《......お金を! 少しお金を!》 ヴィリエ・ド・リラダンに、『ヴィルジニーとポール』と云ふ小品がある。サン・ピエールの『ポールとヴィルジニー』をさかしまにした名で、近代功利の腐敗が少年少女のあどけない牧歌にさへ浸透してゐる事を諷刺した作品。小品を充たす月明りに似た甘美な抒情は、上記救ひやうの無い主題と対照を為し、これが諷刺の度合いを彌増してゐる。 扨て、ヴィリエの諷刺は一旦置かう。『ポールとヴィルジニー』はじめ、少年少女の無垢なる恋と云ふ主題を持つ諸々の芸術作品に対し、インスピレーションを与へ続けてゐるギリシア古典がある。『ダフニスとクロエー』だ。 エーゲ海を望むレスボス島。幼い二人の恋…