ハリ・セルダンになりたくて

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2009-03-01

[] 一年間「経済学入門」を担当したので最後に「まとめ」

2008年4月からさる私立大学で1〜2年生向け(全学部対象)に経済学入門の講義を担当させていただきました。

1月に筆記試験を実施し、採点し、先日「採点に納得がいかないので調査してほしい」という学生さんからの成績調査依頼があり、再調査し回答しました・・・と言う訳でお陰様ですべての日程が無事に終わりました。

ここで一年を振り返ってみたいと思います。

[経済学入門は役に立つ!]
この1年の講義で常に心がけたのは「経済学は現実の経済について理解するのに役立つ」ということを大学の1〜2年生に理解してもらうことです(世間には「経済学なんて何の役にも立たない」と思っている人も少なくないようですが、その考えは間違っていると思います)。

経済学を学ぶことで「なぜこんなに原油価格は上がったり下がったりするのか?」「なぜ大学生の就職活動は楽だったり大変だったりするのか?」「景気が悪いってどういうことか」「景気が悪いときには政府や日銀はどうすべきか」という疑問に対する答が見つかるということを理解してもらえるように努力しました。

[トンデモエコノミストに抗して]
この一年の講義で常に気をつけたのは「欧米で標準的な教科書」(スティグリッツ、マンキュー、クルーグマン)の内容から逸脱しないことです(教科書は「スティグリッツ 入門経済学<第3版>」を用いました)。

欧米の(というか米国の)経済学入門教科書は非常に標準化されていて、どれを読んでも含まれている内容はほぼ同じです(もちろん表現・説明の仕方は異なります)。

この一年、講義をするにあたって常に標準的な教科書と異なることを教えないように気を付けました。トンデモエコノミストは「これは欧米では常識だ!」などと言いながらをblogや雑誌に書いていますが、彼らを反面教師として講義は常に標準的な教科書に沿って行いました。

[重要なのは直観的理解]
経済学入門で重要なのは数式を多用した経済学の理解ではなくて、むしろ直観的な理解の方だと思います。

いや、矢野がこれを言うとものすごく意外そうな顔をされるので、傷つくんですがw*1

経済学の論文はほとんどの場合とても数学的に洗練された形式で書かれているのですが、その基本的な発想の多くはとても直観的に分かりやすいものだと思っています*2

だから、講義では常に数学的な形式は完全に無視して、できる限り直観的な説明を心がけました。そういう講義の仕方が学部1〜2年生向けの講義では一番良いと(少なくとも現時点では)考えています。

[日本の最新の時事ネタやデータを使用する]
できる限り日本の最新の時事ネタや最新データのグラフを講義で使用するように常に心がけました。

アメリカで書かれた教科書の翻訳の場合、解説例やデータがアメリカのものであることが多くて日本ではなじみにくいと思ったので、講義のパワーポイントではできる限り日本の例に置き換え、日本の時事ネタや最新データを用意して解説するようにしました。

そうすることによって「経済学は現実の経済を理解するのに役立つ」ことを学んでほしかったのですが、実は毎週データや講義資料を用意するのがかな〜〜〜〜〜り大変でした_| ̄|○

[個人的希望]
個人的な希望としては今後「統計学入門」「計量経済学入門」「上級マクロ経済学(要はDSGE)」「マクロ計量経済学(DeJongのStructural Macroeconomicsにあるような内容)」を教える機会があればうれしいと思っています。どれもとても面白い分野ですので、学生さんたちにワクワクしてもらえると思っています。

[個人的感情]
矢野はいつも個人的な感情は表に出さないようにしているのですが、この講義の最終回の日はとてもつらかったです。矢野の講義を受けた学生さんたちは主に1年生から2年生なのですが、彼らがこれから体験する過酷な現実を思うと泣きたい気持ちでした。

・・・いや、40歳近いおっさんなので泣いたりしませんけど・・・

最終日はいつもより少し早めに校舎に到着し、しばらくどんより曇った空を眺め、そして、楽しそうなふりをして教室に入りました。

これからの彼らの過酷な状況を生み出すことになる原因の大部分はマクロ経済政策の失敗です。その失敗の責めを何の責任もない彼ら若い人たちが集中的に受けなければならないという事実を考えると今もとてもつらいというのが正直な思いです。

[最後に]
この一年の講義が成功したかどうかは・・・はっきり言って自信がありませんが・・・とにかく矢野自身のできる限りのことはしました・・・・まあ、後は皆さんに評価をお任せしたいと思います。

講義資料は以下のサイトからダウンロードできます。いつか消してしまうかもしれませんが・・・当分はこのまま置いておくつもりです。
http://koitiyano.hp.infoseek.co.jp/rikai/

