神保町の田村書店といえば日欧の近・現代文学を領域とする古書、古本の老舗だ。日本の詩集の稀覯本がびっしりと棚に詰め込まれ、その背表紙を眺めているだけでも楽しい。 学生時代はおどおどしながら店に入り、恐る恐る本を抜き出しその値段にも戦慄したものだ。ぱらぱらっと頁を捲れば粉々になりそうな堀口大学の薄っぺらな初版詩集が40,000円などと鉛筆書きされている。単なる読書家や学生などは相手ではないのだ。中古品を安く手に入れようという算段の者入るべからず、そんな古書店なのだ。 同じ学部の友人と連れ立ってこの古書店に入ったことがあった。マラルメやらボードレール、ロートレアモン等々の翻訳本を友人が次々と引っ張り…