恋が浮世か浮世が恋か、とうっすら流れる地歌が、じわっと100席の洒落た円形劇場の空間を変える。玉三郎が、うちの狭いリビングに来たみたいに近い。肩が黒(いい黒!)で、下のほうが薄い藤色になっている着物は、「こぼれ松葉に梅」の裾模様だ。清長の浮世絵の人みたいやん。絹物の重みが肩にかかり、その肩の線がきれい。「羽織を着ている」と本人が言わないとわからないくらい身に添うている。緋毛氈の上で口上を述べる。今日は紫帽子の女形(おんながた)の普段のかたちです、と玉三郎が説明する。「かつらおけ」という塗りの丸い腰掛に座った玉三郎、着物(うちかけ)を見せるために小さな舞台を周る玉三郎は、また一段と観客に近い。家…