少しでも皆さんのご参考になれば幸いです。

追記(2008年3月20日):少し補足をしました。
http://d.hatena.ne.jp/koiti_yano/20090320/p1

*1:いつも数学的・統計学的にテクニカルな論文ばかり書いているせいだと思いますが・・・

*2:もちろん若干の例外はあると思いますが。

なすなす 2009/03/01 14:30 私が通っていた大学でも、経済学は現実には役立たないと言ってはばからない先生が多くいました。また、経済学者でない有名な方々から、経済学は現実の役に立たないという話が多く寄せられています。
私自身、経済学部にいながら経済学は現実の分析の役に立つという確信にいたるのは、多くの経済書を読んでからでした。
(そのことを知ってしまったお陰で、人生がとても素敵な方向に曲がってしまいましたがw)

学問に対する真摯な姿勢、それを現実に応用しようとする熱意、そして人間に対する愛情、私の理想とする大学の先生像であり、経済学者像です。

矢野さんの授業を受けることはできませんでしたが、講義資料がアップされる時間がとても幸せな時間でした。
矢野さんの生徒ではありませんが、お礼を述べさせていただきたく思います。

1年間ありがとうございました。そして、1年間お疲れ様です。

「統計学入門」「計量経済学入門」「上級マクロ経済学(要はDSGE)」「マクロ計量経済学(DeJongのStructural Macroeconomicsにあるような内容)」の講義資料がアップされる日を心待ちにしておりますw

だいだい 2009/03/01 16:17 一年間お疲れ様。来年はやらないの?

koiti_yanokoiti_yano 2009/03/02 06:53 なすさん
お気持ちよく分かります。

だいさん
来年度のことは来年度になってからw

takanekido2huntakanekido2hun 2009/03/02 07:29 機会があったら、いつか経済学を学びたいなと思いつつ、、、
スティグリッツも本棚にありますが、、、

雲のパン屋雲のパン屋 2009/03/02 11:38 「これは欧米では常識だ!」
これは直感ですが、欧米は広いのであり、ある地域(日本の面積より広いかも)のデータが上記の常識に当てはまる場合もあると思う、
が日本に当てはめた場合、ステグリッツだろうがマンキューだろうが、日本の経済環境を考慮して考えて書いていないだろうから、欧米での知識を当てはめてうまくなどいくのだろうかと心配だ。

p.s.
というか、欧米、アルゼンチン、チリ、韓国、スエーデン等の経済対策でもし有効だった物があったとして、それを日本に当てはめて考えることは何か違う気がするが・・・

toitsumetoitsume 2009/03/02 20:59 はじめまして。法律を研究している者です。
最近「リフレ派」の話が身の回りで増えてきて、高橋洋一先生の新書を読みました。高橋先生の本それ自体は非常に興味深く、とても面白く拝読させていただいたのですが、マクロ経済学や金融政策などには土地勘がまったくなく、細かい点で分からない事柄などもありました。そこで本屋などでマクロ経済の入門(の入門)になる本を物色していたところだったのですが、ちょうどその折、このエントリにより先生の講義レジュメを拝読させていただくことが出来ました。後期分のレジュメだけを拝読させていただいたのですが、非常に分かりやすく、また、高橋先生の本を読んだ折に感じていた疑問(完全に私の勉強不足ですが)のいくつかを解消することが出来ました。どうしても電車の中などの空いた時間での勉強になってしまうのですが、今後、先生が授業で推奨されていたステグリッツやマンキューの本なども、購入して読もうと心新たにしたところです。
矢野先生の授業を受けられた生徒のみなさんはとても幸せだろうな、と第三者ながらとても感じるところです。今回は講義レジュメを拝読させていただき、本当にありがとうございました。

Fellow TravelerFellow Traveler 2009/03/02 22:53 矢野さんのいいたいことは、
1.人はインセンティブに反応する
2.ただの昼飯はない
はほぼどこでもあてはまるということ。あるいは、(ギッフェンやらヴェブレンやら特殊な財を除けば)需要曲線はほぼどこでも右下がりになるということでしょう。

学界内でこそ学界内でこそ 2009/03/10 11:42 >経済学の論文はほとんどの場合とても数学的に洗練された形式で書かれているのですが、その基本的な発想の多くはとても直観的に分かりやすいものだと思っています

そもそも「数学いじくったら、なんかようわからんけど、おもろい結果出ました」じゃ学界内でも評価されないですよね。(まあ、「ようわからんから、少しマイナーになるけど、数理系なところに出しとくか」、ということもあれど。)あと、プレゼンテーションでも、「じゃあ直感的にどうしてなのか」が重要なところだし。イントロで言ってた大枠の直感と、その後のモデルの説明がつながってないと、これまたプレゼンが紛糾するし。