京の噺家 桂米二でございます 第13回

内幸町ホールはどういうわけか知らないけれど、米朝一門の落語会がよく開かれる。
ただウイークデイだと、横浜にぎわい座とちがって、仕事が終わってからというわけにはいかないのだけれど、今回みたいに週末にやってくれれば、もちろん足を運ぼうというものなのである。
桂米二を生で聴くのはたぶん二回目だと思うが、引いた感じの芸で私には好ましい。
しかし、落語という芸はそもそも引き芸と言えるのではないか。道具立ては地味なんだし。
もちろん、押しっぱなしでも引きっぱなしでも、笑いが生じるはずはないし、何が引きで何が押しかということを厳密にいい始めると、藪の中に行き迷うことになるが、漫才でいえばおぎやはぎを引き芸といっても異論はなかろうし、FUJIWARAを引き芸という人はいないだろうし。
そういうわけで、知らない人に桂米二を説明するときは、引いた感じの芸ですよ、ということにしていて、それで大体わかってもらえるのではないかと思っている。芸歴の長さを加味すると、ふところが深いと言い換えるべきかもしれないが。
まくらも面白い。今回は、北海道に飛行機でいった話と、携帯の機種変更の話、盲導犬の話。エッセーの味わいがある。実際どこかの新聞に連載を持ってもいたはず。
生で聴くのはこれで二回目だといったが、実は、先に聞いたときのまくらをまだ憶えていたりする。文我と旅行したときの話だったと思う。
演目は
桂 雀太  「道具屋」
桂 米二  「七度狐」
桂 歌之助 「はなしか入門」
桂 米二  「つぼ算」
中入
桂 米二  「景清」
であった。
「景清」は、初めてだったけれど、聞かせどころ、見せどころたっぷり。一日にも奈良で演じたばかりだそうだから、舞台が京都ということもあり、今取り組んでいる話なのではないかと思う。聴き応えがあった。
雀太は、雀三郎の時に続いて二度目なのだけれど、あえていえば、客の笑いを待つようなところがあって、あれはよろしくない。受ける受けないは度外視して、自分のペースでリズムを刻まないと、客も引き込まれない。何様だといわれるけれど、今日の方が前よりよかった。
桂歌之助という人は、2007年に三代目を襲名したばかりだそう。
今回のは新作だったけれど、落語という話芸の中で、どんなことをどこまでやれるかという挑戦みたいなことを感じた。居酒屋の大将の挨拶のところなんか特に。
知らないうちに新しい人が出てきてるんだなぁ。来る9月の22日にお江戸日本橋亭というところにて高座をつとめるそうである。これもでも11回と地道に会を重ねている。
米朝一門の人たち(に限らないのかもしれないが)は、落語で食っていける道を、自分たちで切り開いていく姿勢が立派だなと思ってしまう。
今日も、入口に米二さん自身が立って出迎えていてくれたので、こちらとしては恐縮してしまった。帰りも見送りに立っていてくれたのである。

オードリーと太陽の塔

芸の話のついでで思い出したけれど、今週の未来創造堂にオードリーがゲストに来ていて、突っ込みのほうの若林が、春日のあの立ち方や「てへっ」という顔など、岡本太郎太陽の塔をモチーフに考え出したと話していた。
6年くらい全く受けなくて、頭がおかしくなりかけていたところに、岡本太郎が万博のモニュメントを依頼されたときに、万博のテーマ「進歩と調和」とは全く関係のない「べらぼうなもの」にしてやろうと、あの太陽の塔を作ったという話を何かで読んで、客を笑わせようとするんじゃなくて「何だこれは」と思わせてやろうとして、今のスタイルを作り上げたそうだ。
岡本太郎さんの太陽の塔なんですけど、なんで好きかというと太陽の塔を造るいきさつがすごい好きで。
僕ら、ずっと7年くらい受けなかったんですよ、ライブとかでまったく。
笑わそうとがんばってんのに全然受けないんで、頭がちょっと変になってきちゃって、6年間すべり続けると。
そのときちょうど、岡本太郎さんの本とか、美術館に興味もちはじめて。で、その太陽の塔を造った経緯が、『進歩と調和』っていうのが大坂万博のテーマで、岡本太郎さんがオブジェを作ろうとしてたんですけど、調和と真逆のものを逆につくってやろうということで、一本の塔が上からにらみつけてるような調和と真逆のものを造ったんです、というのを本に書いてたんです。
『伝わらないことをやれ』というのをすごい岡本太郎さん、本で言うんですよ。
で、僕それすごい感化されちゃって、受けないことを造ればいいんだと思って、で、ちょっと春日にいろいろこう頼んでですね、ちょっと太陽の塔みたいな立ち方をしてくれって頼んだんです。」
「うん」
「胸を張って、こう手をこういう風に上げてたら、こういう風に上げてもらってたら、あまりにもこの手が邪魔で、センターマイクからだいぶ離れちゃうんですよね。で、ちょっとおろしていってこういう感じになって、『へ』という顔とかも、この(太陽の塔の)真ん中の顔してみてって」
「ちょっとやってみて」
「へっ」
「こういうモデルがいたんですね。岡本太郎さんと太陽の塔から」
「そうです。で、笑わそうと思ったらほんとにむずかしいんですけど、岡本太郎さんは、見る人がちょっとイラッとするような、『何だこれは』って思うものを造ろうとするというのを本に書いてたんで、イラッとさそうと思ったらすごい簡単なんですよね。すっごいイライラしてるんですよ、お客さんが。
普通、ライブの出待ちって『面白かったです』っていうために待つんですけど、おれら文句言う出待ちの人がいっぱいいたんですよ。」
「ふざけんなって。何やってんのとか」
「そうなんです。私たちお金払ってライブに来てるんですけど、ゆっくり出てこられて、見下ろされて『へッ』っていわれたら、バカにされてる気がするんですけどっていわれて、でも、僕はそうしようと思ってたんで、しめしめと思いながら、やってて」
「これだなって匂いがそこでわかったんだ」
「そうなんです。」