の魅力かと思います。「明るく楽しいギャンブル4コマ!」としてこの作品を強く推していきたい!

 作者のむらさき*さんは、かつてはまんがタイムファミリーで「ゆーたいプレイ」というヒロインの女の子が幽霊のコメディ4コマを連載していました。しかし、かなり長い連載だったにもかかわらず、結局コミックスが出ず、かなり残念な思いをしたことがあります。ゆえに、今回の「ゆめのロワイヤル」で、待望のコミックスが出たことは本当にうれしい。むらさき*さんの描く女の子はとてもかわいく、今回もそのかわいい絵柄は健在。話が進むと百合っぽい展開にもなったりして、今回はそうした要素も楽しめるのではないかと思います。まさに待望の商業初コミックス。最近のコミックキューンの中でも一押し作品のひとつです。

2016-12-07

kenkyukan2016-12-07

「つくろぐ。」でものづくりの楽しさを再発見しよう!

 このところコミックキューンの新作もまたいい感じなんですが、その中でもまずはこの11月にコミックス1巻が発売された「つくろぐ」(今村朝希)を紹介したいと思います。数ある4コマの中でも、DIY(日曜大工)や庭作りにスポットを当てた作品はちょっと珍しいと思いました。

 肝心の内容ですが、学校の近くの下宿先に引っ越してきた女子高生・華(雪丸華)が、下宿先でふたりの女の子と出会い、そのふたりから日曜大工や料理のテクニックを教わりながら、楽しく毎日の生活を彩って過ごしていく姿を描く「ハンドメイド4コマ」とも言える作品となっています。

 華は、もともと整理整頓が不得意だったこともあって、引っ越しした直後はまだ荷物のダンボールすら片付けられていない殺風景な部屋のまま。しかし、工業高校建築科所属で日曜大工が得意な同居人・創李(つくり)が、そんな彼女にアドバイスしつつ様々な家具や小物、調度品をハンドメイドで作り上げ、最初はむき出しのフローリングだけだった部屋が、かわいい装飾に彩られたセンス溢れる部屋にリフォームされていく。殺風景だった部屋が、ちょっとした工夫で見違えるように華やかになる様子に、思わず引きこまれました。

 さらには、もうひとりの同居人で料理学校に通う菓子(かこ)は、料理が得意な女の子で、こちらもちょっとした工夫で美味しいスイーツを作り上げ、不器用で料理も不得意だった華に少しずつその楽しさを教えていく。「伊○家の食卓」で学んだちょっとしたアイデアも面白く(笑)、なるほど工夫次第でこんなに意外なほど簡単に作れるのかと感心しきりでした。

 さらには、日曜大工や料理は不慣れで不得意でも、主人公の華にも得意分野がありました。農業高校園芸科に通う彼女は、鉢植えの植物を育てたり野菜作りをするのが得意で、荒れていた庭に植物を植えて華やかにするガーデニングに取り組むことになるのです。小物作りに長けた創李のアイデアで、バケツやペイント缶をおしゃれな鉢にデザインする手助けも受けて、寂しかった庭に賑やかに鉢植えが並ぶことになる。3人がそれぞれの得意分野を生かして、生活に彩りを添えて楽しく暮らす工夫に満ちた一作となっています。

 もうひとつ、実際にこのマンガのそうした描写にどれだけ実用性があるか?現実に役に立つか?というのも気になるところですが、ここは「存分に役に立つ!」と言い切ってしまいましょう。少なくとも「伊東家の食卓」と同じくらいには役に立ちます!(笑)。ダンボールを包装紙やマスキングテープで飾るだけでかわいい箱が出来たり、ホットケーキミックス電子レンジだけで簡単にクレープ生地が出来たり、そういう実用的な発見に満ち溢れている。あるいはちょっと本格的に、すのこをばらして工作しておしゃれなテーブルを完成させる話もあります。どれも自分で出来る、やってみたいと思えるものが揃っているのです。

 まさに「ものづくり」の楽しさを再発見する4コマになっています。作中の女の子たちの生活描写が楽しいばかりでなく、現実の自分の生活にもフィードバックしてみようとという意欲までかきたてられる一作。こんな作品が出てくるとは今のコミックキューンはやはりあなどれない!

