「吉永さん家のガーゴイル 6」 田口仙年堂 (ファミ通文庫)

新入生勧誘を兼ねた演劇部の舞台に、和己の拾った台本がかけられることになった。なぜか和己もそれに出演することに。
ところが、演劇部に脅迫状が届けられる。
レ・ミゼラブル」を基調としたその台本は、8年前に起きた生徒の墜死事件を告発したものだというのだ…。

今回は和己くんの主役話で演劇部を扱ったエピソードでかつ青春ミステリーな風味も備えた傑作。
たぶん、これまでのシリーズ中で最高の出来。
舞台に向けて熱を上げる演劇部の面々。彼らを見守り、近づこうとして、時に叱咤激励をする和己くん。うむ、良い良い。
作者さんがもともと演劇な人なのもあってか、そのへん凄く楽しそうに描かれてるのが素晴らしい。
そして、過去の悲しい出来事の真相とそれに関わった人たちの心の傷を語り、そのすべてを温かく包みこんでくれる展開。
だー、ツボをつくのが上手すぎるぞ! 田口仙年堂。「今度は…」の台詞でわしマジ泣きだ。
今の楽しい雰囲気と悲しい過去とを綺麗に1つの物語にまとめあげ、最後はあくまで爽やかに幕を閉じる。感動作といってもいい。
ほんと良シリーズだなあ。

それにしても、これでシリーズ6冊中3冊で泣かされちゃったよう。撃破率50%って一体なんですか。もう。

「星の大地 1」 冴木忍 (角川スニーカー文庫)

侍女のアゼルはお使いに行った帰りに突然、王女サウラが自害してしまったと聞かされる。
秘術によって生き返ったお姫様は以前とはまったく別人のようになっていて…。
一方、長く続く戦争に民は疲れ、街には破滅を予言する者が現れはじめていた。

初版は93年。十代の頃は好きで読んでたけど最近はあまり読んでないという作家その2*1冴木忍の作品。
まあ、去年「道士リジィオ」を再読したので、そんなに久しぶりというわけでもない。

全3巻で完結という予定のためか、序盤から展開が早いこと。
アゼルとサウラのヒロイン2名のキャラをざっくり立てつつ、盗賊団とやりあって宮中陰謀劇に突入。
特にこれといった読み所はないものの、テンポだけはめちゃ良いので、さくさく読めたざます。
お姫様が本当に別人に入れ替わってるんじゃないかとか、****もホントに死んだのかなあ等々、つい邪推して読んでしまうあたり、ミステリ者の悪い癖。

*1:その1は水野良

「風の歌、星の口笛」 村崎友 (角川書店)

サイバーシティに生きる私立探偵は機械のペットの死の謎を追いかけていた。
科学者は宇宙船に乗り、地球から遠く離れた…人類第二の惑星を調査に向かっていた。
若い男は病院から退院したとき、彼を迎えてくれるはずの恋人が存在しなくなっていたことを知る。
第24回横溝正史ミステリ大賞・大賞受賞作。

SF仕立ての未来世界を舞台にしたお話。SFミステリと言えなくもない…かもしれないという微妙な線。
一応は、”滅びた星と残された死体の謎”というのがあって、その解答はミステリ者的に”お!”と思う部分もあるんだけど、
お話の眼目が全然そこに向いてなくて、全体の中では添え物程度にしかなってない。
折角の奇天烈な大トリックなのに勿体無いなあ。
まあ、宇宙規模ミステリの大傑作「星を継ぐもの」の何分の一かくらいのインパクトならあるかなあ。
ストーリーに関しては、3つともいまいち趣味に合わず。途中何度寝そうになったことか。
トッドとビビのラブストーリー展開なんてものがあったらまた違ったかもしれない。なーんて。

「タック&タカチの事件簿 16秒間の密室」 大橋薫(原作:西澤保彦) (サスペリア MYSTERY COMICS)

原作:西澤保彦の”タック&タカチ”シリーズのコミック化。出典は「解体諸因」「謎亭論処」より。全5話収録。

キャラクタがかなりアレンジされていて、特にタカチは原作とはほとんど別人。普通のギャル系女子大生にしか見えん。
タックも前半のおっとり具合は雰囲気出てて良いのに、後半ではすっかりキャラ変わって推理大好き少年になってやんの。
あとは、教育実習生なボンちゃんがかわええ〜とか、ウサコのロリ美少女っぷりはなんなのさーとかとかツッコミ処満載。
そんなわけで、原作とは見た目のイメージがかなり違うものの、わたしはそのギャップを楽しみながら読めたので特に文句無しでした。
大橋薫さんの絵柄が嫌いじゃないってのもあるけど。
それに、メインの4人がコミカルにアレンジされ雰囲気がやたら明るくなった分、
事件の謎に隠された人の悪意が暴かれたときとの落差がえらいことになってるという効果もあって、これはこれで良いと思った。
原作で内容知ってるくせに、「見知らぬ督促状の問題」なんか読んでて怖気が走りましたもん。
ミステリ部分のテイストは損なわれてなくて、そのへんは納得の出来ばえ。面白かった。