28から30歳くらいの元教師・西村がいる。彼は結婚し子供もいるが、この5年間熱中していたのは、父母らが入居していた長屋の住人36人の伝記を書くこと。出生も仕事も年齢も共通していない36人であるが、共通しているのは1945年8月6日8時15分に広島で死亡したこと。すでに1960年代には被爆者の手記が盛んに書かれていたが(占領が終わってGHQの検閲がなくなったことと、ビキニ環礁で日本漁船が被ばくした。原水爆禁止運動が起こり、その影響があった)、西村はそのままでは消えてしまう記憶を言葉に残すことがとてつもなく重大な仕事であると思えた。しかしあまりの熱中を妻子は理解せず、元からの他人嫌いや無関心のせい…