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鴆酒

(読書)
ちんしゅ

古代中国にいた「鴆」〔チン〕という鳥の羽をひたした酒。猛毒だったらしく、古い文献には多く登場する。「鴆毒」ともいう。また異体字に「酖」があり、「酖毒」とも書くし、「酖殺」ともいう。が、また一方、「冘」の異体字には「尤」や「允」のほか「穴」も考えられる故、「穴倉に棲む鳥」;「鴪隼」(=はやぶさ)が考えられる。
南方熊楠はアルフレッド・ラッセル・ウォーレスの動物分布の境界線;「ウォーレス線」にも通じており、明治四十二年に地元の新聞に寄稿した「鶏の話」には、

鸚哥〔インコ〕、魚狗(=翡翠=カワセミ)など、
穴に棲む鳥が雌雄均しく美色なるに反し、
全て有距鳥は(中略)鷹隼の族に
見付かり難きように汚くなった

と記しているが。
あるいは、「牙」とすれば「鴉」であるため、これはエドガー・アラン・ポオでお馴染みの「オオガラス」である。とするなら「汚穢」だったり「不吉」なムードいっぱいのこの鳥には、そんなような毒くらい備わっていてもよさそうである。または「沈」や「耽」を引っ張る言葉であろうか? → それならそれで、「酖々」とは「酒に酔って娯しむさま」を指すので、これもアリかな、とも思える。
……と、実例のない、あくまでも文献の上での内容なので、空想たくましくしていたら、何と近年、同類の毒鳥が見つかったらしい。ニューギニアの森の中に棲む「ズグロモリモズ」という種類。脂溶性の、ステロイド系のアルカロイド神経毒;「ホモバトラコトキシン」を有する。が、その羽毛には僅か2〜3μgしか含まれず、これでは小さなネズミ1匹を殺すのがせいぜいのため、人間の致死量には遠く及ばず、あるいは意識朦朧となり、筋肉の痙攣に喜ぶ、幻覚剤としての使用が考えられる。
日本にも「フグの鰭酒」があるではないか。勿論、フグのヒレ酒は、岩魚の骨酒と同じく、酒の化学物勢を消して、味をまろやかにするのが主目的である。し、また、マムシや青梅に見られる如く、酒は毒気を消して珍味に変える習性がある。『国語』・『韓非子』・『史記』・『説文』・『爾雅』・『漢書』・『後漢書』・『晋書』・『神農本草経』・『名医別録』・『本草集注』といった錚々たる文書を見る限り、あくまでも劇薬あつかいなので、美酒に酔って酩酊状態の所を襲った訳ではないとは知れるものの、絶滅危惧種はどんどん亡くなり、画像データすら碌すっぽ無いので、邪推であれこれ考えてみる他はない。
・以下のサイトに詳しい。
http://www.drugsinfo.jp/contents/data/ta/dati1.html
・以下のサイトにニューギニアで発見された「ズグロモリモズ」の写真あり。
http://www.hum.ibaraki.ac.jp/mayanagi/paper04/shiryoukan/me059.html

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