「トリックスターズ」 久住四季 (電撃文庫)

城翠大学・魔学部は日本唯一の魔学の研究・教育機関である。
魔学部の新入生である天乃原周は、世界で6人しかいない魔術師・佐杏冴奈と出会い、
魔術師の殺人ゲームに巻き込まれることに…。
これは推理小説を模った、現代の魔術師の物語。

”電撃が贈る新人ミステリー”と銘打たれたこの作品。
期待3割に警戒7割で手に取り、
”魔術師の挑戦状”と題された七つの欺計が仕掛けられているという宣言に期待値を少し高めて読み始めました。
うん、これは面白い。
事件の謎に加え作中にいろんな謎が仕掛けられてあり、最終的にそれらが解き明かされていくという小説構成は確かにミステリ的ではある。
読みやすいし、キャラはたってるし、魔術の存在する現代ファンタジーの物語でもあるので、ライトノベルとしての面白さもなかなかのもの。
いやー、ようやく電撃でも富士見ミステリー文庫並にはミステリーな作品が出たなあ、と感慨深い。
っていうか、こんなん出されたら富士ミスの存在意義があぁぁぁ…。

謎とトリックの量、伏線の妙味、物語の志向などはライトノベル・ミステリとしては及第点をあげられる出来。
とはいえ、魔術で出来ることとその限界が明確にされていないこと、
被害者の痛覚や病院の治療がどうなっていたのか(それも魔術で何とか出来たのか?)の説明がまったくされていない等、
ミステリとしての問題点もいくつか有って、諸手をあげて絶賛とはいかないのが惜しい。
キャラクタに関しては佐杏先生の存在感が素晴らしかった。
ゴスロリ美少女でミステリマニアというキャラもいたりするので、ミステリ路線でシリーズが続くなら今後に期待。

「子供たち怒る怒る怒る」 佐藤友哉 (新潮社)

連続猟奇殺人犯・牛男の犯行を当てるゲームに興じる小学生たちを描いた表題作の中編を含む、著者初の短編集。

「死体と、」に関してはアイディアは面白いと思ったものの、放り投げラストにポカーン。
「慾望」はゴミ屑以下(断言、フォローなし)。
ここまで読んで、やっぱり佐藤友哉の書くものとわたしが面白がれる小説の間には底無しの深い溝が横たわっているんだなあと嘆息していたら、
この後に収録された表題作と書き下ろしの2つでなんとか挽回してくれた。
まあ、後半も相変わらず酷い話ばっかりで、感情移入しようがないし、共感の欠片もわいてこないのだけれど、
「子供たち怒る怒る怒る」の虐げられているものの必死の抗いと作品から溢れ出す狂おしいまでの熱気や
「生まれてきてくれてありがとう!」と「リカちゃん人間」に見出される一片の光には、納得できるものがあった。
そんな感じで。