木走日記

場末の時事評論

少女の運命は立証されたのか(追記) 2005.03.26

 RXFD3S様が当エントリーのリレーエントリーを書いて下さいました。

『日々徒然 続・遺骨問題』
http://blog.so-net.ne.jp/hibiture/2005-03-26

 RXFD3S様のエントリー内容がたいへん興味深いこと、この問題の重要性を考え、追記エントリーさせていただきます。

 内容が重複しても申し訳ないので基本的には『日々徒然 続・遺骨問題』の読んでいただくとして、ここではそれを読んだ私の感想・意見を中心にまとめようと思います。

まず、「疑問点1:同時に鑑定の依頼を受けた科学警察研究所ではDNA検出ができなかったのに、帝京大学では「結果」を得たということ」に関しては以下のように指摘されています。

まず、この部分では読み手をミスリードしています。

日本政府が全国の警察機関からこれまで数多くの遺骨を依頼され、世界最新設備を持って鑑定を行ってきた歴史と経験のある科学警察研究所

法医学のための設備として世界的な環境にあるはずの科学警察研究所が検出できなかったこと

という修辞は、まず科学警察研究所の権威を必要以上に持ち上げることで帝京大学における鑑定の信憑性を貶めるために使われています。
例えて言えば、オリンピック選手にできないことが小学生にできるはずがないというような感じです。
さらに、

委託した2つの研究機関の結論が一致した時それを採用すべき

ひとつの対象を置いて2つの研究機関が分析した鑑定結果が相反する場合、それに対する評価においてどちらか一方のものだけを絶対視するなら、それは科学性と客観的妥当性が欠如したものだと言うべき

という部分にも誤謬があります。これは、前掲の木走さんの記事のコメント欄でpontakaさんが指摘されておりますが、この2つの機関では同じ試験をしていません。つまり鑑定する目的は同じでもそのための手法は異なったのです。

彼の国の主張及び週刊金曜日の主張が正になるには、
2つの機関による分析方法をそれぞれMAとMBとし、その結果をそれぞれRA、RBとしたときに、

MA=MB かつ RA≠RB 

でなければなりません。ところが実際には、

MA≠MB で RA≠RB 

だったわけですから、彼らの言うところは全く論理的に正しくないということになります。

 この点に関して、現時点での木走の判断とほぼ一致しており異議ありません。

 次に「疑問点2:遺骨鑑定のための分析方法」に関しては以下のように指摘されています。

私はDNAの分析については専門外ですので、それは措くとして彼の国が盛んに言及している温度について述べたいと思います。
北朝鮮による火葬の習慣については、木走さんのエントリ内でくまりんさんが書かれているように、日本から火葬技術が輸出されたようです。

宗教的な背景から習慣として、火葬を行うのであれば、「骨上げ」も行っていると考えるのが自然であると思います。

となれば、1200℃という温度が問題になります。
国内での火葬の温度(炉内の雰囲気温度)は600〜800℃が一般的です。
というのも、

それ以上の高温では骨の形状を維持できず「骨上げ」に支障がでる

骨に含まれるカルシウム(融点840℃)が溶融する可能性がある

からです。
ダイオキシンが社会問題となりましたが、それでも炉内温度は850℃以上での管理となっており、火葬という習慣から見れば1200℃が如何に高温であるかが分かるかと思います。

火葬技術が輸出されたということは、当然そういう機器の取り扱いも輸出されたことになります。国内において、1200℃にすることがないということは、ハード的にそういう温度で恒常的に使用することはできないと言ってもいいと思います。

さて、アエラの記事の最後の部分ですが、分析の手法の検証をすることなく(少なくともこの部分を見る限りでは)、焼き方云々というのは、非常に主観的な表現でしかなく、科学的知見を持って書かれたとは到底思えないものだと言えます。

 興味深い説得力のあるテキストだと思いました。そもそも、1200℃という温度で焼かれたのかどうか疑問である、という点ですが確かにこれは大きな論点です。

 仮定になりますが、

 1.そもそも1200℃では焼かれていなかった場合。
   DNAが壊れないで検出できる可能性が出てくるわけです。  

 さらに少し想像力を要しますがこんな可能性も仮定できます。

 2.北朝鮮では1200℃では一般的には焼かれないが、当該遺骨だけは、1200℃で焼かれていた場合。

 この2のケースを証明することは至難でしょうが、もし証明できたならば、何故、当該遺骨だけ念入りに高温で焼かれたのかという深刻な疑問が生じますし、当初から北朝鮮側が1200℃という燃焼温度にこだわった説明を繰り返してきたこととあわせて考えると、いろいろ議論を呼びそうです。

 まあ、現在私達が入手している情報だけでは無責任な憶測は避けるべきでしょう。

 さて、結語としてこうまとめられています。

政府が遺骨についてめぐみさんのものではないと断じたことは、残念ながら科学的な見地から言えば、拙速かつ軽率だったと言わざるを得ません。
もちろん、過去の北朝鮮の態度を見れば遺骨は別人のものであろうと思います。

一方、それに対する北朝鮮の反論及びそれを誘発するような朝日新聞系列の雑誌の主張は、上記を見るだけでも科学的論拠に乏しい単なる言いがかりに過ぎません。そこには経済制裁をなんとしても回避しよう、拉致問題を有耶無耶のままにしようとという姑息な意図がありありと透けて見えます。

こういう主張を封じるためにも、政府の見解に関する誤りはしっかりした論拠を構築した上で速やかに訂正すべきであると思います。

 私の考えもほぼ同様です。「政府の見解に関する誤りはしっかりした論拠を構築した上で速やかに訂正すべきである」と同時に、上記した私の素人推論も含めて可能な限りの再試験、再検査を実施していただきたいと思います。

 RXFD3S様、本当にご苦労さまでした。そして、ありがとうございました。

このように一般人である私達が真剣に知恵を出し合いながら科学的問題を考察できるのもブログのすばらしさであり、おもしろさでもあると再認識させていただきました。

<関連テキスト>
●少女の運命は立証されたのか
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050321
拉致被害者 少女の運命は立証されたのか
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050401