ギャップ

 馴染みのJazzBarのママから教えてもらったユッコ・ミラーというジャズサックス奏者。さっそくYouTubeで見たのだが、これがなかなか素晴らしい。

 ユッコ・ミラーは日本人の女性で本名は大西由希子。 年齡は25歳という若さ。髪をピンク色に染め、ワンピースのミニスカート姿、小柄だからか踵の高い靴を履き、声は高く子供っぽい、いかにも現代のキャンキャン娘のようだ。

 ところが、演奏はエリック・ドルフィーばりに前衛っぽくバンバン吹きまくる。現代のキャンキャン娘が1950年代〜60年代のモダンジャズの世界にタイムスリップしたかのようで、このギャップが何とも面白い。

 たとえば、知的で堅物で普段から真面目一本やりのような人物が、恋愛にのめり込み、ベッドの中では狂ったように振る舞うとしたら、そのあまりのギャップに、驚きとともにある種感動すら覚えるだろう。

 以前の記事でも書いたが、いかにも変態らしく見えるのは真の変態ではなく、真の変態とは見かけはまったく普通でさりげない。普通にしか見えない人間がじつは変態であることに驚きが生じるわけである。

 ギャップとはまさに驚き。ギャップに善悪も正誤もなく、そこには好き嫌いの違いがあるだけ。そしてギャップとは言葉を変えれば詩(ポエジー)。「遠く離れた存在同士がぶつかり合うことで新たな火花が飛び交い人々に衝撃を与える」とは詩の理論の一つとして有名、距離感があればこそギャップなのである。

 私は昔から詩が好きで、だからギャップあるものに興味を抱きつづけ、それを探し求めたいと思う。

 ユッコ・ミラーに話を戻せば、彼女が長く活躍するためには今のスタイルをいつまでも維持しつづけるのは困難。ギャップは瞬間でこそ生きる。だから今後様々なスタイルの変遷に挑むだろうが、なにより重要なのはサックス奏者としての実力。気を衒い、見かけに埋没しないよう気をつけてほしい。