「たれの帰還」その25

変装し、オークの大軍の中を抜けて滅びの山を目指そうと決意した "ふろたれ" 一行。しかし、隠れ場所を出た彼らが見たのは、一斉に進軍を開始したオークたちの姿でした。彼らの向かう先にはモルドールの黒門が。そして黒門の向こうには ……

 

ぎむたれ (Rたれ)「もちろん、おりたちが今や遅しと待ち受けているのでしよ!」(仁王立ちでえっへん)

レゴラス「おお、燃えてるね、"ぎむたれ" は」

ぎむたれ「当然でし!オークどもに目にもの見せてやるでし!」(えっへんえっへん)

レゴラス「具体的に何を見せるんだい?」

ぎむたれ「そりゃもう、決めポーズとか決めポーズとか決めポーズとかでし!」(びしっ)

アラゴルン「それ限定かっ!て言うか、当然のように人の頭に乗って会話をするなっ!」

ぎむたれ「えー、だって、ヒーローは高いところから現れるのが常識でしから。とりあえず手近で一番高い、アラゴルンの頭に登ったのでし〜」(得意げ)

アラゴルン「俺は踏み台か!だいたいお前は我々が何をしにここへ来たか、わかってるのか?」

ぎむたれ「そりはもちろん、『ぎむたれヒーローショー in 黒門』の上演でしよ。サブタイトルは赤色最強伝説』でし」(きっぱり)

アラゴルン「…… 訊いた俺が馬鹿だった」(頭痛)

レゴラス「まあ、"ぎむたれ" がアラゴルンの上でポーズを決めまくれば、とりあえず目立つからね。陽動という目的のためには都合が良いんじゃないかな」

アラゴルン「…… どうやったら、そういう前向きなとらえ方ができるんだろうなぁ」(溜息)

レゴラス「慣れの問題だと思うよ」

アラゴルン「はあぁ……」

 

などと、毎度お馴染みの噛み合わない会話を繰り広げるアラゴルンたち。その周囲には、ガンダルフ、サル子 (サルマン)、グレ子 (ヘビの舌グリマ)、"めりたれ"、"ぴぴたれ" といった仲間たちがいます。そして彼らの背後には、ミナス=ティリス攻防戦を生き抜いたローハンとゴンドールの兵士たちが、整然と並んでいました。

 

サル子「士気はそれなりに高いが、いかんせん数が違いすぎるな」

ガンダルフ「これで精一杯なのだ。仕方あるまい」

サル子「亡霊どもはどこかへ消えてしまったし、"えおたれ" 姫のリーサル兵糧丸も弾切れだ。やはり "ぴぴたれ" に酒を飲ませて暴れさせた方が良いのではないか?」

ガンダルフ「敵味方かまわずに全滅させるつもりか?」

サル子「ぬう ……」

ガンダルフ「何、要は "ふろたれ" たちが滅びの山で指輪を捨てるまで持ちこたえれば良いのだ。何とかなるだろうさ」

サル子「楽観的だな」

ガンダルフ「そうとも。これまでもそうやって切り抜けてきたのでな。それに ……」

サル子「それに?」

ガンダルフ「根性曲がりだが腕の立つ魔法使いもいるしな」(ニヤリ)

サル子「…… ふん」(そっぽ向き)

 

ぴぴたれ (Pたれ)「なんか、爺ちゃんたちは楽しそうにお話してるれしねぇ」

めりたれ (Hたれ)「何だかんだ言って仲が良いんでしなぁ」

ぴぴたれ 「あれで、乱暴で喧嘩っ早いとこさえ治れば、良い爺ちゃんなのれしが」

めりたれ 「…… (あえて突っ込まない) …… みゅ?」

ぴぴたれ 「どうしたのれしか?」

めりたれ 「黒門が …… 動いてはりまっせでし」

 

"めりたれ" の言葉を聞いて、全員の目が黒門に集中しました。確かに、巨大な暗黒の門が、ゆっくりと開いていきます。見つめるアラゴルンたちの表情が厳しく引き締まり、無意識の内に各々の手が武器にかかりました。まさに臨戦態勢です。まあ、"ぎむたれ" のソレは「臨決めポーズ態勢」とでも言うべきものでしたが。

 

ぎむたれ「決めポーズには『タメ』が必要でしからね。ふおぉぉぉぉでし!」(ふるふる)

 

いや、それはさておき、全員がオークの大軍の登場を予想して待ち受けていたわけです。ところが、門は数人が並んで通れる程度まで開くと、そこでピタリと動きを止めてしまいました。怪訝そうな表情で見つめるアラゴルンたち。するとそこから、馬に乗った何者かがゆっくりと歩み出てきました。

 

アラゴルン「あれは …… ?」

 

それは、ひどく奇妙な兜をかぶっていました。頭部と顔面の大半を覆った兜には、覗き穴の類が一切なく、わずかに口のある辺りが開いているのみです。それは、兜と言うよりは拘束具でした。さらに奇妙だったのは、彼 (?) のシルエットでした。不気味な兜に似合わず、その体は全体的にむっちりもっちりとしており、じっと見ていると脱力しそうなオーラを放っていました。

アラゴルンたちの視線を意にも介さず、それは無言のまま馬でゆっくりと歩み寄り …… そしてそのまま通り過ぎていきました。心なしか、その動きはフラフラとしており、方向が定まらない感じがしました。

 

アラゴルン「おい、どこへ行く!て言うか、何者だお前は!」

 