10年目で再び「ムカンノテイオー」を語ろうか。

 このところ、マスコミの報道姿勢やバラエティの番組内容を巡って、またも物議を醸すような話がいくつか見られますが、ここで再びかつてのヤングガンガンの連載「ムカンノテイオー」を取り上げてみたいと思います。

 「ムカンノテイオー」は、ヤングガンガンで2006年から2008年にかけて連載された作品で、テレビ局の仕事ぶり、というか裏側を描くいわゆる「業界もの」とも言えるマンガでした。しかし、視聴者があまり知ることのないテレビ業界の事実がえらく露骨に描かれていて、非常に興味深い内容になっていたのです。実際のテレビ局の関係者の間でも話題だったらしく、「他の業界ものはウソばっかだけどこれは本物」「ここまでバラされると仕事がやりにくくなる」など、非常に高い評価を得ていたようです。

 作者は、原作がHTロクシス、作画に玉置一平。作画の玉置さんは、以前PSソフトの「クロス探偵物語」のキャラクターデザインの仕事なども手掛けていたようですが、主に青年誌の連載を手掛ける事が多く、この作品も青年誌的なスタンダードな作風ながら、随所で時に迫力を感じる安定した作画となっています。

 そして原作のHTロクシスなる人物、これがどうも元テレビ局の関係者だった人物らしく、それもテレビ朝日で仕事をしていたようで、この作品の舞台も「六本木テレビ」という架空のテレビ局となっています。このマンガに見られる緻密なリアリティは、この原作者の力によるところが大きいと思われます。

 ストーリーは、ちょっとしたきっかけから、テレビの制作プロダクションでADとして働くことになった元暴走族の少年・藤田平蔵が、意外なテレビ局の内情に触れて時に戸惑い時に怒りを覚えつつ、しかしそれでも真剣な意志を持って働き続けるというもの。この主人公の平蔵こそが、まさに我々視聴者の代弁者ともなっており、業界については素人だった彼の視点を通して、テレビ局の内実を知るという構成になっています。

 テレビ局内部の制作ルームや生放送の行われるスタジオ、騒乱極まる事故現場の様子など、そうしたひとつひとつの場面にもリアリティがありますが、本当に面白いのは、やはり「テレビ局の仕事の裏側、その負の部分を徹底的に描いている」点に尽きると言えるでしょう。冒頭では暴走族を取材するシーンでいきなりプロデューサーが平然とやらせを敢行しようとしますし(笑)、作中のテレビスタッフの吐くセリフも、そうしたやり方を肯定するようなものが多い。旅番組の取材においても、週刊誌の記事を元に取材しようとする仕事ぶりを見て文句を言う平蔵に対して、「は? テレビの情報番組が全部独自取材で情報を得ているとでも思ってるのか。週刊誌のネタをパクるのは当たり前だろ」など当然のように話すところを見て、思わず笑ってしまいました。

 さらに興味深いのは、毎回の連載で最後のページで掲載されたコラムです。これが、平蔵と中川プロデューサーの対談という形で書かれていて、本編の補完という形でさらに内実に触れる内容になっていて、さらにテレビ局を深く知ることが出来ました。例えば、捏造ややらせを最終的に行うことになる具体的な経緯やその是非、「女子アナはどうやって選ばれるのか」といったテレビ局の実情、果ては「未成年の犯罪者の実名報道の是非をテレビ局自身はどう考えているのか」といった真面目な話までひどく突っ込んで書かれていました。先ほどの情報番組のネタを週刊誌から得ているという話でも、「そんなことをして週刊誌から怒られないのか」という平蔵の質問に対して、「週刊誌からクレームが来ることは滅多にない。ただ一度、雑誌の発売前にフライングで番組を流してしまって、その時だけはすごい勢いで怒られた」とか、具体的過ぎる返答が出てきてここでも笑ってしまいました。

 こうしたマンガの内容を見て、確かにテレビのこうした姿勢に怒りを覚えることもあったのですが、しかし同時にそうした仕事をせざるを得ない内実もしっかりと描かれており、納得できる内容にもなっていました。「ムカンノテイオー」というタイトルも、権力の監視を行うというマスコミの役割を示した「無冠の帝王」から来ており、最後にはそれを追って危険な取材にも踏み込むひどくシリアスなエピソードも見られます。正直、このマンガを読んで、それまでのテレビに対する見方が相当変わりました。ネットで見られるマスコミ批判に影響される前に、一度この作品に目を通してみると面白いと思います。