2025年7月16日(水・雨) 生前に発行された書物が次第に忘れ去られてしまふことは特に珍しい現象ではない。新聞や雑誌ほど短いといふわけではないので、書物の〝寿命〟が確かに長いのだが、読まれなければ書物は記憶から消えることは不自然ではない。太宰治の書物の多く同様の運命になつてしまつてゐるのである。以前に、本研究では『愛と美について』や『思ひ出』、さらに養徳社板『晩年』などを取り上げ、物質的な媒体なる書物の意味を論考したことがある(小田桐、2018・2021・2022など)その中では、作品集の瓦解や序跋文の道程、ジャンルの変化、パッケージの更新などを論考した。特に重視したのは、例へば『愛と美につ…