呆気にとられていたアラゴルンの誰何を聞いて、それの動きがピタリと止まりました。そしてそれはこう言いました。

 

「みゅ?通り過ぎてしまったでしか」

アラゴルン「は?」

「んと、声がしたのは、だいたいこっちの方でしね」(ぐるりん)

アラゴルン「いや、それじゃずれてるから。こっち向いてないから」

「みゅう、なかなか難しいでし。微調整っと」(くりっ)

アラゴルン「んむ、それでほぼ正面だが …… まさか、その兜は ……」

「あい、全然前が見えないのでし」(あっさり)

アラゴルン「ああやっぱり …… って、何でわざわざ、そんな馬鹿げたものを?」

「これは制服みたいなものでしから。お仕事なんでしょうがないのでしよ」

アラゴルン「制服って …… 訳がわからんな。て言うか、さっきも訊いたが、お前は何者だ?」

「あ、これは申し遅れましたでし。『さうたれの口』こと、"いちろくたれ" と申す者でし。よろしくでし」(ぺこ)

 

そう、むっちりもっちりしてるのも道理、馬上にぽてっと跨っているのは、"さうたれ" 軍きっての働き者、"いちろくたれ" だったのでした …… って、あれ?相棒の "まんたれ" はいないの?

 

いちろくたれ「"まんたれ" ちゃんは、別の仕事で山の方へ行ってるのでしよ」

作 者「おろ、別行動か。ひとたれで行動させて、大丈夫なのか?」

いちろくたれ「んみゅ、"いちろく" もちょっと心配なのでし。『まかせるでし!』と自信満々だったんで余計に」

作 者「あーねー」

アラゴルン「って、何をのんきに作者と会話してるんだお前は」

いちろくたれ「みゅ、これは失礼したでし。では、もっと近くでお話を」(ぱかぱか)

アラゴルン「いや、だから、また明後日の方向へ行ってるから」

いちろくたれあやや、仕方ないでしねぇ。では、あんまり使いたくなかったでしけど、ナビゲーションシステムを使うでし」

アラゴルン「なびげいしょん …… 何?」

いちろくたれ「おいでませ、ちびたれズ〜」

ちびたれズ「みゅうみゅうみゅうみゅう」(わらわらわらわら)

ぎむたれ「あ、何かちっちゃいのがいっぱい出てきたでし」

レゴラス「なかなか可愛らしいねぇ」

アラゴルン「って、和んでどうする」

いちろくたれ「それじゃ、そこのツッコミ担当な人のところへ案内するでし」

アラゴルン「誰がツッコミ担当だ、誰が」

いちろくたれ「頼んだでし、ちびたれズ」

ちびたれ A「んと …… みぎ」

ちびたれ B「おちゃわんもつほう」

ちびたれ C「ななめうえ」

ちびたれ D「おなかへった

いちろくたれ「ああ、やっぱり役に立たないでし」(諦観)

アラゴルン「わかってるなら使うな!ええいもう、俺がそこへ行けば良いんだろう、俺が!」(ずかずか)

いちろくたれ「これはご丁寧に、感謝しますでし」(明後日の方向へぺっこり)

アラゴルン「いいから、さっさと用件を言え!」

いちろくたれ「あい、それでは、我が主 "さうたれ" 様のお言葉を伝えるでし」

 

"いちろく" の言葉を聞いて、アラゴルンたちの顔が緊張にこわばりました。ざわめいていた兵士たちも口を閉ざし、固唾を飲んで耳をそばだてました。空気がピンと張りつめる中、全員の視線を浴びながら、"いちろく" はゆっくりと語り始めました。

 

いちろくたれ「んーと ……でばんすくない』

アラゴルン「は?」

いちろくたれ「それから ……『たいくつ』『あきた』『おうちかえる』などなどでし」

アラゴルン「いや、『などなどでし』って言われても、さっぱり訳がわからんのだが」

レゴラス「ひょっとして、それは ……」

いちろくたれ「あい、『さうたれのグチというオチなのでし」

ぎむたれ「なるほどでし〜」

アラゴルン「納得するなっ!」

いちろくたれ「では、言うべきことは言ったので、帰るでし」(ぺこり)

アラゴルン「って、用はそれだけかい!」

いちろくたれ「後はよろしくでし、オークの皆さん〜」

アラゴルン「何っ !?」

 

慌てて振り向いたアラゴルンの目が、驚きに見開かれました。いつの間にか黒門は完全に開いており、圧倒的な数のオークたちが、こちらに向かって進軍を始めていたからです。

 

アラゴルン「くっ!これが狙いだったのか!」

レゴラス「いや、そこまで考えてなかったんじゃないかなー」

いちろくたれ「えーと、どっちに帰れば良いでしかねぇ?」(ぐるぐる)

アラゴルン「って、まだいたんかい!」

ぎむたれ「どうでも良いでしよ。どっちにしろこうなるんでしから」

アラゴルン「…… 確かにな。よし!全軍戦闘態勢!怯むなよ!」

ぎむたれ「いよいよ決戦でし!」

 

かくして、アラゴルンたちの最後の戦いが、今まさに始まろうとしています。果たして彼らの運命や如何に。そして、最後の希望である "ふろたれ" たちは無事に指輪を葬ることができるのでしょうか?

 

ぎむたれ「次回はおりが大活躍でし!最初からクライマックスでしよ〜!」

 

うーん …… それはどうかなー?

 

 


[続 く]