Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『極道大戦争』(三池崇史)

 1人撮影所のごとき異常なペースで量産を続ける三池崇史監督の新作『極道大戦争』。6月末に千葉県某所のシネコンで見たんですが、完璧に貸し切りでしたよ!ちなみに貸し切り鑑賞は二度目のことで、最初は仙台市の某シネコンで見た『フェイクシティ ある男のルール』(脚本ジェイムズ・エルロイ、主演キアヌ・リーヴス)でした。それはさておき。


 ホラーとアクションの融合といえば、ジョン・カーペンターを思い出します。カーペンターの『ヴァンパイア/最期の聖戦』は「ホラー+西部劇」の組み合わせで痛快な活劇となっていました。ヤクザ・ヴァンパイアと対抗勢力の抗争を描く本作は「ホラー+ヤクザ映画」という組み合わせですが、三池監督の嗜好を反映してかストレートな活劇ではなくて非常にマイナーな作風の映画に仕上がっていました。三池作品で言うならば、やはり「ホラー+ヤクザ映画」の組み合わせで見せた異色作『牛頭』(2003年)に近いタッチです。小料理屋の地下にヴァンパイアの「餌」が飼われている場面など笑っていいのか怖がっていいのかわからん描写の連続は『牛頭』と一緒です。


 そもそもこのお話は、劇中の展開を見ても分かる通り、「ヤクザはカタギの血を吸って生きている」というミもフタもないところから発想されたものでしょう。しかもヤクザ・ヴァンパイアに噛まれるとヤクザになってしまうという突拍子も無い設定なので、しまいには町中が皆ヤクザになってしまい、「血を吸う」相手がいなくなってしまいます。気がふれた若頭(男装の高島礼子)がビニールハウスでカタギを育てようとする場面には笑いました。


 敵組織が放った刺客「カエルくん」が登場する中盤以降、お話はさらに混迷を極め、最後はまさかのカタストロフが待っています。意味不明と貶すのは簡単ですが、本作には何とも捨てがたい魅力があると思います。『ザ・レイド』からヤヤン・ルヒアンを召還して繰り広げるアクションの本気度、伝説のヤクザ・ヴァンパイア役のリリー・フランキーら俳優陣の怪演も大きな見所です。監督本人「原点回帰」と発言しているように、三池監督がのびのび楽しんで撮っているのが伝わってくるようです。ヴァンパイアといいながら、太陽の光もニンニクも十字架も全然関係ないという雑さ加減が実に三池監督らしい。個人的には、ヒロインの成海璃子がラストで鳴らす決闘開始の銅鑼、あの見事な呼吸だけでもこの映画は見る価値あると思いますね。


(『極道大戦争』Yakuza Apocalypse 監督/三池崇史 脚本/山口義高 撮影/神田創 音楽/遠藤浩二 出演/市原隼人成海璃子、ヤヤン・ルヒアン、リリー・フランキー、でんでん、高島礼子、青柳翔、渋川清彦 2015年 115分 日本)





 ちなみに、「ホラー+ヤクザ映画」といえば、三池監督の偉大な先達とも言える石井輝男監督の『怪談昇り竜』(1970年)があります。木村威夫美術による異様なムードのセット、背中の彫り物が並ぶと竜が現れるといったケレン味たっぷりの見せ場が印象的です。主演は梶芽衣子


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 「ホラー+ヤクザ映画」といえばもう1本。『実録外伝・ゾンビ極道』(2001年)。『発狂する唇』の佐々木浩久監督によるVシネマです。冒頭で墓場が映り、墓石には「仁義」の文字が・・・。深作の『仁義の墓場』への変則的オマージュであり、東映の実録やくざ映画のパロディになっていました(アナウンサー調の淡々としたナレーションまで再現するのだ)。主演は小沢仁志。