男、このか弱き者

サントリー学芸賞受賞の名著『生物と無生物のあいだ』については以前書いたけれど、著者・福岡伸一氏の近刊『できそこないの男たち』(光文社新書、税込861円)を読んだ。

遺伝子の仕組み、個体の発生の様子などから帰結される事実として、生物の基本設計は間違いなく「女」なのだそうだ。36億年前、地球上に生命が誕生してから10億年ほどは女しか存在せず、遺伝情報をシャッフルして環境への適応力を強化する必要から「男」が作り出された。応急措置で無理やり設計変更されたため、男は「できそこないの女」としての宿命を持つに至る。ヒトの男性においても、ガンの発生率が高い、平均寿命が女性より数年短い…などの「か弱さ」は、強引な改造が主原因らしい。

といった解説内容も興味深いが、前著と同じく、単に科学的事実の羅列になっていないのが秀逸。著者の駆け出し研究者時代の体験も踏まえ、科学者たちの発見の過程を追体験できる書き方になっている*1。アイディアの模索、実験での苦心、ライバルとの激しい競争、歓喜から失意へ。トップクラスの科学者も生身の人間に違いないことがよく分かる。中学・高校あたりでも、理系科目の内容をもう少し絞り、発見に至るまでのドラマを盛り込むようにすると、科学好きがもっと増えるのではないか。

本書によると、アリマキ(アブラムシ)はメス単独でも子供を作ることができるらしい*2。生まれてくる子もすべてメス。晩秋の頃、一時的にオスが作られて交尾*3に奔走し、役割を終えるとさっさと死んでいく…。アリマキに限らず、自然界での男の地位は「使い捨ての道具」というのが相場のようで、男の1人としては妙に納得できるような、ちょっぴり寂しいような。

*1:その方向にやや筆が走りすぎのきらいもあるけれど。

*2:「単為生殖」と呼ぶそう。

*3:こちらは通常の「有性生殖」。